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『東京タラレバ娘』編集の助宗佑美さんと夫、ジェンダー・ステレオタイプに縛られない暮らし[後編]#ふたりのはなし

『東京タラレバ娘』『海月姫』など、数々のヒット作を生み続ける漫画編集者・助宗佑美さん。多忙な彼女を全面的に支えるのは、「専業主夫」のパートナー、謙一郎さんです。

前編では、お二人の暮らしぶりや、専業主夫というスタイルを選んだ経緯、そして、「周囲の反応はどうだった?」という部分まで伺いました。後編は、専業主夫という夫婦のカタチに対して助宗さんのご両親はどう思ったのかというところからお届けします。

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助宗佑美(すけむねゆみ)さん
1983年、静岡県生まれ。2006年、講談社入社。少女漫画の編集者として『東京タラレバ娘』『海月姫』(ともに東村アキコ作)、『カカフカカ』(石田拓実作)など数々の人気作品を担当。「Kiss」編集部を経て2019年2月、漫画アプリ「Palcy」編集長に就任。

謙一郎(けんいちろう)さん
1983年、横浜市生まれ。助宗さんとは明治学院大時代の同級生。2010年秋、結婚。息子・和歩(かずほ)くん(7歳)が生まれる2週間前まで、眼鏡店に勤務し、接客・販売業務に就いていた。現在は主夫業のかたわら、介護施設でのアルバイトにも従事。

いきいきと働く姿を見て、「こういうのもアリなんだ」

——謙一郎さんのご実家では、専業主夫というカタチをスムーズに受け入れられたのですね。では、助宗家は?

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助宗佑美さん(以下、佑美):「せっかく頑張って、やりたい仕事を頑張っているんだから、良いよね」って感じと、もう少し、いわゆる「一般的な女の子の幸福感」、素敵な人と結婚してほしい、という気持ちもあったみたい。ケンちゃんのお母さんよりは、ちょっとゴチャゴチャしている感じ。「女の幸せ=家に入る」とまでは、この時代の人だから思っていないんだけど、「佑美ちゃんが大黒柱で辛くならないと良いな」みたいな親心もあったと思うんです。だから、最初提案した時は複雑な顔をしていました。

謙一郎さん(以下、謙一郎):たしかに。

佑美:ただ、子どもが生まれ、私が生き生きとこの態勢で働いているのを見たら、だいぶ理解された気がする。そうだよね。

謙一郎:子どもも生まれたし、どんどんこのスタイルで物事が進んでいくから、受け入れていくしかないというのもあるかもしれませんね。

佑美:実際に(助宗家の)雰囲気を見てから「ああ、こういうのもアリなんだ」と実感していると思います。

いまの形態から良い影響を受けて。変わった仕事へのスタンス

——こういうパートナーシップで歩み始め、良かった点、あるいは、ちょっと改善していきたい点は。

謙一郎:この形態しか分からないからなあ……。なんかある?

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佑美:いまだ、世間の多くは「男の人が大黒柱」と思っている、と気づきました。あと、ケンちゃんが日中ひとりで子育てをする時、子どもは可愛いけど、正直しんどい時間があるというのを知ったりもした。「働く男性たちが嫁に家の中の文句を言われて辛い」という気持ちも分かってきたし、お母さんたちの愚痴になっちゃう部分も分かってきた。

——両方の気持ちが分かってきた、と。

佑美:それから、出産の時には身体がしんどくて、今までは「エンタメ、何でも楽しい」って感じで(作品を)読んでいたんですけど、(出産を経てからは)自分に寄り添ってくれる物語がほしいな、大切だな、って気持ちに替わってきたんです。私が思うよりも、物語ってひとに寄り添ったほうが良いんじゃないか、と。今までは、「ほーら、こんなに才能があるんだから、この人の漫画を読んでちょうだい!」みたいな感じで考えていた節があったんです。でも今は、読者がどういうことで悩み、何が辛いか、それを思った上で、編集者は「こんな物語を描く、こんな才能の人がいますよ」って渡す感じにしないと、届かないよね、って。

謙一郎:だいぶ変わったよね。

佑美:自分がすごく辛い時、「この人、才能があります」って言われても「知らんがな」って。そこに気づいてからは、仕事がうまくいく……、というか、つくった作品が届きやすくなった気がするんです。

