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「今、幸せがいっぱいある仕事をしている」。価値観をReshapeすると見えてくること/鮫島弘子さん

SDGsのゴールを目指すということは、私たち一人ひとりが、これまでの価値観をほんの少し、見直してみるということでもあります。

たとえば、大量生産・大量消費ではない、新しい仕組みを考えること。エチオピアで起業し、現地の工房で作った美しくエレガントなバッグを、本当に欲しい人だけに届けるブランド「andu amet」代表の鮫島弘子さんに話を聞きました。

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「andu amet」 ファウンダーでデザイナーの鮫島弘子さん。

大量生産された安いモノも、資源は同じだけ使っている

——SDGsの12番「つくる責任 つかう責任」にも関係する、大量生産・大量消費に疑問を抱いたことで今の事業を思い立ったそうですね。

鮫島弘子さん(以下、鮫島):そうですね。現代は、たとえば100個くらい売れればいいようなものが200個作られ、売れ残りはどんどん廃棄されるという時代。生産コストを極限まで下げることで廃棄率が多少あがっても利益が出せるとし、機会ロスを回避するほうが重要と考えるファストフード、ファストファッションが主流になってきたからです。

メーカーでデザイナーをしていた頃は自分もまさにその渦中にいたので、「きれいなゴミ」を作っているような気がしてしまって。大量生産・大量消費ではない仕組みを作ろうと思ったのが起業のきっかけです。

——具体的に、どのようなビジネスを手がけていらっしゃるのでしょうか。

鮫島:そんなに斬新なことではありません。ただ長く大切に使いたいと思ってもらえるようなものを適切な数だけ丁寧に作って、直接お届けしています。安いからとか、たまたま手にとって気が向いたからとかではなく、本当にファンになってもらうために、通常消費者サイドからは見えにくいバックグラウンドストーリーもできるだけお伝えするようにしています。

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「andu amet」のシグネチャーバッグ「Hag Hag」¥76,000円(税別)と、持ちてにぶら下げた「STARBUCKS TOUCH The Hug」。この夏にスターバックスとのコラボで誕生した「STARBUCKS TOUCH The Hug」は希望者に抽選で販売するかたちをとり、完売した。

大量生産で作られたものは、安く、手に入りやすいというメリットがありますが、その分、必要ではないものまで買ってしまいがち。どんなに安物でも、材料や物流に必要な燃料など、たくさんの資源を使います。そういうものを10個買い替えるのと、自分で選んだ本当にいいものを1つ持つのとでは、仮にかかった値段は同じくらいだとしても、使っている資源の量は10倍違うんです。

それが結果的に、資源の枯渇に繋がったり、地球の温暖化に影響を及ぼしたりします。たとえばエチオピアではこの数年、エルニーニョの影響で何十万人もの人たちが飢餓に直面しています。日本にいるとなかなか体感しづらいけど、先進国での大量生産・消費が地球の裏側で誰かを苦しめているかもしれない。そういうことにまで思いを馳せてお買い物ができたら素晴らしいですよね。

自己満足ではなく、社会を変えることが使命

——「andu amet」のビジネスモデルのメリットは?

鮫島:ひとつは、熱心なファンのお客様がついてくださることでしょうか。ファストファッションブランドだと一つのものを気に入って購入しても、ほかにもっと安くていいなと思うものがあれば簡単にそちらに乗り換えられてしまいます。

でも「andu amet」では、ありがたいことに何年も指名買いしてくださるお客様が本当に多いんです。ご自身だけでなく、お母様だとか彼女だとか身近な方にもプレゼントくださるなど、口コミでファンの輪が広がっています。

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「andu amet」が手がけた「ほぼ日専用手帳カバー」。写真は「andu amet ナイルブリーズ[カズン用カバー]」¥28,000(税別)。※ほぼ日手帳オンラインストアで販売中。

「andu amet」のストーリーの伝え方に関しては、去年、私の中で転機があったのです。設立以来、「モノが良ければ選ばれるはず。お情けで買ってもらうのは不本意だから、エシカルやフェアトレードということはなるべく言わないようにしよう」と考え、店頭ではそういったことを一切出さないようにしてきました。

