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「フェミニスト=怖い人」というイメージはなぜ? 佐久間裕美子さん、野中モモさん、速水健朗さんが語りました

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日本ではまだまだネガティブなイメージがつきまといがちなフェミニズムについて、カジュアルに語らうトークイベント『日本のフェミニズムは間違っている?』が2019年6月6日、渋谷のBOOK LAB TOKYOで開かれました。

登壇者はニューヨークで活躍するライターの佐久間裕美子さんと翻訳家の野中モモさん。モデレーターに、ライターの速水健朗さんです。

さまざまなかたちで関わってきた「フェミニズム」

速水:まずは自己紹介を兼ねて、最近のお仕事についてお話しいただけますか。

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翻訳家の野中モモさん。

野中:私は2017年にアメリカでフェミニズムの論客として注目を浴びているロクサーヌ・ゲイの『バッド・フェミニスト』という本を翻訳しました。ロクサーヌ・ゲイは、1974年生まれのハイチ系アメリカ人女性です。大学で教員をしながら人種・性別・容貌差別など、いろんな社会の問題と個人の経験とを結びつけた文章をネット媒体などに発表し、支持を集めました。

また、摂食障害やボディ・イメージの問題に焦点をあてて彼女が自らの半生を綴った2作目の『飢える私 ままならない心と体』の翻訳もさせてもらって、今年刊行されました。

今年はレイチェル・イグノトフスキーの『歴史を変えた50人の女性アスリートたち』も翻訳しています。そういう女性の問題を扱った本の仕事をしていることから、今日は呼んでいただきました。

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ニューヨーク在住でライターの佐久間裕美子さん。

佐久間:私は1996年からアメリカに住んでいて、会社勤めの後ライターとして独立しました。フェミニズムについてちゃんと考えたのは遅かったと思います。

2014年に出した『ヒップな生活革命』という本に対して、女の人があまり出てこないという声があり、うっかりしていたなと思っていました。その頃、女性についての連載をしませんかと言われたんです。

最初は軽い気持ちで、周りの面白い女性たちについて書いていました。でも、アメリカの大統領選で「女であること」が突きつけられる社会状況になってきて。

結果的に、フェミニズムについて真剣に考えよう、自分が学んだことを読者とシェアしようと思うようになり、それらの記事を本にしたのが『ピンヒールははかない』です。

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モデレーターを務めた、ライターの速水健朗さん。

速水:僕は2014年に『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』という本を出しているのですが、ジャンクフード好き対オーガニックフード好きというように、日常のなかでアイデンティティの対立ってありますよね。

政治性というのは政党選択とかじゃなくて、もっとカジュアルなことだと捉えています。だから『ヒップな生活革命』で、似たスタンスで書いている佐久間さんに共感を覚えました。

日本では、主張を「恐怖」と捉える?

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速水:「フェミニスト=怖い人」というイメージを持っている人が少なくないそうですが、どう思われますか?

野中:日本の場合フェミニズムに限らず、あらゆるイズムを恐怖する傾向がありますよね。そして、自分は主張があるということに及び腰になる。

佐久間:ある時期まで、私自身もそういうイメージを持っていたかもしれません。ニューヨークに住むようになってから、いろんな人を見てその考えも変わりましたね

速水:さきほど佐久間さんは、フェミニズムについて考えるようになるのは時間がかかったとおっしゃいましたが。

佐久間:セクハラ発言みたいなことは経験していましたが、それが「女性」という人口の半分が共有する、制度上の問題に基づく歪みだとは理解していなくて。なかにはそういう発言をしてしまう人もいる、という個人的な問題だと思っていました。

野中:昔は情報を共有しにくかったというのもありますよね。私が就職活動をした20年ちょっと前ってギリギリ、インターネットが活用されていない時代で。ハガキで資料請求すると、男性にしか会社案内が届かないみたいなことがあったけど、当時はネットが普及してないからそういった不公平が蔓延しているということ自体があまり共有されていませんでした。だから協力しあって対策を考えることも難しかった。

