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CONFERENCE:MASHING UP vol.3

生まれた環境は関係ない。子どもたちの学習を「ゲーム」で救う/Enuma共同創業者兼CEO スイン・リーさん[MASHING UP vol.3]

世界には、読み書きや初歩的な計算ができない子どもが約2億5000万人いるそうです。また、教師の数は約160万人不足しており、2030年までにその数は倍増するといいます。

こうした状況に救いの手を差し伸べたのが、アメリカと韓国に拠点をかまえるスタートアップEnuma(エヌマ)」社。2019年5月、イーロン・マスク氏も支援する教育ソフトウェア開発コンテスト「Global Learning XPRIZE(グローバル・ラーニングXプライズ)」で、198チームの中から見事優勝に選ばれました。

Enuma社の共同創業者でありCEOのSooinn Lee(スイン・リー)さんは、11月7・8日の2日間にわたって開催するMASHING UPカンファレンスvol.3にキーノートスピーカーとして登壇します。カンファレンスに先駆けて、コンテストへ挑んだ5年間について、お話を伺いました。

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Sooinn Leeさん(Enuma共同創業者兼CEO)
米国と韓国にオフィスを構える教育テクノロジー企業Enumaの共同創業者兼CEO。特別な支援を必要とする子どもや教材を入手できない子どもを含むあらゆる子どもの能力を高める学習アプリを設計。世界で700万回以上ダウンロードされた「Todo Math」、支援を必要とする子どものためのプロジェクト「Injiniシリーズ」などを手がける。2017年、世界有数の社会起業家として「アショカ・フェロー」に選出。開発途上国の子どものための学習キット「Kitkit School」は「Global Learning XPRIZE」の2019年優勝作品に。

——グローバル・ラーニングXプライズの優勝おめでとうございます!

スイン・リーさん(以下、スイン):ありがとうございます! やっと最近優勝の興奮が収まってきたところです(笑)。

——グローバル・ラーニングXプライズについて日本ではまだあまり知られていないのですが、どのようなコンテストか教えていただけますか?

スイン:途上国の子ども向けにオープンソースの教育ソフトウェアを開発するコンテストです。テスラ社、スペースX社などの経営に携わっているイーロン・マスク氏はこのコンテストに1500万ドルもの支援をしました。

コンテストの内容は、初等中等教育を受けることができない2億5000万人の子どもたちが15か月間で読み書きと算数を習得できるソフトウェアを開発する、というシンプルなものです。

——規模の大きいコンテストですね。しかも、コンテストの期間は5年間もあるんですよね?

スイン:そうなんです。2014年に開始して、最終候補に選ばれた5組はそれぞれ100万ドルを受け取り開発を進めます。フィールドテストの実施にあたりXプライズはユネスコ、世界食糧計画(WFP)、タンザニア政府と提携して、タンザニアの150の村に住む約4000人の子どもたちにタブレットを提供してソフトウェアテストを行いました。

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「Kitkit School」サイトトップページより。

私たちは「Kitkit School」という、子どもが知識、能力、環境に関係なく、独自に学習できることを目的に、ゲームの要素や考え方を応用するゲーミフィケーションを用いた学習プログラムを開発しました。

——優勝チームはどのように選ばれるのですか?

スイン:フィールドテストの15か月間で子どもたちの読み書きと算数の能力を最も向上させることができたチームが優勝です。優勝チームには1000万ドルの賞金が授与されます。

——実際の数値が結果につながるんですね……!

スイン:私たちに課された課題としては「電気や水へのアクセスがない場所(村)で、学校も教師もインターネットもない環境に住んでいる子どもたちに読み書きや算数を習得してもらうこと」だったのですが、私たちはフィールドテストが行われている村に行くことが禁止されていましたし、どこの村でテストが行われているのか知らない状態でした。

——ソフトウェアのアップデートやバグなどはどのようにして把握していたのですか?

スイン:タブレットにすべてのプログラムをインストールした状態で渡していたので、回収したログデータを2週間に一回、現地のスタッフが送ってくれていました。ただ、ログデータを見ても現地の環境は見えないので、かなり手探りでしたね。

——5年間もこのプロジェクトにコミットすることに恐怖はなかったのですか?

