“いま”の空気をキャッチし、時代を分析することに長けたコラムニストで作詞家のジェーン・スーさん。どのように「平成」という時代を捉え、キャリアを築いてきたのでしょうか。その道のりを振り返ってもらいました。「令和」に切り替わるタイミングでお聞きした、ジェーン・スー流の新しい時代を生き抜くヒント、とくとご覧あれ!
ジェーン・スーさん
1973年、東京生まれ。コラムニスト・作詞家。著書に『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(講談社エッセイ賞受賞)、『生きるとか死ぬとか父親とか』などがある。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のパーソナリティを務める。
「とりあえず」では就職できなかった時代
——今日はひとつ、「女性と仕事」にまつわる新語・流行語とともに、平成を振り返っていただきたいと思います。まず、「就職氷河期」が流行語に選ばれた1994(平成6)年、スーさんは就職活動がスタートする大学3年に進級されましたね。
ジェーン・スー(以下ジェーン):よく覚えています。当時はインターネットがないから応募はすべてハガキ。就活本をもらってきて、付録の資料請求ハガキを100通くらい出しました。半分も返ってこなかったんじゃないかな。
——最終的には大手レコード会社に入社され、プロモーターの道に進まれました。「就職氷河期」ではことさら華々しく映りますね。
ジェーン:やりたい仕事、興味のあるジャンルに関してはスムーズに進んでいましたね。音楽好きだったので、就職に際しても「レコード会社かな」って考えるくらい短絡的で。CDを売るための宣伝部隊に入りたかったんです。
——やりたいことの輪郭がハッキリしていたから、就職活動がうまくいったんでしょうか?
ジェーン:私個人のキャラクターと、拾ってくれたレコード会社の風土がたまたまぴったりと合致したんですよ。でもそれくらいの強度でマッチングしないと就職できないキツい時代だったともいえます。「なんとなくこの会社に行きたい」くらいのスタンスじゃダメなんですよね。
私自身、“とりあえず”で受けた企業はどこにも受かりませんでした。面接でもアピールしたいことがないから落ちても悔しくないんです。そういう意味では「やりたいことが分からない」「とりあえず就職」みたいな人にとって特に厳しい世の中だったと思う。
——当時を俯瞰して何を感じますか?
ジェーン:バブルが弾けたあとで「景気が悪い」と言われていましたけど、社会のシステムや仕組みの不具合に気づいていない人が多かったんじゃないかな。現代ならネット上で情報をキャッチできますけど、当時はない。だから「100通もハガキを送ったのに全然受からないのは、私に致命的な欠陥があるからだ」と自分を責めてしまう人がいた。私も、自分のせいだと思っていました。通っていた大学の知名度とか。
一方で、時代に潰されなかったタフな人たちは逆境をバネに伸びていきましたよね。自分の強みをつくる方向にうまくシフトして。容赦ない時代だったと思いますよ、ホント。
独身女って楽しい! 人生を謳歌する「負け犬」たち
——2004(平成16)年の「負け犬」は、折しもスーさんが30代に突入したタイミングで発生した流行語です。ご自身をはじめ、同年代はこの言葉をどのように咀嚼していましたか?
ジェーン:酒井順子さんの著作タイトル『負け犬の遠吠え』から受けるイメージが、なにぶん強いですよね。自分が「負け犬」呼ばわりされたように感じて、読む前はイラっとしました(笑)。そういう意図をもって付けられている、秀逸なタイトルなんですけれど。
でも読んでみると酒井さんが非常に“平熱”で、自分たち「負け犬」を淡々と客観的に描いていらっしゃって。彼女たちは結婚せず子どもを産まないことで世間から一元的にジャッジされ、時に後ろめたさを覚える。でもいま読み返してみると……余裕があって決して切羽詰まっていないですよね。結婚や出産を選択しない理由も、社会から期待される女性としての役割を全うしようとすると、これまでに築いたキャリアや自己実現から遠ざかっていくから、というのが透けて見えます。
——ジレンマですね。
ジェーン:これも社会のシステムや仕組みが絡んでいますよね。でも当時は構造的な問題は広く語られていなかったし、著作にもそうしたトピックは登場していなかったように記憶しています。酒井さんは当時ご自身を“負け犬”としましたけど、あれ以降シングルで子どものいない女性は増えていますから。
——15年前……先見の明に震えます。
ジェーン:『負け犬の遠吠え』を読んだあと、都会に生きる独身女は楽しい存在だと励まされた気がしました。結婚や出産を選ばない理由はそれぞれあるけど、それは不幸せではなく「人生を楽しむ」方向にシフトしているんだと。ただ……酒井さんは著作で絶対に“言い切らない”んですよね。
「こっちにおいで」「あれが楽しいよ」「そんなのダメだ」とは断言しないんです。酒井さんが負け犬党の旗を振っているのかと思って走っていったんだけど……そこには誰もいなかった!
——肩透かし!(笑)
ジェーン:ホントそう(笑)。そこに答えはないんです。『私がオバさんになったよ』の元になった対談で、酒井さんご本人にはお伝えしたんですけどね。自分で決める・考えることが大切なんだと読んだ当時は気づけませんでした。でも経験を重ねるうち、「旗を振ってくれる人にフリーライドするだけではいけない」と分かってからは、ひたすら“感謝”ですよね。
※後編に続きます。後編はこちら⇛
ジェーン・スーさんの最新作『私がオバさんになったよ』では、光浦靖子さん、山内マリコさん、中野信子さん、田中俊之さん、海野つなみさん、宇多丸さん、酒井順子さん、能町みね子さんというわが道を歩く8人とスーさんが対談。“いま”について語り尽くします。
◎こちらの本を、3名様にプレゼントいたします。ご応募は、後編から。
撮影/キム・アルム、取材・文/岡山朋代

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