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LIFE after 2045/シンギュラリティと私の未来

「シンギュラリティ」って結局なに? ……で、人類はどう生きる?

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2045年、人工知能(AI)と人間の能力が逆転する「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎えたら、私たちの仕事や暮らしはどう変わる? 最終回は、文化・教育アドバイザーの下村今日子さんとITジャーナリスト林信行さんに、“シンギュラリティと私たちの未来”について聞きました(全3回掲載)。

──今でこそ、「AI」や「シンギュラリティ」という語は一般化していますが、お二人は早期からこのシンギュラリティ問題に着目されていたと聞きます。

下村今日子(以下、下村)◇はい。約2年半前、「レイ・カーツワイルの予測によれば、2045年にシンギュラリティが訪れる。また、『人工知能と経済の未来』(岩波新書)によると、2030年から2045年に雇用が順番に消滅していき、2045年には収入のある仕事をしている人が一割となる」という話を私がFacebookに投稿したんです。それをきっかけに、林さんをはじめ、多くの有識者たちとシンギュラリティ問題について定期的に語り合うようになりました。

林信行(以下、林)◆そのエッセンスが本連載「LIFE after 2045 シンギュラリティと私の未来」に集約されています。今回は過去11回の連載を振り返りながら、未来を生きる上で大切にすべき事柄を下村さんと探っていきたいと思います。

シンギュラリティに必要な“日本の美意識”(下村今日子さん)

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──連載では、林信行さんを筆頭にさまざまなフィールドで活躍されている方々から、シンギュラリティを迎える場合に私たち人間が忘れてはならない“指針”を伺ってきました。このシンギュラリティ問題に造詣の深い下村さんは、どのようにお考えですか?

下村◇私は2年前の夏、1週間ほどヒマラヤ山脈の中腹をトレッキングしたのですが、そこで気づいたのは、野生動物は草原を歩きながら花を踏んでゆくのに、人は花を踏まないということです。不思議じゃありませんか?

おそらく人間には、美しい花を守ろうとする本能が宿っているのではないでしょうか。花などの自然の「美しさ」を理解し大事にするのは、人間の生存に対しても何らかの意味があるはず。そこで改めて日本人の独自性について考えてみると、自然との共生の中で育まれてきた「独特の美意識」が浮かびあがってくるのです。

2017年の春、東京の国立近代美術館で「茶碗の中の宇宙」という展覧会が開催されました。約450年前、安土桃山時代を代表する京都の陶芸家・長次郎が生み出した「樂焼」を、今では樂吉左衞門(らく きちざえもん)さんが引き継いでいるのですが、それら代々の樂焼が集められ、展示されました。

土をこねてできた、微妙にアンバランスな茶碗に、宇宙があるような何とも言えない静寂な美しさがある 。それってまさしく、 日本人に固有の深い精神的美意識ではないでしょうか。じつはそうした感性が(シンギュラリティのような)今後の科学発展の場においては大切になってくると思います。

これはノーベル化学賞を授賞した野依良治(のより りょうじ)さんの言葉ですが、「日本人には豊穣なる日本文化があり、それを表わす母国語となる日本語によって科学を思考し、表現することで、人類の科学に欧米のものとは異なる多様性を与えることができる。それが日本の価値であり、人類への貢献なのだ」と。

こうした感受性が、科学技術の暴走に歯止めをかけたり、その真価を見定めるための一助となれば、日本人としてとても誇らしいですよね。

科学技術を支えるのは、感性の教育

下村◇最近は特に日本政府の中からも、将来の科学技術を担ってゆく人材育成の重要性が指摘されるようになりましたが、 それが最近よく耳にするSTEM(ステム)教育(※)です。

※STEM教育:Science(科学)+Technology(技術)+Engineering(工学)+Mathematics(数学)を統合的に学習する教育手法のこと。

しかし、AIに詳しい人材を育成する教育に重点が置かれる一方で、「豊かな感性が育まれなければ、斬新な発想も出てこない」ということにも注目が 集まってきて、STEMにA(Art)をつけたSTEMA(ステマ)教育にシフトチェンジされつつあります。

林◆Vol.1の最後に僕が触れた「いくら論理的思考に長けていても、クリエイティビティがなかったら、それだけではビジネスシーンでは使いものにならない」という話に通じていますね。

下村◇ええ。マーケットもノウハウもないところからニーズをくみ取りシステムを立ちあげる、いわば「0から1を作る」には、豊かな感性やクリエイティビティが必要です。でもそのあとの「1から9まで増やす」プロセスはAIに任せられます。同じルーティンを繰り返すのは、それこそAIの得意技ですからね。さらに「9から10へとアップする力」……その新しいシステムが人にどのような感動を与え、人間の幸福にどう貢献できるのかというストーリーを形成することは、まだAIに任せるのが難しい。つまりこの「0から1」と「9から10」の部分については、仮にシンギュラリティが実現した後になっても、人間独自のセンスやクリエイティビティがないといけないわけです 。