スイン:もちろんありました。優勝できなかったら事業をやめる覚悟で挑みましたね。

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「Todo Math」サイトトップページより。

もともと、学習障害をもつ子どもだけでなく、3〜8歳までのすべての子どもに向けた算数の基礎学習を楽しいものにするアプリ「Todo Math」をローンチしていたのですが、その時から学習方法や教材については色々な意見を持っていました。

——意見というと?

スイン:Enumaを立ち上げたきっかけは、特殊なニーズを持つ(障害を抱えた)息子が生まれたからです。彼が生まれたあとに元々ゲームデザイナーであった私と、ゲームデベロッパーであった夫と二人で、彼のような子どもが学校の勉強についていけるようにするにはどうするべきか? と考えたことがはじまりです。

そのときに、精神的障害を抱える子どもと、健常者と呼ばれる子どもでは脳の処理スピードが異なることが分かったんです。なので、私たちはゲームを通して子どもたちがひとつずつ理解していくというストーリーにしたんです。100%理解していないのに次のステージに繰り上げすることは基礎が出来ていないことと同じなので、後々、学習能力に差が生じてしまいます。

子どもたちに完璧に理解してもらうために「なぜステージがクリア出来ないのか?」という原因をこちらが理解したうえで、ゲームコンテンツ自体をアップデートしていったんです。

——なるほど。しかし、ゲームコンテンツ自体をアップデートしたら混乱が起きそうな気もしますが?

スイン:確かにそれも一理ありますね。私、ゲームデザイナーなのですがスーパーマリオブラザーズのゲームが苦手で、全くクリア出来なくて。一度もピーチ姫を救ったことがないんです(笑)。

マリオのゲームが楽しいから、好きだから元々の目的であるピーチ姫を救出したいのに、できない。そうすると、ワクワク感がなくなってしまい、そのゲームで遊ばなくなったんです。その、「クリア出来ないともう遊ばない」という心理は学習にも言えていると思って。

基礎を理解していない状態で応用問題に入っても解くことが出来ないですし、説明されても理解ができない。そうすると諦めや挫折という気持ちが湧いてしまいます

ちなみに、世界には約2億5000万人(子ども全体の約1/3)の子どもが読み書きや初歩的な計算が出来ないという事実を知っていますか?

——全体の1/3ですか!?

スイン:そうなんです。健常者の子どもも含めてです。この事実を知り、私たちは特殊なニーズを抱える子どもだけではなく、どんな環境で生きていようと世界中の子どもたちが別け隔てなく基礎学力を身につけられるようなサービスをつくりたいと思いました。そんなときに知ったのが、グローバル・ラーニングXプライズだったんです。

コンテストで優勝したことは、自分たちのサービスへの自信にもなりました。でも、優勝の余韻に浸ってばかりはいられないので(笑)、今は次の展開への準備をしています。

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Enuma社のみなさん。

——11月のMASHING UPカンファレンスvol.3で、スインさんのお話を聞けることを楽しみにしています!

写真/Enuma提供

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KEYNOTE SPEECH:誰でもゲームチェンジャーになりえる

2019-11-07[THU]13:10-13:50 @TRUNK(HOTEL) 1F ONDEN
タイムテーブルはこちら / チケットのご購入はこちら

カンファレンス「MASHING UP vol.3」イベント概要はこちら

カンファレンス「MASHING UP」は、女性をはじめとする多様な人々がしなやかに活躍できるような社会を創出する場です。異なる業種、性別、国籍、コミュニティの人々が「マッシュアップ」することで、新しいネットワーク、新しい一歩、新しいビジネスを創出できる化学反応を促進します。今回のテーマは「Reshape the Perception – 知らないを知って、視点を変える」。国内外のスピーカーを招聘し、個人と企業、そして社会に、新たな視点をもたらすセッションを組み立てます。

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中村寛子
イギリス、スコットランドにて大学を卒業後、グローバルデジタルマーケティングカンファレンス、ad;tech/iMedia Summitを主催しているdmg::events Japan株式会社に入社し、6年間主にコンテンツプログラムの責任者として従事。2015年にmash-inc.設立。女性エンパワメントを軸にジェンダー、年齢、働き方、健康の問題など、まわりにある見えない障壁を多彩なセッションやワークショップを通じて解き明かすダイバーシティ推進のビジネスカンファレンス「MASHING UP」を企画プロデュースし、2018年からカンファレンスを展開している。

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