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Reshape:パートナーシップ

夫婦像の常識をアップデート。講談社のカリスマ編集者と夫、その斬新なライフスタイルとは?[前編]#ふたりのはなし

『東京タラレバ娘』『海月姫』など、数々のヒット作を生み続ける漫画編集者・助宗佑美さん。多忙な彼女を全面的に支えるのは、「専業主夫」のパートナー、謙一郎さんです。

いまでこそ偏見を抱く人は減りつつあるかも知れませんが、「男は大黒柱、女は家庭」という古来の価値観に真っ向から立ち向かう助宗家のライフスタイル、その経緯や暮らしぶりが気になるところ。

助宗さんの出勤前の朝、ご自宅にお邪魔し、「#ふたりのはなし」を聞いてみると——。

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助宗佑美(すけむねゆみ)さん
1983年、静岡県生まれ。2006年、講談社入社。少女漫画の編集者として『東京タラレバ娘』『海月姫』(ともに東村アキコ作)、『カカフカカ』(石田拓実作)など数々の人気作品を担当。「Kiss」編集部を経て2019年2月、漫画アプリ「Palcy」編集長に就任。

謙一郎(けんいちろう)さん
1983年、横浜市生まれ。助宗さんとは明治学院大時代の同級生。2010年秋、結婚。息子・和歩(かずほ)くん(7歳)が生まれる2週間前まで、眼鏡店に勤務し、接客・販売業務に就いていた。現在は主夫業のかたわら、介護施設でのアルバイトにも従事。

家族の1日は、「朝7時に全員で起きる」ところから始まる

——閑静な住宅地の一角にある助宗家。柔らかい日差しの射しこむ素敵なおうちですね。1日はどんなふうに始まるのですか。

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助宗佑美さん(以下、佑美):朝、7時に全員で起きます。私が前日、どんなに帰りが遅くても起きるんです、ルールとして。7歳の息子・和歩くんは日中の生活が基本。でも私は結構、朝はゆっくりで、夜、予定が入ることが多いんですよ。だから「朝、会わないと、1日のうちに一度も会わなくなっちゃうね」って。朝7時、必ず3人の時間がそこにあって、それをキープするために朝の支度を一緒にするんです。

——朝ごはんを家族全員で食べるのですね。

佑美:ケンちゃんがつくるよね。

謙一郎さん(以下、謙一郎):最近はね。

佑美:ケンちゃん、最初は料理が全然できなくて、私がつくっていたんですけど、(和歩くんの幼稚園で)お弁当をつくることになって、その時、「お弁当担当」になったんだよね。

謙一郎:そうだったね。

佑美:今までやらなかった料理を自分なりに頑張って、ついでに朝ごはんも用意することになったんです。夫がつくった朝ごはんを皆で食べて、息子の着替え、歯磨きは私がやって、その間に夫が片付けして、8時に子どもが出掛けていくんです。

謙一郎:僕、「専業主夫」ですけど、最近はちょっとアルバイトみたいなこともやっています。ずっと家にいてしんどかった時があったので、家事をメインにしながらバイト

佑美:バイトがある日は(息子と夫が)一緒に出掛ける。私は家にひとり残って、残った家事を少しやったり、だらっとしたり

——出版社へはそれから出掛けるのですね。

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佑美:9時、10時には会社に行っています。編集者のなかでは早いほうかも。早いよね?