去年シリコンバレーでプレゼンをする機会をいただいたときも、いつものように製品の優位性の話ばかりをしたのです。そうしたら「この町では見た目や流行、値段だけでモノを買う人はひとりもいない。企業のミッションに共感して始めてモノを選ぶ。製品がどんなに素晴らしいかだけを説明されてもなにも響かない」と言われてしまって。

なんと成熟した価値観なんだろうと衝撃を受けました。でも残念ながら日本市場はそうではない。それ以来、社会にとって良いと思うことを一人で追求するだけではなく、「社会の価値観を変えること」も使命にしよう、ブランドとしてそのための発信ももっとしていこうと思うようになりました。もちろん、妥協のないモノづくりをすることが大前提ですけどね。

地道に信念を貫き、スタッフと共に成長してきた7年

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ほとんどの職人たちは「andu amet」でゼロから仕事を教わり、革職人になる。

——日本から単独でエチオピアに渡り、現地でモノづくりをするにはご苦労もあったかと思います。

鮫島:エチオピアは外資系企業への規制がいろいろとあります。たとえば最低資本金額は20万ドル(当時で2400万円相当)と世界的にもかなり高額。私も現地工房を作るときには、この額を必死でかき集めました。

エシカルの追求にも一苦労がありました。もともと革産業はSDGs目標の6でもある「安全な水」ととても関係のある産業です。革をなめすとき、大量の水と様々な薬剤を使用するためです。それらをそのまま河川に排出させないよう、浄化システムが完備したタンナー(皮なめし工場)と取引をする必要があるのですが、残念ながらエチオピアではそういう工場は非常に限られています。そのため、あるタンナーで問題があったからと言って、別の取引工場に移行するということがなかなかできないのです。

また、相手が浄化システムを完備していると言っていてもそれを鵜呑みにするわけにもいきません。オフィスに堂々とサーティフィケート(証明書)が飾られているのに、実際に現場を見せてもらうとなぜかシステムが稼働していないということは多々あります。そのため弊社では、取引先の工場には定期的に訪れ、浄化システムがきちんと稼働していることを自分の目で確認し、問題がないところからのみ革を調達しています。ちょうど昨日もガタガタ道で1時間かかる市外の工場まで浄化システムのチェックに行ってきたところです。

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エチオピア高原でのびのびと生きる羊たち。この土地の標高の高さが革の質に直結している。

——それでもエチオピアにこだわってきたのは、エチオピアシープスキンの質に惚れ込んだからでしょうか?

鮫島:それはあります。それから素材のほかに、人にもとても大きな可能性を感じています。エチオピアは最貧国のひとつで教育もそこまで普及していないのですが、歴史的、宗教的な背景から誇り高く真面目な人たちが多いんです。世界有数の援助大国ですが、実際には多くの人々がほどこしを受けるのではなく、手に職をつけて自立したいと強く思っています。

弊社ではポリシーとして職人たちの逆境だったり直面している課題だったりをことさら取り上げることはしていませんが、実際には様々なバックグラウンドで育った人たちが働いており、お互いの共通認識ができあがるまでは苦労しました。「見えない裏側までまっすぐ縫えなんて、ヒロコはどんだけ意地悪なんだ、もう辞める!」なんて言われたこともあります。

それからエチオピアには世界各国から援助団体が集まっているのですが、そういう存在が障害になることもあります。さきほどエチオピア人が誇り高いと言いましたが、厳しく指導するとなりで無料で食べものや着るものを配っている団体がいたら、やっぱりそちらへ流れてしまう人も出てきてしまいますからね。

でもそんな苦労をかさねながらも8年経ち、残ってくれた職人たちは立派に育って、今は下の子たちを指導してくれています。「見えない裏側もきちんとまっすぐに縫わないとダメだぞ」なんて言っていますよ。エチオピア国内では群を抜いて高い縫製技術や品質管理能力を身につけ、それによって高い給与を得ている先輩職人たちの存在が、アシスタントたちのモチベーションにもつながっています。彼らこそが弊社の宝です。

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日本の寄木細工の技法を革で再現するなど、デザインには日本らしさも取り入れている。