——お仕事の面でも大きな転換点となったのですね。

佑美:はい。あと、生活のリズム。昼の番組を一切見ていなかったし、朝も起きない。編集者として遅くまで起きて、仲間と夜にお酒とか飲んで、10時ぐらいに起きる大学生みたいな生活を続けていたんです。そういう意味では生活が整ったんです。金銭感覚もおかしかったよね。

謙一郎:スーパーとコンビニが並んでいるのに、(割高な)コンビニでわざわざジュースを買うんですよ。おかしいじゃないですか。

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佑美:へっへっへ(笑)。

謙一郎:へっへっへ、じゃなくてさ(笑)。溜まると結構な差が出てくるじゃないですか。

佑美:「世間はこういうふうに暮らしているんだよ、僕が見ている世界はこうなんだよ」って言われて、「ああ、なんか私、ちょっとズレていたんだ」。ズレている所から「皆さんに物語を届けます」とか言っていたんだなってすごく思った。

謙一郎:10円上がるだけでもヒイヒイ言うじゃないですか、漫画とか。毎週出るものであれば尚更。それをさほど考えていないところがあって、「それは違うんだよ」って。「つくる側」と「買う側」の認識を、ちょっとは近づけさせられたかな?

佑美:自分が我が強いから、全部は折れないんですけど、バランスが良くなった。「ただ我が強いだけの女」から、ちょっと周りを見るようになった。

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「女だから」「男だから」じゃなくて、好きなふうに生きてほしい

——息子の和歩くんは、「周りのおうちとはちょっと違うな」と気付き始めているのですか。

謙一郎:生まれた時からこういう感じなので、特に「うちはママが〇〇だ、パパが××だ」とは言いません。たぶん「そんなもんかな」って感じてくれていると思う。

佑美:(息子が)もっと小さかった頃、病気になるとか、怖い夢を見た時とか、私のほうには来なくて、パパのほうに行くんですよね。今でもそうかも。子どもって、一緒にいる時間が長いほどそうなるんですよね、特に幼い頃は……。

謙一郎:「(無条件に)ママだから」というのではなく、普段から長い時間みてくれる人のほうに行くみたい。

佑美:幼いながらに、私と息子が喧嘩したりすると、「ママは幼稚園に迎えに来てくれない。ほかの人はママだったのに」と言って。他の家とは何か仕組みが違うなっていうのは、日々文句を言うつもりはないんだけど、心の中に蓄積しているんだな、とは感じます。

謙一郎:そうかも知れないね。

佑美:別に女だから家でママをやらなければいけないわけではないし、男だから外で働かなければいけないわけじゃない。それって「男だからスカートを履いちゃダメ」というのを変だと思うのと同じで、好きなふうに生きればよいし、それを分かってくれる相手と楽しく過ごせばよい「変だな」と思うことをこれから話して埋めていくという段階が必要かな、とは思っていますね。(この関係性を)自慢に思ってくれると良いよね。

ふたりが大切にしているモノ・コト・時間

——子どもの価値観もしなやかになりそうな、風通しの良い、素敵な関係性だということが、ひしひし伝わります。おふたりが大切にしている「モノ」って、何かありますか。

謙一郎:うち、モノに執着がないんですよ。子どもも執着心がない。「買って、買って!」って言っても、買った瞬間に興味が無くなっちゃう。

佑美:最初に話した、「毎朝7時に起きる」ってことこそ、大切にしているかな。あとは最近、「登山部」しているよね、家族で。

謙一郎:ハイキング。

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佑美:私は仮入部だけど(笑)。皆で登山靴とバックパックを買ったんです。土日をもう少しアクティブに3人で過ごそう、って。「和歩登山部」っていうんです。隊長が、和歩くんで、最初はパパと2人で行っていたんです。でも、「ママ、運動が足りないから仮入部させてやるか」って(笑)。

