「日本育ち、でもわたしは“ハーフ”だから」。外国人の父を持ち、周囲とバックグランドが異なることが原因で、環境になじめず、ひとりでITに没頭して過ごすことが多かったという若月舞子さん。
現在は、プログラミングや投資、キャリア相談など様々なジャンルのエキスパートと出会って縁をつなぐアプリ「expeet」というサービスを展開する企業のCEOだ。
笑顔で楽しそうに話す様子からは、孤独な学生時代を過ごしていたとは想像できないが、さまざまな出会いを経て力強く躍進中。これまでの経緯とアプリに対する思いなどを伺った。
若月舞子(わかつき・まいこ)さん
株式会社expeet代表取締役CEO。慶應義塾大学環境情報学部卒業。学生時代に、数社でウェブエンジニア・プロデューサーインターンを経験し、expeetを創業。「ご縁」をつくるアプリサービス「expeet」をリリース。
憧れの人物のカミングアウトに、感銘を受けた
——起業したのは本当に個人的な動機です。日本人の母、イランとロシアにルーツを持つ父のもとで育ち、他の人とバックグラウンドが違うということがコンプレックスでした。学校でもひとりで過ごすことが多く、もっぱら大好きなITに時間を費やしていました。
9歳の時にiPodに出会い、「将来はAppleで働きたい!」って思っていたんです。だから進路も理系に進みました。
Appleの大ファンで、学生時代はAppleで働くことを目標にITに没頭した。
大学以降の進路を考えていた頃、ちょうどAppleのCEOであるティム・クックさんが同性愛者であることをカミングアウトしたことが話題に。
「(ティムさんが)自分がマイノリティであることで、人の気持ちを思いやれるようになった」という趣旨のコメントを読んで、とても感動したんです。そのときに、マイノリティだからといって引きこもってしまうのではなく、私も世に出て社会に影響を与えられる可能性があることに気付くことができました。
ティム・クックさんにインスパイアされ、いつかAppleに入社したいという思いから、「自分もサービスを作って、マイノリティであることに悩む人をサポートしたい」と考えるようになりました。彼のような人物になりたいと考え、それをビジネスで実現したいと思いました。
ITが好きだったので、自然にサービスやアプリで思いをかたちにしたいと考えるようになりました。適していそうな大学へ進み、1~3年生でインターンを経験。最初はエンジニアとして、3年生ではプロデューサーとして経験を重ねていったんです。
一緒に創業したCCOが「大学を中退する」宣言
大学3年生の時、入学直後から互いにインターンなどで忙しく、しばらく会っていなかった友達と偶然キャンパスで再会しました。デザイナーとして高いレベルを目指している彼女と、とても気が合ったんです。
現CCOとは大学の授業で知り合ったそう。キャンパス内で久々の再会を果たし、すぐに意気投合した。
とは言っても、私とは性格が真逆。私はどちらかというと後先考えずに行動してしまうのですが、彼女はワンクッション踏むタイプ。例えば今の仕事で言うと、私はアプリを早くリリースしたいのに、彼女は「これじゃまだ出せない」と歯止めをかけてくれる。そういうところでとてもバランスがとれていると思います。
私たちが意気投合して起業したあと、ある日彼女から電話が来ました。「ちょうどいいから大学を退学する」と言うんです!
彼女は大学でかなり良い成績をおさめていたし、また、私自身は大学卒業がマストだと両親から言われていたこともあり「いきなり退学するのではなく、会社で休学の間の学資も払うから休学にしたら?」と提案。しかし彼女から「もともとやめたかったし、いい機会。大卒資格よりも、大きなアプリをまるごと作りましたっていうほうがデザイナーとしては良いポートフォリオになる。だからサービス成功させてね」と言われました。
いまや彼女は、フリーランスとしても活動している実力派デザイナー。彼女の言葉で、私自身も変わったんです。二つ返事で「日本一のデザイナーにするから!」と返したのを今でも覚えています(笑)。そこで決意ができたというか。自覚もできました。
女性起業家だからこそ苦労したことも。でも、絶対に負けなかった
その後、私は今年の春に大学をギリギリの単位数で卒業して(笑)、その後事業に専念しているのですが、expeetのサービスはまだまだ赤字。経営状態が苦しい時にも、CCOの彼女は私を責めることはしませんでした。
売り上げを立てるために、サービス開発の受託を取るべく私は営業に奔走。そこで受注した仕事を彼女やパートナー企業の仲間に紹介して、お互いが生活していくくらいの水準は保ちながら、会社を継続することができています。
これまでの苦労は数えきれないほどたくさんあります。例えば、「色目を使って仕事を得ているんじゃないか」「お遊びで起業したんだろう」なんて言われることは日常茶飯事。
起業家の中では少数派である「女性」「学生」という立場から、悔しい思いをすることも多かった。
過去には落ち込んで泣いて帰ることもありましたが、彼女が「退学する」と言った時から、私の意識が変わりました。むしろ悔しさをバネにするようになったんです。
他にも、「発注する」という口約束を受けてプロトタイプまで作ったのに、途中でプロジェクトがとん挫してお金が支払われなかったことも。そういった苦い経験を活かして、ひとつの会社に依存しないようにしたり、大学の先輩にアドバイスをもらったりと、何とか乗り越えてきています。
自分自身も体現している「ご縁をつくる」アプリを開発
私たちが作っているexpeetは、「ご縁」をつくるサービスです。スキルシェアの一歩手前で、誰か気の合う人と知り合い、仕事につながっていくようなプラットフォームを目指しています。仕組みはスキルシェアと近く、相談やスキルなどに値段を付けて出品する形態です。
私自身、さまざまな人との出会いがあって今の私がいるし、新しい人と出会うことに抵抗がありません。だから、営業も大好き。いつの間にかエンジニアの方の知り合いも、エンジニアを探す企業の方の知り合いもたくさんいるので、よいご縁をつなぐ人になりたい。自分自身もexpeetのコンセプトを体現していると言えるかもしれません。
コンセプトを見直して、新たな局面へ。彼女が描く未来とは
expeetは、まだまだうまくいっているとは言えません。これから事業をよくしていくためにも、先日、Apple主催の「Entrepreneur Camp」に参加する機会を得ました。女性の創業者やアプリ開発者を対象としたプログラムで、日本から参加したのは私たちが初めて。
ずっと憧れていたAppleの本社に10日間も身を置くことができ、Appleのプリンシプルに触れて、自分たちの事業を見直すことができました。細かな技術を学び、サービスの根本的なところを見つめ直せたんです。
これまではターゲットを明確にせず、いろいろなカテゴリーで出品できるようにしていました。でも、私たち自身が疑問に思っていること——終身雇用をはじめとする働き方の変化など——から、フリーランスを手助けするアプリに変えていこうとしています。フリーランスとクライアントをつなげる場所にしたいです。
まだ結果を出していないので、これから出していきます。フリーランスの方に不可欠なサービスになってほしい。今は日本でしか展開していませんが、将来的には海外も見据えたい。自分自身のモチベーションや起業の源泉、憧れでもあるシリコンバレーに身を置いて、世界に通用するようなサービスを自身の手で創り上げていきたいです。
[expeet]撮影/柳原久子

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