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- AI時代のクリエイティビティはサーフィンだ!/徳井直生さん[後編]
来るべき日に向けて、今できることを明確にし、明るい未来を切り拓くための連続インタビュー[LIFE after 2045]。前編、中編に引き続き、Qosmo代表/慶應義塾大学政策・メディア研究科准教授の徳井直生さんに聞いた、「2045年のクリエイティビティ」のあり方。
AIの判断にまかせっきりは危ない
——ズバリ、2045年はどうなると思いますか?
徳井直生(以下、徳井):いわゆる「人間の知性や能力をはるかに凌駕するマシーンやロボットが誕生する」ことは、2045年の時点でも、たぶん難しいと思います。
ただし、ビッグデータや深層学習などの技術がさらに進化したかたちで適用されることで、日常生活のあらゆる局面が最適化され、利便性が徹底的に追求される怖れはあるでしょう。「予想外の事態」や「生活の余白」みたいな部分が損なわれることで、逆に息苦しい世の中になりかねない。いや、もうなりつつあります。
これまでの話に関連づければ、「選曲や生成物の評価をAIに任せた」とき、では、どこまでの判断をAIに委ね、どこから先を人間が判断するのか……そういう主体的な選択を引き受ける覚悟が必要とされるでしょう。
──そこで人間側が「AIの判断」に任せっきりにしてしまうと、まずいことが起きる?
徳井:たとえばNetflixやYouTubeでは、視聴した動画の内容や傾向に合わせた「おすすめ動画」が出てきます。しかし、おすすめされるがまま延々と見続けていくと、時間を無駄にした気分になることはありませんか?
こういった「最適化」が生活の隅々に行き渡っている状態を想像してください。お店で何を買うかといったことだけでなく、進路、職業の選択やパートナー選びにまで、AIによる見えないフィルタの影響が及んでいることでしょう。
何も「(AIによる)おすすめを一切拒絶せよ」とは言いませんが、そうしたアルゴリズムにコントロールされがちであるという自覚を持つのは大切です。だから、ときには情報のインプットを遮断して、デジタルデトックスをするのも効果的でしょう。私は毎朝、短時間ですが瞑想するようにしています。
デジタルデトックスも効果的
AIと付き合いやすいのは、男性より女性かも!?
徳井:この話と密接に関わってくるのが「2045年のクリエイティビティ」のあり方です。僕は最近、「AI時代の創造性とは、サーフィンのことだ」と説明しています。
湘南に住んでいる僕は、時間が取れるかぎりサーフィンをしているのですが、「適度に流されることが(創造性においては)大切」と感じています。
創造性って聞くと、限りなく主体的に判断・行動してゆくもので、受動性とは真逆のモードのように思われるかもしれませんが、提案したいのは「意識的な受動性」です。
たとえば「AI DJ」プロジェクトでも、AIから出てきた選曲が自分好みではない場合、「これは間違い(エラー)だ!」と切り捨てるのは簡単です。でも、そうではなく「こういうのもアリかも?」と自分側の価値判断を修正することで、思いもよらぬ流れが生まれることもある。
サーフィンにも似たところがあります。サーフィンは、波を選んだりターンをしたりという積極的な行為と、波に身をまかせるという受動性が混ざりあった行為です。まず波に乗るためには、いい波が来るところまで進んでパドルアウトしないといけない。さらにはいい波とそうでもない波を瞬時に見分けて、あとはいい波に乗って、身を任せる。
「積極的かつ意識的な受動性」を持っていれば、「AIが提案した新しい価値観やアイデア」を適宜取り入れることで、自分の価値基準を更新していけます。もちろん、AIのアイデアをすべて受け入れる、AIに全面的に任せるということではありません。意識的に取捨選択することが大事になります。
サーフィンでもいい波を見分けることが重要になります。そしてその前に、まずはいい波が来るところまでパドルアウトする、すなわち自分の中に最低限の知識や経験値が備わるまで、努力する必要があります。ちなみに、YouTubeやNetflixのオススメをだらだら見るのは波に「流されている」状態で、波に乗っているのとは全然違います (笑)。