つまり、小さなビジネスチャンスから、地球規模の生態系を守るような壮大なビジョンまで、科学技術の進化が破滅に向かうのではなく、サスティナブルなものにしていく鍵は、じつは「日本人独特の美意識」やセンスなのかもしれない。

ならば、それらを大事に育成するためには、自然との共生思想がある日本的な美意識を育む 「感性教育」の道筋をつけることが、今後はよりいっそう重要視されると思うのです。

シンギュラリティは過去にもあった(林信行さん)

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林◆本連載「LIFE after 2045」のVol.1では、僕が序論として「シンギュラリティとは何か」をまとめたのですが、もう少し深掘りしてみます。

能楽師の安田登(やすだ のぼる)さんという方がいて、ボディワークや『論語』の研究など、幅広い分野で活躍されています。そんな安田さんいわく「人類がシンギュラリティに直面するのは、じつは今回が初めてではない」そうです。ちなみに前回のシンギュラリティは「いわゆる文字の発明だった」とのこと。

マーシャル・マクルーハン(カナダ出身の文明批評家)も似たような話をしていましたが、おそらく文字が発明される以前は(言葉を耳で聞いていたので)聴覚が一番とぎすまされていた。だけどそれが(文字を目で追う行為に代わってゆくことで)徐々に視覚優位になり、その影響は人類の価値観そのものを大きく変えた。

今後、AIがどんどん賢くなることで、人間が覚えておく必要があるものもどんどん減ってゆく。そうなれば、脳の働き方もおのずと変わるし、価値観もまた変容せざるをえない。2045年の時点ではまだ過渡期かもしれないけれど、おそらく100年後にはだいぶ様変わりするでしょう。

AIの進化によるシンギュラリティの実現は、もしかすると「人類共通の敵」みたいに受け止められているのかもしれませんね。これまでのSF映画や小説の中で「宇宙人が地球を攻めてきた!」みたいな(笑)。

だけど、そこで「人間とは何か?」とか「生きるとは何か?」、あるいは「仕事とは何か?」みたいな根源的な問いについて、みんなが一致団結して熱くディスカッションするようになったのは、とてもいい機会だと思います。願わくば今後も、この熱い議論を続けていきたいですよね。<中編に続きます>

シンギュラリティの足音は聞こえている/林信行さん[前編]

近い未来にAIと人間の能力が逆転するシンギュラリティ迎えると、私たちの仕事や暮らしはどう変わる? 明るい未来を設計するためのヒントを有識者にきくイン...

https://www.mashingup.jp/2018/11/singularity1_1.html

なにもAIの超知性化だけが、近未来の脅威じゃない/林信行さん[中編]

近い将来にシンギュラリティを迎えたら、私たちの暮らしや仕事、価値観はどう変わる?ITジャーナリスト 林信行さんがシンギュラリティの要因やグローバル動...

https://www.mashingup.jp/2018/11/singularity1_2.html

2045年の景色は、現代人の夢や価値観の総和/林信行さん[後編]

近い将来にシンギュラリティを迎えたら、私たちの暮らしや仕事、価値観はどう変わる? 林信行さんが、今から意識していきたい心構えをアドバイス。

https://www.mashingup.jp/2018/11/singularity1_3.html

下村今日子(しもむら きょうこ)さん/文化・教育アドバイザー
早稲田大学大学院公共経営研究科修士課程修了。教育や文化関連団体から、伝統工芸士からアーティスト、クリエーターまで幅広くサポートを行っている。創造の育成塾顧問、グローバルクラスメートアドバイザー、カルチャービジョンジャパン顧問、シンギュラリティナイト主催、他多数。アイスランド氷河クライミングなど、冒険家としての顔も持つ。

林信行(はやし のぶゆき)さん/ITジャーナリスト
1967年生。テクノロジーやデザイン、アートにファッション、教育や医療まで幅広い領域をカバーし取材、記事やTwitter、FBで発信。欧米やアジアのメディアで日本のテクノロジー文化を紹介するなど、海外でも幅広く活動している。ifs未来研所員/JDPデザインアンバサダー、著書多数。

聞き手/MASHING UP編集部、撮影/中山実華、構成/木村重樹

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食、仕事、出産、アイデンティティ。専門家たちが予想する本当の未来とは?

各界の有識者が語るシンギュラリティとは?MASHING UPの連載を下村今日子さんと林信行さんが振り返ります。

https://www.mashingup.jp/2019/07/singularity12_2.html

AIやロボットと暮らす未来。創造的に生き、幸せに人生をまっとうするヒント

各界の有識者が語るシンギュラリティとは?MASHING UPの連載を下村今日子さんと林信行さんが振り返ります。

https://www.mashingup.jp/2019/08/singularity12_3.html

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