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彼にしかできないラップ、彼にしか書けない歌詞がある。吃音症のラッパー達磨が「音文」に込めた思い

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「ラップは自分の経験や思いを歌詞にする。誰もが共感できるような、わかりやすい歌詞じゃないかもしれない。でも、自分自身のことを正直に歌えるのがラップの魅力

18歳のラッパー、達磨さんはそう言う。堂々と、まっすぐにそう話す彼は、吃音症で悩んできた。

吃音とは、話の途中で言葉がつまってしまうなど、苦手とする音や言葉を発語しにくい症状のこと。

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達磨さんは、15歳頃にその症状が顕著になった。レストランで注文したいものがあっても、うまく発語できないメニューは諦める。吃音であることが生活に影響を及ぼしていく。

だが、彼は「友達には恵まれた」と微笑む。言葉が出ないときも、友達はじっと待ってくれる。「吃音が酷いときも、誰もなんにもいわなかった。友情は全然変わらなかった」。

運命みたいに、ラップに出会った

友人と過ごしていた16歳の誕生日に、「ラップやってみようぜ!」と突如盛り上がった。それまでラップをしたことはなかったが、「いい音楽だな、かっこいいな」と思っていたという。「ラップって不思議で、聴いているうちに自分もやりたくなるんです」。

初めてラップをしてみたら、とても楽しかった。聴くのとやるのとは全く違って難しかったが、だからこそ彼はその日からラップに夢中になった。

達磨さんは、ラップでは吃音の症状が出ない。

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僕はリズムに乗せると、言葉がスムーズになる。そういう人は、結構いるそうです。最近知ったのですが、ラップは吃音症の治療法にも使われているらしくて。僕はそんなこと全然知らなかったけれど、偶然、運命みたいにラップに出会った

熱中して友人たちとラップをする日々が続いた。その頃、彼が取り組んでいたのは、即興で言葉をつむぐ「フリースタイルラップ」だ。何人かで集まってフリースタイルラップを行うことを、「サイファー」という。

「今日学校で楽しかったこと、先輩に腹が立ったこと。そういう何でもない日常の話を、みんなでラップするんです」

サイファーではそのとき言いたいことを、思う存分、ラップにのせて発信できる。

「韻を踏んで、パンチライン(インパクトのあるフレーズ)を使えば、気持ちを強く表現できる。すごく楽しかった。多分僕は、普通の人の数十倍、数百倍、ラップを楽しめている。苦手なア行もカ行も濁音も、ラップをしているときは関係ない。“俺はいま、絶対にどもらない”と思えるから、ラップをすごく楽しく感じることができるんだと思います」

マイナス要素も、使い方によってはプラスになる

楽しんでいるうちに、目標ができた。それは「BSスカパー!BAZOOKA!!! 高校生 RAP 選手権」に出場すること。「僕にはチャレンジするチャンスが5回あったんですが、出場できたのは1回だけ。それも初戦敗退したんです」。

結果を残せなかったのは悔しかった。しかし、初戦敗退したときに、大きな転機があった。達磨さんはこう歌った。

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©BSスカパー!BAZOOKA!!!高校生RAP選手権

「さっきもトイレ聞くのもどもっちまった いつもそういう経験してる ステージ上で声にした経験 俺のラップは俺にしかできねえ!」

すると、対戦相手がこんなふうに歌ったのだ。

「その経験、曲にしやがれ!」

ライバルのその言葉にハッとさせられ、その後、達磨さんは初めての作詞に取り組む。それが「音文」という曲だ。

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©BSスカパー!BAZOOKA!!!高校生RAP選手権

「音文」では、自分の吃音症のことを書いている。

「それまではそのときの気持ちを短く伝えるフリースタイルラップばかりだったけど、自分の経験を深く伝えるために、詩を書くことにしたんです

「前から吹いてくる向かい風も
進む方向を変えれば追い風に変わる」

——「音文」より引用

「音文」の最後の歌詞に、思いを込めた。

「僕は、吃音症だからラップしているわけじゃない。ラップしていて、たまたま吃音症だった。でも、それだって武器になる。ラップって自分のことを歌うものだから。自分にコンプレックスがあったり、なにかマイナスに感じる要素を持っていたりしても、それは使い方によってプラスになるんだよ、ということを伝えたかった」

達磨さんにとって「伝える」とは?