苦労以上に、幸せがたくさんある仕事

——雇用の面でもSDGsに貢献していますね。

鮫島:雇用の数だけでいったら、大量生産大量消費型のブランドが工場を作るのが一番なのでしょうが、弊社が重視しているのは数ではなく、質。それは雇用も同じです。エチオピアで、高付加価値のものが作れるということを証明したいのです。弊社の職人たちも、高い技術を身につけたからこそ、それに見合う給与を得ています。エチオピアでは、日本は憧れの国。日本のお客様からの声は職人にも伝えていますが、憧れの日本で、自分が作ったものが憧れられているという事実に、彼らも誇りを持ってくれています。

職人たちの表情もこの9年でずいぶん変わりました。難しい環境で育ち人とのつきあい方を知らなかった子が、職場結婚して子供も生まれ、毎日幸せそうにしています。日本ではお客様からうれしい言葉をいただき、エチオピアでは職人たちの笑顔が見られて、本当に、幸せがいっぱいある仕事です。

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家族のようなエチオピアの仲間たちと。

革製品に使われる皮革は食肉の副産物

——日本で革製品を買うとき、心がけるべきことは?

鮫島:あまり知らない方もいらっしゃるかもしれませんが、牛革、羊革、豚革などの製品に使われるのは通常は食肉の副産物なんです。エチオピアでは流通の問題で、食肉として屠殺された羊の3割くらいしか革製品になっていません。アメリカでも最近ビーガンファッションブームで牛革が余り、廃棄となっているそうですが、もったいないことです。お肉として動物の命をいただくのであれば、むしろ皮も骨もツノもあますことなく使ってあげることが大切なのではないでしょうか。

一方でワニやミンク、きつねなど、革や毛皮のために殺されている動物も確かにいます。「革製品、毛皮製品だからすべてダメ」と思考停止するのではなく、それぞれの革製品がどういう経緯で製品になっているかをきちんと知り、自分の頭で考えて選ぶことが大切だと思います。

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エチオピアでは羊は一般的に食されている。使っているのはすべてその副産物の革。

考えるという意味では、ブランドや企業からの情報を鵜呑みにしないことも大切。製品というのはたくさんのパーツや工程をへて作られるものですが、よくよく聞くとそのほんの一部だけがフェアトレードやオーガニックという製品が、残念ながら市場にたくさんあります。また何百人、何千人の雇用を創出していると謳っていても実は正社員ではなく、プロジェクトベースの日雇いという工場も。累積人数はもちろん大きくなりますが、継続雇用ではないため技術向上しづらく、また収入も安定しません。

といっても、難しく考える必要はないのです。購入時にその製品がどのような国でどのような背景で作られているか、店員さんとおしゃべりしながら教えてもらうのは、ただ品物を選んでレジに運ぶだけのお買い物より楽しいでしょう。社会や環境のことを本気で考えている会社にとっても、そういう質問を受けるのははむしろ嬉しくありがたいものです。

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andu ametのエシカルレザー。厳しい環境基準をクリアする工場で生産される、なめらかで繊細な手触りが特徴のハイエンドな素材。

「豊かさ」を見つめ直す

――最後に、今年のMASHING UPのキーワードは「Reshape」なのですが、大量生産・大量消費の現代において、私たちがreshape(作り直す、捉え直す)すべきものは何だと思われますか。

鮫島:自分にとって「幸せ」や「豊かさ」とは何なのかを捉え直すことだと思います。たくさんのものを次から次へと取っ替え引っ替えするのって、裏を返せばひとつひとつのものに満足していないということでしょう? 自分は何が好きなのか。幸せに感じるのはどういう状態なのか。じっくりと見つめ直した上で、本当に気に入ったと思えるものひとつを選び、それを大切に使うほうがきっと満たされる。それが結果的に世の中のためにもなるとしたら、素敵ですよね。

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鮫島弘子(さめじま・ひろこ)/andu amet代表
化粧品メーカーでデザイナーとして勤務した後、ボランティアとしてエチオピア・ガーナに赴任。帰国後、外資系ラグジュアリーブランドでマーケティング・クリエイティブを担当を経て、2012年、エチオピアシープスキンを使ったレザーブランド「andu amet」を設立。日経・カルティエ「Change makers of the year」、APEC「Young Innovator Award」等受賞、国内外で注目されている。

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中島理恵
ライター・エディター。埼玉県出身、広島県在住。編集プロダクション、出版社勤務を経てフリーランスへ。旅、食、建築、インテリア、ビジネス、育児、動物など多岐にわたる記事の執筆・編集、翻訳などを手がける。3児の母。

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