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終わりの見えないアマゾン火災から、森とわたしたちの関係を考え直してみた

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人間は、ずっと森から恵みをいただいてきた

アマゾンの熱帯雨林が燃えている。無数の緑を焼き尽くし、野生動物を脅かし、黒い煙の魔の手は世界遺産にまで迫る。

収束の見えない大火災を前に、森と人間の関係を、今あらためて考えてみたい。森林保全活動に取り組む一般社団法人モア・トゥリーズ事務局長の水谷伸吉さんにお話を伺った。

水谷 伸吉(みずたに・しんきち) 一般社団法人モア・トゥリーズ 事務局長
1978年東京生まれ。 慶応義塾大学経済学部を卒業後、2000年より㈱クボタで環境プラント部門に従事。 2003年よりインドネシアでの植林団体に移り、熱帯雨林の再生に取り組む。 2007年に坂本龍一氏の呼びかけにより発足した森林保全団体「more trees」の立ち上げに伴い、活動に参画し事務局長に就任。日本の森づくりをベースとした国産材プロダクトのプロデュースのほか、熱帯雨林の再生活動、カーボンオフセット、ツーリズム、被災地支援も手掛ける。

——アマゾンの火災が何週間も続いています。

水谷伸吉さん(以下、水谷):国際問題になっていますね。アマゾンの熱帯雨林が失われることで気候変動にも大きな影響が出てきますから。

——森が二酸化炭素を吸収し、気候変動を緩和してくれている。そんな当たり前の事実を普段忘れていたなと痛感しました。

水谷:僕たち人類は、長い歴史の中で、空気にかぎらず木材、水、生き物の命など、ずっと森から恵みをいただいてきました。人間も生態系のひとつであり、今さら僕たちの生活を森林と完全に切り離すことは難しいでしょう。

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こちらの都合で森林を資源として使わせてもらううえで、大切なのは、資源を取りすぎず、いい塩梅で恵みをいただくこと。僕はよく「元本」と「利子」に例えるのですが、森として存続するのに必要な元本を損なわず、育ちすぎた部分、すなわち利子の分だけいただき続ければ、僕らはずっと共存していける。そのためのちょうどいいバランスを、モア・トゥリーズでも模索しています。

1秒間でどれくらいの森が減っているの?

——人間と森林のバランスは今どんな状態といえますか。

水谷:残念ながら僕たち人間が元本も食い尽くしてしまっている状態です。現在、地球全体で、1秒間にテニスコート15面分の森が減っています。アマゾンの火災も焼き畑などによる人為的なものといわれていますが、それもふくめると今年はさらにハイスペースなんじゃないかと思う。

—— 信じられないスピードですね。モア・トゥリーズは音楽家の坂本龍一さんの呼びかけによって2007年に発足されました。どのような取り組みを行っているのですか。

水谷:都会に住んでいると森林の存在ってどうしても忘れてしまう。僕らは、「都市と森をつなぐ」をコンセプトに、国産材を活用したプロダクトづくりやイベントの開催、国内外の森を訪れるツアーの企画なども行っています。

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国産材をつかったモア・トゥリーズのプロダクト。隈研吾さんデザインの「つみき」(左)と、サイズ別でさまざまな用途につかえる「プランター」(右)。

例えば、シャンプーやマーガリン、チョコレート、カップラーメンなどに使われるパームオイル。日本で使われるパームオイルの多くは、インドネシアの熱帯雨林を伐採したアブラヤシのプランテーションでつくられるものです。僕らが最近スタートしたインドネシアのツアーでは、アブラヤシのプランテーションや、森林伐採によりすみかを失ったオランウータンのリハビリ施設などを訪問します。

日々生きていくことで、知らず知らずのうちに森林や生き物に負荷をかけている。ツアーをとおしてそんな事実を目の当たりにした参加者たちは、森林の問題を自分ごと化するようになるのです。