意識的に取捨選択する
余談ですが、そういうふうに「価値観を柔軟に変えていく」のは、どちらかというと女性のほうが得意なように感じます。男性はどうしても「オレはこうだから!」みたいな固定観念が強くなりがちです。なので将来的にも、女性のほうがAIとうまく“おつき合い”できるのかもしれません(笑)。
意図的に身を委ねてみよう
徳井:サーフィンとの関連で紹介しておきたいのが、現代音楽家のブライアン・イーノです。
アンビエント・ミュージックの創始者であるイーノのことを、以前から僕は勝手に師と仰いでいたのですが、彼が2016年に発表したアルバム『The Ship』のミュージックビデオ(MV)の制作に(Dentsu Lab Tokyoと共同で)関わらせていただきました。
徳井さん所蔵、ブライアン・イーノ『The Ship』(2016年)のレコード。ジャケットにはイーノ氏の直筆サインが書かれている。
そんなイーノが、2013年のインタビューでこんな発言をしていました。
「私自身はやらないが、興味深く見させてもらったことはある」とサーフィンについて語るイーノは、サーフィンと自分の音楽には「身を委ねる」という共通点があるとし、「音楽は支配しようとするのではなく、意図的にそこに身を委ねる必要がある。サーフィンをしている人たちを見ると、彼らは瞬間的に波を掴んだ後は体を波に委ね、波によって運ばれていく。その繰り返しは音楽と向き合う時に似ている」と説明した。
ブライアン・イーノ:RBMAの講義における5つのポイント(Red Bull Music Academy サイト)より引用
まさに最近の自分がモットーにしているスローガンは、イーノが提唱していたメッセージを今に継承し、アップデートしたものです。
徳井さんが制作したブライアン・イーノ『THE SHIP』A Generative Film(YouTubeより)
人類はこれからどこへ向かうのか?
徳井:もうひとつ、MASHING UP読者に紹介したいのが、ユヴァル・ノア・ハラリ著『ホモ・デウス:テクノロジーとサピエンスの未来(Homo Deus: A Brief History of Tomorrow)』(河出書房新社、2018年)という本。
ユヴァル・ノア・ハラリ著『ホモ・デウス:テクノロジーとサピエンスの未来(Homo Deus: A Brief History of Tomorrow)』の原書。
ハラリはイスラエル人の歴史学者で、前著の『サピエンス全史』(河出書房新社、2016年)は日本でもベストセラーになりましたが、そちらの内容はホモ・サピエンスの歴史を俯瞰することで「私たち人類がどこからやってきたのか」を示したものでした。かたや『ホモ・デウス』では、「私たち人類がこれからどこへ向かうのか」が示されています。
要約すると「人工知能や遺伝子工学といったテクノロジーが発展することで人類は不死や幸福を実現させ、さらには神性まで獲得することで〈ホモ・デウス(神のヒト)〉へと自らをアップグレードするだろう」と。とはいえ、「生物はただのアルゴリズムであり、あなたのすべてをコンピュータが把握した結果、社会格差も拡大するだろう」という見解も示されていて、楽観視は許されないらしい。とてもスリリングな本です。
徳井直生(とくい なお)さん/Qosmo代表取締役、アーティスト、工学研究者
東京大学工学系研究科博士課程修了。在学中から人工知能(AI)に基づいた音楽表現とユーザ・インタフェースの研究に従事するとともに、DJ/プロデューサーとして活動。2009年、Qosmoを設立。AIを用いたインスタレーション作品や、ブライアン・イーノのミュージックビデオ制作などを手がけている。2019年にはDentsu Craft Tokyo、Head of Technologyに就任。2019年4月より慶応義塾大学(SFC)准教授。
聞き手/MASHING UP編集部、撮影/中山実華、構成/木村重樹

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