マイノリティが権利を勝ち取ってきた、米国の歴史

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佐久間:アメリカだと、白人男性以外は女性、黒人、移民、ジェンダーの意識など、マイノリティのタイプにもいろいろあります。黒人の大統領が生まれたりして、社会として前進したような気持ちを持ってしまっていたのだけれど、蓋を開けてみればそれに反発を感じる人が大勢いて、根強い差別があったことがわかった。そういうなかで、今インターセクショナリティの必要性が言われているけれども、あらゆる人間のスタート地点を一緒にしましょうという意識が浸透してきました。

野中:インターセクショナリティという単語は、「交差性」とか「横断性」と訳されています。黒人やゲイなど、それぞれのアイデンティティごとにグループを形成して要求を通すことで社会は変わってきました。でも、同じマイノリティ集団内でも収入、人種、性別などが理由で置き去りにされる人が出る。そこを無視しないで、複合差別があることを意識してやっていこうという動きです。

速水:アメリカの場合、公民権運動など、少数派にどう権利を与えるかという議論を続けてきた長い歴史がありますよね。

「不満を言ってもいい」と気づくことから始める

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速水:いま日本では、ロクサーヌ・ゲイの著作だとか、韓国のチョ・ナムジュ著の『82年生まれ、キム・ジヨン』など、フェミニズム関連の海外のミリオンセラーが翻訳され、売れています。日本発のものが少ないことに関してはどう思われますか?

野中:今の日本は、女性が「不満を言ってもいいんだ」と気づく段階なのかなという気がします。あたりまえとされてきたことが、あたりまえではなかったという認識が共有されつつある段階、というか。

速水:でも、女性を不利に扱った医学部不正入試問題が発覚したことについて、医大を受験したことがある女性たちからも「今頃騒いでるけど、最初から知ってた」という話が出てくる。そういうことが慣れっこになっている部分がある。『82年生まれ、キム・ジヨン』の解説でライターの伊東順子さんは、韓国なら「即時に2万人の集会が開かれているだろう」と書いています。家族構成とコミュニティのあり方でいうと似た価値観を持つ韓国と日本で、それだけの差が生まれているという指摘だと思うのですが、いかがですか。

野中:主張しないように小さい頃から押さえつけられて育ってきたということでしょうね。学校、家庭、メディア、全てから

痴漢に遭いたくなければ、スカートを履かなければいい?

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速水:お二人は周りから「これは男の子がやるものだから」と言われてできなかったことってありますか?

佐久間:私は格闘技を習いたかったのですが親に止められました。自衛ぐらいはできるようになりたいと思ったんだと思います。ずっと電車通学で小学生の頃から痴漢にあっていたから、自分の身は自分で守りたくて。いまだに痴漢は深刻な問題で、性的暴行だってことをわかっていない人が多いですが、そもそも他人のものを断りなく触ったらダメっていう単純な話ですよ。

参加者Aさん:私も韓国から日本に来て以来、何度も痴漢の被害にあっています。会社の人に言うと、スカートをはかなければいい電車に乗らなければいいと言われてしまいました。同じ経験をしてきたはずの女性からです。

佐久間:韓国と日本との差はなんだと思われますか?

参加者Hさん:韓国でも主張できる人は少ないですが、江南駅女性殺人事件がきっかけで変わってきました。被害者は女性だからという理由だけで殺されたんです。それ以降、女性を軽視するのを許さないという動きが大きくなりました。

速水:韓国は、80年代という近い時代に民主化運動が展開されて、その成功体験からものを言う文化がある。日本は逆に学生運動をしていた人たちの挫折から、「主張しても仕方ない」という風潮に繋がっていったのかもしれないですね。

野中:学生運動をしていた世代はバブル時代には社会を動かす立場にいたのに、目先の儲けばかり追いかけて社会のためにできることを十分にやらなかったのではないか、という思いがあります。よくバブルのイメージとして出される若者たちじゃなくて、その頃に責任ある立場にあったもっと上の人たちですね。世代間の対立を煽りたくはないですけど……。

速水:一方で、バブル時代の1986年には男女雇用機会均等法ができましたよね。女性は可処分所得が増え、これまでにない自由を手にしたけれど、勢いは長く続きませんでした。バブルがはじけなければもう少し違った展開もあり得たかもしれず、残念です。