謙一郎:知らないよ(笑)。

佑美:早いんですよ。早く行くか、午前中に余裕がある時は美術館、映画に行ってから出社します。土日を子どもと過ごすためです。独身の時は、土日は超自由で、映画館や美術館に行っていたんですけど、(結婚・出産後は)「ああ、行けなくなっちゃったなあ」と。

——謙一郎さんは、介護職のバイトをしていらっしゃるのですね。

謙一郎:知的・身体障害を持った人たちが利用する施設で、日中のお世話をするんです。食事・トイレ、着替えの介助をして帰ってくる。午後3時ぐらいに終わるんですけど。

佑美:子どもの都合に合わせ、フレキシブルに対応できる職場だよね。だから、ありがたい。

謙一郎:いまの仕事は「ママ友」が教えてくれたんです。大学時代、知的障害のある子どもと遊ぶサークルに入っていたので。僕の場合、息子が風邪を引けば、すぐに休まなきゃいけない。だから、ガチッとシフトが固められるような仕事では現実、なかなか難しい息子が生まれた時、会社を辞めたのもそのためでした。(販売の仕事だと)土日・祝日が稼働になってしまう。

佑美:彼のお母さんは専業主婦だったんですね。彼の個人的な価値観として、「家に帰ってきた時に誰か大人がいてあげたいな」という気持ちがあったみたい。だから、私が(仕事のために)動けないとなったら、自分がその役割を果たす、と。

「専業主夫」の提案は、謙一郎さんからだった

——そもそも、おふたりは、大学の同級生だったのですね。どのように関係が進展していったのですか。

佑美:学園祭の実行委員で一緒だったんですけど、それだけだよね。

謙一郎:うん。

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佑美:当時はまだ恋人じゃなくて友達。お互い、仕事が決まって、社会人として日々を過ごすようになると、学生の時と価値観が違ってきた。私は編集の仕事が楽しくて、ずっとやっていきたいと考えていたし、彼は彼で、仕事や趣味の話を聞かせてくれました。「あ、この人、こんな面白いところあるんだ」「意外と映画とか見ているんだ」。友達の距離感から近づいて、結婚の1、2年前かな、「じゃ、付き合おうか」みたいな感じになったんです。

謙一郎:2011年の9月に結婚したから、(交際スタートは)2010年ぐらいですね。

——現代は、さまざまなパートナーの形態がありますよね。結婚しない選択肢もあったはず。結婚を決めるきっかけがあったのでしょうか。

謙一郎:する気はなかったんだよね。型にはまると自由に動けない。でも、子どもができた。

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佑美:最初、子どもは積極的に欲しいとは思っていなくて、それぐらい仕事が楽しいし、自己実現できていた。彼は「子ども、欲しいな」。もし、子どもが生まれても、私はライフスタイルとして、「仕事を辞める」という選択肢はなかった。子供を産んだとしても、仕事は絶対続けたい。そんな話をしたときに、彼から「専業主夫になる」という提案があったんです。

謙一郎:そうだったね。

佑美:まさか、そんな提案が出るとは思わなかった。「子どもが生まれたら(仕事を)辞めても良いかも」って言われて、「ええっ、そうなの!」。それならば、産むという選択肢が芽生えても良いかも、と。……そりゃ、皆がスムーズに働ける社会が良いと思うし、自分が子どもを持った編集長になった今、部下にもそうなってほしい。そう思うんですけど、当時は、子どもを持って編集という仕事を続けていくのにかなり不安があったんです。

——ほんの数年前だとしても、当時、子育て支援の態勢って整っていなかったでしょうしね。

佑美:担当していた漫画家・東村アキコさんの言葉も心に刺さりました。「子どもが生まれたら、自分が使える時間がなくって不安になるかも知れない。だけど、四六時中、自分のことばかり考える時間じゃなくて、強制的にそこからログアウトしなければいけない時間が生まれる。それって自分をラクにしてくれるから、恐れずに、進んでも大丈夫だと思うよ」って。夫の「専業主夫」宣言の提示と合わせ、自分の選択肢を変更することにしました。

なぜ、専業主夫という選択を?

