医師、板前、パイロット、鳶職……。
近年、職業における性別の垣根もだんだんなくなってきています。MASHING UPは、「男性の仕事」とされてきた業界への扉を叩き、誇りを持って仕事に日々情熱をそそぐ女性の働き手たちを「飛びこんだひと」として紹介します。
第二弾は、全国にたった数十名といわれる女性杜氏のうちの一人です。
麹造りをしている岡崎美都里さん。酒造りの要といわれるほど大切な工程だ。
岡崎美都里さん(岡崎酒造株式会社)
Q:職業を教えてください。
A: 日本酒製造業の醸造責任者(杜氏)です。
長野県上田市で、寛文5年(1665年)から地酒を造り続けている「岡崎酒造」の杜氏です。
Q:なぜその職業を選んだの?
A: 家業だったから。
家業だからです。三姉妹の末っ子ですが、小学生のころから私が跡をとると決めていました。ただ、造り手ではなく、親と同じように経営者を想定していました。ところが26歳で実家に戻ったとき、先代の杜氏から引退をしたいと言われ、急きょ経営者ではなく造り手(杜氏)の道を選びました。
Q:その業界に飛びこむのに恐怖心はありませんでしたか?
A: 酒蔵の仕事を知らなかったので、逆に不安もなかったんです。
両親は経営者だったので、杜氏の仕事がどんなに大変なのかは知らずにいました。何も考えずに酒蔵に飛び込んだので、そこから大変さを知ることになりました。今思えばかえって良かったのかもしれませんね。
近年の日本食ブームに合わせ、海外でも日本酒の人気が高まっている。(Image via Shutterstock)
Q:周囲の反応はどんなものでしたか?
A:両親の思いが身にしみました。
両親は驚いていましたが、とても喜んでくれました。ただ、とても過酷な仕事なので、心配していましたね。日本酒業界での経営は楽ではないですが、「お金のことは心配しなくていいから、おいしいお酒を頑張って造ってね」と言ってくれたのを覚えています。
Q:性別による壁を感じたことは?
A:出産や育児との両立が大変。コツは人に頼ること。
造りの期間は10月から4月。微生物が相手なので、冬の間は常に酒造りと向き合う形になります。妊娠・出産・子育てをしながらの酒造りは、本当に大変でした。それを思うと、やはり男性は仕事一本でいけるのでうらやましいな、と思いますが、「困ったことはすぐに人に頼む」ことがコツだと思います。
家事はパートナーに頼む、子育ては自分の親に頼む、酒造りでは重労働を一緒に働いている男性にお願いするなど。
蔵を代表する「亀齢 大吟醸」は、伝統ある関東信越国税局酒類鑑評会の吟醸部門で 最優秀賞を受賞した(2015年)。
Q:仕事のやりがいはどんなことですか?
A:じっくり向き合えば、結果にあらわれること。
微生物が相手なので、気象の変化やお米のでき方によっても手間を変えていかなければいいお酒ができない点。子育てと似ていて、タンク1本ずつに個性があって、いいところを引き出しながら、微生物が過ごしやすい環境を整えていくと、必ずそれにこたえてくれます。
Q:この職業を目指す人にアドバイスをするとしたら?
A:自分にしかできないこと、人に頼むことの割り切りが大切です。
とにかく「自分にしかできないこと」と「人に頼めること」を判断して、自分にしかできないことをする! とくに子育てをしながらの仕事は、割り切りが大事だと思います。できないものはできない、と周りに言うべき。
私は子育てを中心に置いて、酒造りを考えていました。母乳をあげる、熱が出たから病院に連れて行く、参観日に行く、話をきく、一緒に蔵で作業をする……などなど、子育てはその時の自分にしかできないことなので、そちらを優先させていましたね。
また、1か月後や1年後などの近い目標をザックリ決めて「こうなったらいいなー」をイメージしておくと、周りの協力もあってそちらの方向に進んできます。万が一違う方向性になってきても、それを受け入れることも大切だと思いますね。
写真/岡崎さん提供

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