ビヨンセにマドンナ。「前向きなフェミニズム」が社会を明るくリード

佐久間:思えば女子校という環境で常にプレッシャーを感じていました。器量がいい人はお嫁にいける。そうでない人は勉強して良い仕事につかないと悲惨な末路を辿るとの恐怖感を植え付けられたというか。

野中:私は十代の頃、クラスの子が「30歳を過ぎてのスッピンはキツイ」と言うのを聞いて驚きました。テレビとか親が言っていることをそのままなぞっていたんでしょうけど。私たちの世代も親世代の価値観を内面化していて、結婚の重要性が大きくなってしまうのは、女性の人生の形として想像できる幅が少なかったからでしょうね。

佐久間:ロールモデルって重要ですよね。自分が社会の中でどう生きていこうかと考えていた時、やっぱりマドンナの影響は大きかったと思います。

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野中:今は、ビヨンセの影響力もすごいですよね。ライブ映像を見ると圧倒されます! ああいう風にパワフルなフェミニストとして主張する人がエンタテインメント業界の真ん中で人気者になることで、「でも “マネー・イズ・パワー” みたいなのってどうなの? 別のやりかたはないの?」という話もできる。

佐久間:ビヨンセはパートナーに浮気されたけど、そのあと彼に落とし前をつけさせて、今では「苦しゅうない、許してあげますよ」という態度なんですよね(笑)。前向きなフェミニズムで、そして完全に力関係がシフトしたという意味でも世の中の女性たちを大勢救ったと思います。

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会場には書籍の展示も。左から、佐久間裕美子著・伊藤総研編集『My Little New York Times』(NUMABOOKS)、レイチェル・イグノトフスキー著・野中モモ翻訳『歴史を変えた50人の女性アスリートたち』(創元社)、速水 健朗・おぐらりゅうじ共著『新・ニッポン分断時代』(本の雑誌社)、ロクサーヌ・ゲイ著・野中モモ翻訳『飢える私 ままならない心と体』(亜紀書房)、佐久間裕美子著『Sakumag Zine』(Sakumag)

「フェミニズム」をテーマに、アメリカのマイノリティの権利拡大運動や、日本で主張することの難しさなど、幅広い議論が繰り広げられた今回のトークセッション。参加者のみなさんが、イベント終了後にも熱心に野中さん、佐久間さん、速水さんと意見を交わしている様子がとても印象的でした。

今後、女性の問題に関わらずあらゆる場面で「主張することは悪いことではない」という雰囲気が日本全体で広がっていけば、フェミニズムという言葉に対するネガティブなイメージも薄れていくのかもしれません。

佐久間裕美子さん(sakumag.com/ライター)
1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。著書に『My Little New York Times』(NUMABOOKS)、『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、『ヒップな生活革命』(朝日出版社)、翻訳書に『世界を動かすプレゼン力』(NHK出版)、『テロリストの息子』(朝日出版社) 。慶應大学卒業。イェール大学修士号を取得。

野中モモさん(ライター/翻訳者 英日)
訳書『飢える私 ままならない心と体』(ロクサーヌ・ゲイ 亜紀書房)、『世界を変えた50人の女性科学者たち』(レイチェル・イグノトフスキー 創元社)他多数。オンラインショップ「Lilmag」を通じてZINEをはじめとする小規模自主出版の振興活動を続けている。共編著書『日本のZINEについて知ってることすべて』(誠文堂新光社)。著書『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』(筑摩書房)。

速水健朗さん(フリーランス編集者/ライター)
1973年生。著書に『ケータイ小説的。——“再ヤンキー化”時代の少女たち』( 原書房)、『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『1995年』(ちくま新書)、『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書)、『東京β』(筑摩書房)、『東京どこに住む?』(朝日新書)など。

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イベント終了後、「3人のお写真を」と声をかけたら踊りだした野中さんと速水さんと佐久間さん(笑)。とっても気さくで元気な3人にパワーをもらいました。

撮影/中山実華

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野澤朋代

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