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オフィスにはオランウータンのぬいぐるみ(右)。私たちの生活が、熱帯雨林に住むオランウータンの生存にまで影響を及ぼす。

いい森林が、美味しい魚を育てる理由

——さて、SDGsという観点でいうと、森林はどのような立ち位置なのでしょうか。

水谷:国連森林フォーラムが、「持続可能な森林保全を行うと、 SDGsの17の目標のうち14が達成される」としています※。

※国連森林フォーラム(UNFF)「国連森林戦略計画2017-2030」(2017年)。

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中でも特に関連のあるゴールはというと、まずは「15番 陸の豊かさも守ろう」が森の生態系に直結しているため、一丁目一番地。次に、森は植物の光合成によって二酸化炭素を吸収することから「13番 気候変動に具体的な対策を」、また水源を保つ役割も果たすことから「6番 安全な水とトイレを世界中に」にも関わりがあります。

さらに、四方を海に囲まれている島国の日本では、「14番 海の豊かさを守ろう」もつながりが深いと感じます。日本には昔から「魚(うお)つき林(りん)」(=海のそばで魚を呼び寄せる森)という言葉があるのですが、沿岸の森が豊かになると、落ち葉の養分が川から海に流れて、水産物も豊かになるんですね。

牡蠣の漁師や昆布漁師が沿岸の山に木を植える、という取り組みが、じつは日本中で行われているのです。

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——森の状態が、牡蠣や昆布の味も左右するだなんて!

水谷:そうなんです。それから意外と盲点なのが「17番 パートナーシップで目標を達成しよう」。いくら僕らが「森を守ろう」と頑張っても、一団体では限界があります。なので自治体と組んだり、企業と協働したり、専門家の助言を仰いだり……。あらゆる社会課題にいえることですが、産官学民のパートナーシップなしには、問題は解決し得ないと思います。

森のために、私たちもReshapeしなきゃ

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宮崎県諸塚村の小学生が、「FSC認証」についてまとめた図。FSCは森林の環境保全に配慮し、継続可能な形で生産された木材に与えられる国際的な認証制度だ。

——最後に、今年のMASHING UPのキーワードは「Reshape」なのですが、われわれが森林を守るためにreshape(作り直す、捉え直す)すべきものは何だと思われますか。

水谷:「消費活動」でしょうね。肉や野菜を買うときに、生産者の顔が見えると安心しますよね。でも木材となると消費者も鈍感。スギとヒノキの区別もつかない、なんて人も少なくないのではないでしょうか。

たとえば家具を買うときに、「これはどこ産の、何という木ですか?」とお店の人に質問をぶつけてみる。積み重なれば、売る側も「産地偽装されたものや森林を違法に伐採したものは売れないな」と背筋が伸びる。もちろん、前提として、商品がつくられる過程や環境への影響など、企業側もブラックボックス化せずにきちんと情報開示する責任があります。SDGsでいうところの「12番 つくる責任、つかう責任」ですね。

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消費は投票と同じ。何にお財布をひらいてどうお金を払うか。消費者が賢くなって、「サステイナブルな商品しか買わない」となれば、選ばれないものは淘汰されて市場から消えていく。

現に、ヨーロッパなどでは消費者の目が厳しくなり、企業も「サステイナビリティ」を経営の要素として取り入れざるをえなくなってきた。オセロがひとつずつひっくり返っていくように、そうやって消費者の側から上流まで変えていくこともできるんじゃないかと思うんです。

日々のチョイスの瞬間、例えばシャンプーひとつ、コピー用紙ひとつ、ワインひとつ選ぶときに、そんな視点をふと思い出してほしい。

「アマゾンの火災は対岸の火事」ではなく、人間の経済活動と熱帯雨林の問題はつねにせめぎ合っている。そのことを、忘れないでほしいと思います。

——どうもありがとうございました。

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このトピックと特にかかわりのあるSDGsゴールは?

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撮影/キム・アルム 取材・文/中村茉莉花(MASHING UP編集部)

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MASHING UP編集部
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