謙一郎:3人ではそんなに歩けないので、この間は鎌倉の初心者向けの山に行って(笑)。

佑美:「朝7時ルール」と、「和歩登山部」、それから、日曜夜に「世界の果てまでイッテQ!」(日テレ系)を見る(笑)。時間割じゃないけど、「ここでは3人で過ごす時間だな」っていう時間がきっちりあればよいかなと思っています。私が夜に帰ってこなくても、日曜にまたテレビ一緒に見ようぜ、「登山部」行こうぜ。そう言っていると、保証のないバラバラな生活ではない、って感じがして息子にとっても良いかなって。

——最後の質問です。「あなたにとってパートナーとは」。

謙一郎:何だろうね。……妻であり、恋人、友達であり、親友。僕、友達もいないんで。佑美は、ときおりお母さんみたいなことを言うし、子どもみたいなことをブーブー言うこともあります。ひとりで何人分も兼ねている。楽しいですね。ひとりいれば安心。

佑美:私は「全部言う人」。「全部見せる人」。会社では立場的に、見せられない顔、愚痴、言えない気持ちが発生してくる。一緒に組んだ漫画家さんの力を最大限出すために、いつでも引っ張る力が必要。引っ張る側はあんまり弱気なこと、「今日疲れちゃった」みたいなことは言えない。ケンちゃんはそれを言える相手。友達でもあるし、家族だから言えるというのもありますね。うちの家族は何でも言うよね。

謙一郎:隠し事がない。

佑美:おカネのことも全部言う。「今日、こういうことがあった」とか。予定もほぼ把握していると思うし。隠し事、ないよね。

謙一郎:ないね。

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佑美:帰ってこないけど、予定は知っている。LINEも結構しているんです。朝、行く時に夫が先に出掛けるじゃないですか。「今日も、ほなよろしく」って送ってきて、私も「よろしく」。毎日やっているよね。

謙一郎:最初は「頑張ろう!」って送ったら、「とっくに頑張っているわ!」って怒られて(笑)。

佑美:「きょうもよろしく元気でやりましょう」に替わったんです。

謙一郎:毎朝やっていますね。

佑美:喧嘩もするけどね。

謙一郎:喧嘩、多いですね。

——あれ、なんだか意外ですね。どんなことで喧嘩するんですか?

謙一郎:「トイレの蓋が開いている」とか(笑)。佑美、後ろを振り向かないんですよ。部屋の電気をつけたまま、消さないでそのまま行く。振り返らない。

佑美:それが君の性格の蓄積だ、みたいな感じに言われてムカッとして喧嘩になっちゃう。そうなるのは疲れている時だよね、互いに。

謙一郎:そう?

佑美:わかんない(笑)。

謙一郎:佑美は興味がある時はあるんですけど、ない時はまったくない。どうでも良いことは本当にどうでもよくて、好きなことにはこだわる。仕方ないと思いながらも、もうちょっとブーブー言ってみようかな。

佑美:外でブーブー言われることがないんだよね。最近は特に立場や年齢で言われにくくなってる。だから、ブーブー言ってくれるあなたを大切にしています!

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ジェンダー・ステレオタイプに縛られない関係性を築いている助宗さん、謙一郎さんの「#ふたりのはなし」。自分にとって、相手がどういう存在かという問いに対する答えが印象的でした。

あなたにとってパートナーとは?

「全部言う人」。「全部見せる人」。
——助宗佑美さん


妻であり、恋人、友達であり、親友。
ひとりで何人分も兼ねている。ひとりいれば安心。
——謙一郎さん


撮影/中山実華

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『東京タラレバ娘』『海月姫』など、数々のヒット作を生み続ける漫画編集者・助宗佑美さんと、夫の謙一郎さん。これまで常識とされてきた価値観に真っ向から立...

https://www.mashingup.jp/2019/06/interview_yumi_kenichiro_01.html

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加賀直樹
ノンフィクションライター・韓国語翻訳者
1974年、東京都生まれの北海道育ち。東京学芸大学教育学部卒業後、韓国財閥勤務を経て朝日新聞に入社。富山、さいたま、東京で勤務。2016年に退社し、現在はノンフィクションライター・韓国語翻訳業。「AERA」の人物ルポルタージュ連載「現代の肖像」のほか、「好書好日」「ジェイコムマガジン」「ONTOMO」「週刊女性PRIME」などで執筆中。演劇・音楽(オーボエ吹き)・鉄道・登山・お笑い・地図がキーワード。

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