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日本でも組織のダイバーシティ推進が求められるようになって、女性の活躍しやすい環境はだいぶ整いつつある昨今。しかし、LGBT(LGBTQ)、セクシュアルマイノリティと括られる人たちにとってはどうでしょう?
電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査2018」によると、日本でLGBTに該当する人は8.9%。つまり11人集まれば1人いる、というけっこう身近な数。そんなLGBT の人々のまさに68.7%が、LGBTフレンドリーな企業で働きたいと望んでいることがわかっています。
しかし、「職場の同僚(上司・部下含む)へのカミングアウト」は、50.7%が抵抗があり。そして、「職場に十分なサポート制度がある」と考えるLGBT層はたったの5.5%という、まだまだ遅れている現状が。
一緒に働く仲間として、また企業として、LGBTについてどのように理解をすすめていけばよいのでしょうか。パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社で開かれたダイバーシティ&インクルージョン社内向けフォーラムで、日本におけるLGBTの啓発活動を推進するお二人に話を聞きました。
家庭と職場はカミングアウトしづらい──杉山文野さん
株式会社ニューキャンバス代表の杉山文野さん。
「子供の頃、ロールモデルがいなかったのが辛かった」と話すのは、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの杉山文野さん。フェンシング元女子日本代表で、手記『ダブルハッピネス』を出版し、現在は日本最大のLGBTイベント「レインボープライド」の共同代表を務めるなど、精力的に活動。プライベートでは、親友である後述の松中権(ゴン)さんから精子提供を受け、一児のパパとして育児にも勤しむ日々を送っています。
女子として生まれ育った杉山さんは、体は女、自我は男という自分に早いうちから違和感を感じていたものの、高校までは誰にも言えずに過ごしていたと語ります。
「(当時は)LGBTをオープンにしながら社会生活を送っている大人がいなかったので自分の未来を描くことができず、早く死にたいと思っていた」
しかし、高校在学中に唯一の理解者だった彼女にふられて孤独に苛まれるなか、友人に思い切ってカミングアウト。友人の「話してくれてありがとう」という言葉を機に、徐々に自己肯定感を取り戻していったといいます。
「LGBT当事者がカミングアウトしづらい環境のツートップは、“家庭”と“職場”」と、杉山さん。関係性を壊したくない一番大事な場所だからこそ、口にするのが難しく、またポジションも喪失しやすいもの。
「そのような思いを背負った人は遠い存在ではなく、身近にもいるんだよというのを知ってほしい」
ゲイという言葉に“ガラスの扉”を閉めていた──松中権さん
認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権さん。
次男坊に生まれた松中権さんがゲイの当事者だと判ったのは、小学校高学年のころでした。女子より男子が好きな自分に気づいたものの、当時は辞書にも「同性愛=異常性愛」と書いてあり、自分自身の存在さえも否定していた、と話します。
なにせ、今から29年前までは、同性愛はWHOによって精神疾患、いわゆる病気の類に分類されていたものでした(※)。部活仲間と一緒に“ホモネタ”で笑ったり、女性が好きなふりをしたり、「日常生活で“ゲイ”という言葉が出てきたら、ガラスの扉をぐっと閉める」生活は、大人になっても続いていたそう。
※WHO 国際疾病分類(ICD)改訂第10版(1990)。
大学在学中にメルボルン大学に留学し、多様性理解の先進国であるオーストラリアで松中さんはカミングアウト。「自分らしくいることは、こんなに心地いいんだ」と知りました。その後、電通に就職しましたが、再びクローゼットにもどり、偽りの人生を続けることに大きな疑問を感じた松中さんは、在職中に会社でもカミングアウトし、LGBTと社会を繋ぐ場づくりを目指す認定NPO法人グッド・エイジング・エールズを立ち上げました。
「すべての場所をLGBTにもフレンドリーな場所にかえていきたい」と想いを描く松中さんは、電通を辞めた現在も、2020年を契機として情報発信を行う活動や、国会にて法案を通してもらう活動を精力的に続けています。
耳を傾けるところから、関係性は変わり出す
──そんなお二人に質問です。同僚にカミングアウトされたら、どう対処すべき?
セクシュアリティの問題にはマニュアルがなく、「こうですよ」という正解もない。困りごとはそれぞれで、聞いてほしいだけかもしれないし、具体的に困っているかもしれない。だから、まずは先入観を捨てて、フラットに相手の話に耳を傾けてみることが大事です。(杉山さん)
当事者にとって、カミングアウトとは何か。すごくシンプルで、自分のことを偽らなくていい、それだけなんです。それまで誤魔化していたのを止めた瞬間に、こんなにストレスだったんだと感じました。実は、ここにいらっしゃる多くの皆さんは、毎日カミングアウトしてます。「うちのかみさんが……」というのも異性愛者であることのカミングアウト。僕たちも、皆が話しているのと同じように「うちの彼氏が」と言いたいだけ。皆と同じことをしているんです。(松中さん)
──企業として意識するべきポイントは?
よく議論されるトイレや更衣室の設置に関しても、何をもって男性・女性というのかの線引きは難しい。見た目なのか、戸籍上なのか、僕のように実生活と書類上の表記がちぐはぐなケースも多いので。大切なのは、「ハードよりハート」。ハード面より、皆さんの理解が変わるだけでお金もかけずに超えられることはたくさんあります。まずは、知る・話を聞く・向き合うという姿勢を忘れないで。(杉山さん)
企業のパフォーマンスとインクルージョンを考えた場合、2つメリットが考えられます。一つは僕自身が経験したことですが、カミングアウトをした当事者は、自分が自分らしくいられる安心感を得られます。欧米の調査では、心理的に安心できる職場はパフォーマンスが上がったという結果もあります。
もう一つは、たとえば世間には、トイレで困っている人はトランスジェンダーの方以外にもたくさんいます。様々なニーズに対し、いろいろな想像力を働かせること。それはまさに人の想像力の筋トレのようなもので、違う視点で見たり、誰かの立場になって考えたりしやすくなるのではないか。イノベーションとかアイデアを生む意味でもダイバーシティは大事じゃないかと思っています。(松中さん)
「アライになろう」。企業でも積極的に
当日は全国の拠点に中継をつなぎ、1万人以上の社員がふたりの話に耳を傾けた。
最後に、覚えておきたいワードが「SOGI(ソジ)」と「アライ(Ally)」。
好きになる相手の性別を表す「性的指向(Sexual Orientation」と、自分の性別をどう考えるかを表す「性自認(Gender Identity)」の頭文字からなる言葉で、LGBTかどうかは関係なく、SOGIは全ての人の属性を示します。
「女子だからセーラー服を着ないと」「男で化粧して出社するなら異動だぞ」というふうに、性全体の概念に対するハラスメントがSOGIハラ。日頃、無意識のうちに言いがちなこのような言葉を意識して直していくことで、お互いに尊重する社会を構築していけるのでは。
そしてアライは、LGBTではないけれど、性の多様性を理解し、支援する立場を明確にしている人のこと。話を聞いたり理解することで、悩みを持つ人々の心の支えとなります。
今、LGBTの人々が働きやすい環境をつくるために、アライの存在に注目する企業が増加中。たとえばパナソニック株式会社でも、「アライになろう」をスローガンに、LGBT等の性的マイノリティの理解者を増やす取り組みをおこなっているのだそう。
LGBTの人も、そうでない人も、安心して働けるために。あなたができることはなんですか?
[newcanvas, good aging yells., パナソニックコネクティッドソリューションズ社]
取材協力、写真提供:パナソニック株式会社

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