——謙一郎さんは、もともと「専業主夫」になっても良いと考えていたのでしょうか。

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謙一郎:昔は思っていなかったですけど、(妻と)話をするうちに、どちらが仕事を楽しんでいるか、と。収入面の考慮も、もちろんありますよね。あとは、僕の母親が専業主婦で、「ただいま」って帰ったらおやつをつくって待っている。僕の中で「お母さん」って像が強くあったんです。

——「誰かひとり、大人が家にいる」という価値観。

謙一郎:そうですね。だから、(家に大人がいなかったら、子どもは)寂しいんじゃないかなって思ったんです。

佑美:感情的な部分の上に、現実的にどうするかという話が乗っかっていきました。「自分が仕事を続けたい」「こういう家族のイメージがある」、そういう要素を持ち寄った時に、私が仕事を続けていくほうが、収入バランスが良い。それから、私の仕事は、時間がフレキシブルになる時と、ならない時があるシフトで働く夫は絶対、時間の融通が利かない。そうした問題を気持ちの上に乗っけて、いろいろ混ぜて、そこで「どうする」ってなった時、現在のパートナーシップにするのが、感情・現実的にうまく行きそうだ、と。「じゃあ、それでやってみるというのもアリかもね」って。

実際に始めてみて。母の反応は、他の人とは少し違った

——お話を伺って、合点がいきました。ただ、周囲の反応っていろいろありそう。

謙一郎:いろいろありますよ。ただ、母親はちょっと違ったかな。最初に母親に「佑美と結婚したら家で専業主夫しようかな」って相談したんです。何かしら反対意見があるかと思ったら、「いいんじゃない」って。「ああ、そんなもんなんだ」って。

佑美:ケンちゃんのお母さん、初めてご実家に伺った時、手づくりのタルタルソースが出て来たんです。

謙一郎:え、そうだっけ?(笑)

佑美:「わあっ、すごい!」って。タルタルソースって手間かかるじゃないですか。

謙一郎:そうなの?

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佑美:手間かかるよ、タマネギ刻んだり、玉子を茹でたり。「わぁ!」って思ったんです。主婦業をきっちりされていて、洋服もちゃんと繕って着る。私たちとは真逆だから、どう思うかな、って心配したんです。ところがお母さんは、「Aがこういう役割、Bはこういう役割、だったらお互い、全うしようね、頑張って」という考え方。「女が専業主婦、男が大黒柱」といったような、役割分担に性別が紐づいていなかったんです。炊事も洗濯も、その役割になった人が頑張る。私がごはんをつくっていたら、「ケンちゃんが料理分担なのに、なんで佑美ちゃんもごはん作っているの?」なんて言うぐらい、すごくフラットな人なんです。

謙一郎:ただ、母以外の世間の人たちは、「良かったねえ、収入の多い女と付き合えて」「ヒモじゃん」なんて言ってきますよ。

——酷いことば!

謙一郎:あぁ、やっぱそう見えるかー、と(笑)。

佑美:「大黒柱=男」ってイメージが世間にある。ふたりで暮らしている時にはあんまり思わなかったんですよね、自分も。世間に触れていなくて。それをまるで「悪いこと」と捉え、こっちが「うわっ」て思うことを本当に言う人がいるんだ、って。初めて社会を知った。

助宗佑美さん、謙一郎さんへのインタビュー。後半戦は、「専業主夫というパートナーシップの在り方について、助宗家の反応は?」というところから、実際にその形態で過ごしてみてどうなのかというリアルなお話までをお届けします!

撮影/中山実華

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加賀直樹
ノンフィクションライター・韓国語翻訳者
1974年、東京都生まれの北海道育ち。東京学芸大学教育学部卒業後、韓国財閥勤務を経て朝日新聞に入社。富山、さいたま、東京で勤務。2016年に退社し、現在はノンフィクションライター・韓国語翻訳業。「AERA」の人物ルポルタージュ連載「現代の肖像」のほか、「好書好日」「ジェイコムマガジン」「ONTOMO」「週刊女性PRIME」などで執筆中。演劇・音楽(オーボエ吹き)・鉄道・登山・お笑い・地図がキーワード。

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