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LIFE after 2045/シンギュラリティと私の未来

自分の分身をAIでつくる「AI DJ」の魅力/徳井直生さん[中編]

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人工知能(AI)はツールだけでなく、協働するパートナーになりうるか? 実際にAIとコラボレートして表現活動を行っている、Qosmo代表/慶應義塾大学政策・メディア研究科准教授の徳井直生さんに、AIとのつきあい方を聞きました。

まずは自分の分身になってもらう

——前編では、「AIを音楽制作に使えないか」という観点で、AIと一緒にDJを行う「AI DJ」のスタイルに到達された話がでました。この「AI DJ」プロジェクトとは具体的にどのようなものですか?

徳井直生(以下、徳井):もともと「AI DJ」プロジェクトは、ライゾマティクスの真鍋大度さんと2014年に開始したイベント「2045」の中で始めた試みで、2人のDJが交互に選曲した曲をかけ合うBack to Back(バック・トゥ・バック)というスタイルをとっています。つまり、僕が曲を選んでかけた後に、それにつながる曲をAIが選んでかけることを繰り返して、フロアを盛り上げていくものです。(参考:ギズモード・ジャパン

AI DJ Project - A dialog between human and AI through music from Qosmo / コズモ on Vimeo.

まず、普段の自分がDJプレイでやっているプロセスをAIに落とし込むため、手順を分解します。音楽DJって、持参した音源からかける曲を選び、再生して、フロアの反応を読んだうえで、また次の曲を選んでかける、という作業を繰り返します。

そこで、自分が「どういう基準で選曲をしているのか?」を考え、AIにそれを学習させるデータとは何か、どういう仕組みが必要かを考え、いわばDJとしての「自分の分身」を作るわけです。つまり「AI DJ」は普段の自分がDJでやっていることを映し出す、鏡みたいな存在です。

だけど、ごくたまに、自分ではとてもやらないような選曲をAIが提示してくることがある。「なんでこの曲? あり得ないよ……」と思うけれど、いざ再生してみたら、意外とバッチリはまって大受けしたこともありました。こういう経験を繰り返す中で、自分自身、より自由な選曲をするようになるなど、AIからいい影響を受けているように思います。

想定外のハプニングを楽しむことが大事

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——「AI DJ」をする中で、AIが苦手とすることはありますか?

徳井:まず、人間のDJの代わりにはなれません。というのも、たとえば僕がかけた「ある曲」に対して、AIが次の1曲を選ぶのは得意です。だけど「その次の次の次の曲」まで想定して準備をするような時間的な連続性を考慮してストーリーを紡いでいくようなことを、全般的にAIは苦手としています。

先の先まで想定するのは苦手

優れた音楽DJって、たとえば「最初はゆっくりとスタートして、いざ盛り上げたらそれを維持し、どこかでいったん小休止を挟んで、また盛り上げる」といった起承転結を表現できます。だけど今の「AI DJ」には、まだそれは無理なのです。

それから「AI DJ」では、レコードを選ぶ作業はAIがしますが、レコードをターンテーブルに乗せるのは僕がやります。そのようなアナログな手順をあえて残したのは、それら全てを機材の中で完結させてしまうと、何が行われているのかお客さんには分からないからです。ソフトウェアの中に閉じてしまうと、そこで起きることも限定され、予想外の事態が引き起こされる可能性も縮小してゆく。

実際のフロアでは、ちょっとミックスがずれた……みたいなハプニングによって、逆に場が盛りあがるケースが多々あります。そういう“想定外のハプニング”をうまく利用するための工夫が、AIのような便利なツールとのつき合いにおいても大事ではないでしょうか。

2019年5月、アメリカ・シリコンバレーで開催された「Google I/O 2019 preshow」に「AI DJ」プロジェクトが招聘されたときのパフォーマンス風景(YouTubeより)

AIとの協働を通して、人間がより創造的になる

——AIとの協働を通して、見えてきたものは?

徳井:「AIを人間並み(あるいは人間以上に)賢くする」ことには僕自身はさほど興味がなくて、むしろ「人間がより創造的になるための道具としてのAI」を作りたい。わざわざAIをDJのパートナーに選んだのも、AIに選曲させることで、自分自身の選曲の幅や考え方を更新したかったからでもあります。

最近のDJソフトならほぼ全自動でミックスができます。だから、たとえば僕が壇上に上がらず、この「AI DJ」が完璧にミックスした音楽が無人のステージで流れている状態に対して、はたしてどれくらいのお客さんが感情移入できるかを逆説的に考えてみる。そうすると「人間のDJの役割とは何か?」を、逆に考え直す契機にもなりました。

わりと昔は、僕も「黙々とDJをするのがカッコイイ」と思っていた時期もあったのですが、じつはそうではなくて、僕という存在がDJブースの中で音楽を楽しんでいる姿をお客さんに率先して披露することが、「いいDJ」の根源的な要素なのかもと思うようになりました。それは「AI DJ」にはできないことですから!

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徳井直生(とくい なお)さん/Qosmo代表取締役、アーティスト、工学研究者
東京大学工学系研究科博士課程修了。在学中から人工知能(AI)に基づいた音楽表現とユーザ・インタフェースの研究に従事するとともに、DJ/プロデューサーとして活動。2009年、Qosmoを設立。AIを用いたインスタレーション作品や、ブライアン・イーノのミュージックビデオ制作などを手がけている。2019年にはDentsu Craft Tokyo、Head of Technologyに就任。2019年4月より慶応義塾大学(SFC)准教授。

聞き手/MASHING UP編集部、撮影/中山実華、構成/木村重樹

AIが芸術を評価する時代がやってくる/徳井直生さん[前編]

人工知能(AI)と作品づくりを実践しているQosmo/慶応義塾大学(SFC)准教授、徳井直生さんの考える「AIとのコラボレーション」のあり方は?

https://www.mashingup.jp/2019/05/singularity10_1.html

AI時代のクリエイティビティはサーフィンだ!/徳井直生さん[後編]

シンギュラリティを考える連載[LIFE after 2045]後編。Qosmo 徳井直生さんに聞いた「2045年のクリエイティビティ」のあり方は?

https://www.mashingup.jp/2019/06/singularity10_3.html

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MASHING UP編集部
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