最近では、ラップを通して友人も増えてきた。ツイッターで「これから公園で、サイファーするよ、興味ある人は集まって!」と声をかければ、10代から40代まで、多様な人々が集まってくる。そして、全員でとことんラップをする。

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「本当にずっと、延々ラップするんですよ(笑)。みんなヘトヘトになります。最長記録は、7時間! そうやって友達になっていくんです」

そこでは誰もが素直に自分の気持ちをリリックにし、表現できる。誰かが耳を傾けていて、誰かが応えてくれる。ラップに飽きることは、きっとないだろうと達磨さんは感じている。

今の達磨さんにとって、「伝える」こととは何だろう?

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伝えるというのは、共感してもらうことだけじゃないと思う。共感できない人もいるのだし。たとえば、吃音を武器にラップするなよ、といわれることもあります。それもひとつの意見で、僕は受け止めています。僕は、伝えるということは、共感されてもされなくても、自分の思いを言う、発信するってことだと思う」

ラップを通してコミュニケーションをし、友達に囲まれ、自分の思いを言葉にしてきた彼。「達磨」という名前にはひとつの思いが込められている。

「友達と磨いてきたから、達磨。ぼくひとりじゃない。友達と一緒に、頑張ってこられたんです」

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音文

[作詞]達磨
[作曲]k.TAMAYAN/玉谷研太

拝啓、2年前の僕へ
現在の僕から過去の自分へ
話をしていて吃りそうになると
まあいいやと誤魔化す日々ですか
人に吃音がバレるのが恥ずかしいだなんて
隠して生きてる方がよっぽど恥ずかしい
ホコリの様に役立たずな物でも
必死に生きれば誇りになります
吃る事が恥ずかしい情けない
その感情すら声にならない
上手く答える事の出来ない質問等
周りの人とは違う俺は吃音症
自分じゃ無理だと諦めるなすぐに
逆境の中で生きることは苦しい
それでもラップに出会えたことが救い
ラップで始める腐りきった人生の続き

拝啓、自信を持った僕へ
現在の僕から過去の自分へ
音楽も上手くいかず酷くなる吃音
やっと持てた自信もすぐに折れます
自分を救ってくれた音楽で
苦しむくらいなら音楽をやめたいと
思った僕の心を救ったのは
やはり音楽でした
ラップが与えた恵みの雨は止み
溜めた幸せも流れる、せをはやみ
結果の出ない現状に心が病み
一寸先どころか目の前が闇
夢の叶わぬ片目の達磨
それでも音楽が支えのはずだ
幸せを沢山、抱えた奴が
俺の不幸を鼻で笑うな
俺は普通に友達と話したいだけ
好きな食べ物を普通に注文したいだけ
神様って奴は取り柄のない俺に
普通の事すらさせてくれないんだ
吃った俺を笑ったコンビニの店員
この野郎、笑いたきゃ勝手に笑ってろ
お前の馬鹿にした吃音を武器に
絶対にお前よりも幸せになってやる

拝啓、拝啓、神様っているの
何で俺をこんな目にあわせたの
ラップならこんなに言葉が溢れるのに
書き上げた文は読み上げられない
俺は書いた文の中で韻を踏みだした
ラップにのせた文なら音に変わった
吃音を背負って、どう歩いてくか
声にならない文章を音楽に変換

拝啓、天国の貴方へ
今、僕を見てくれていますか
僕が大好きだった貴方が
死ぬ前にお別れをしたかったけれど
あの時、吃ってしっかり話せなかった
言えなかった最後の一言は
ラップで言うしかないだろう
今だから言える、貴方にありがとう

拝啓、死ぬ前の僕へ
現在の僕から未来の自分へ
吃音で良かったと言えますか
最後にそう思えるならば幸せです
端から変わらないなら弱さは弱さ
でも進める道は1つじゃないから
前から吹いてくる向かい風も
進む方向を変えれば追い風に変わる

撮影/楠本 涼

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濱野ちひろ
‘00年早稲田大学第一文学部卒業後、ライターとして活動開始。雑誌、ウェブサイトなどでインタビュー記事や旅行記事、映画評、アートに関する記事などを執筆。’18年、京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了。現在は同大学大学院博士課程に在籍。得意ジャンルはセクシュアリティ、ジェンダー。構成した書籍に『15歳の寺子屋 宇宙少年』(野口聡一著・講談社)、『「サル化」する人間社会』(山極寿一著・集英社インターナショナル)など。

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