日本は、昨年の世界経済フォーラム(WEF)のジェンダー・ギャップ指数が149か国中110位、G7の中では最下位でした。20年以上、女性のエンパワーメント、ジェンダー平等に携わる大崎麻子さんに、SDGsにかける期待、今後の課題などについて聞きました。前編はこちら。
大崎麻子(おおさき・あさこ)
ジェンダー・国際協力専門家。元国連開発計画(UNDP)職員。ジェンダー平等と女性のための教育、雇用、起業支援などを手がける。現在、関西学院大学総合政策学部客員教授、公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン理事、男女共同参画推進連携会議有識者議員(内閣府)。著書に、「女の子の幸福論 もっと輝く、明日からの生き方」(講談社)、「エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力」(経済界)などがある。
「ジェンダー主流化」が重視されるSDGsのビジョン
——SDGsには17のゴールがありますが、それぞれ独立するのではなく、複数が絡んでいますよね。例えば、5番の「ジェンダー平等を実現しよう」は、1番の「貧困をなくそう」、3番の「すべての人に健康と福祉を」、4番の「質の高い教育をみんなに」とも密接なつながりがあります。
大崎麻子さん(以下、大崎):みなさんがよく見る17のゴールの表は、2015年9月に国連加盟国193カ国が全会一致で採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の後半部分で、言わば「メニュー」。重要なのは、前半部分に示されたビジョン。そこに、基本原則として「ジェンダー主流化」の重要性が述べられています。
ジェンダー主流化とは、どのような分野であれ、策定しようとしている法律、政策、事業が男性と女性にどのような影響を及ぼしうるかを精査しながら、最終的にそれらの取り組みから男性と女性が平等に恩恵を受けられるようにするアプローチのことです。
SDGsの各ゴールにおいて、現状分析のために必ず男女別でデータを取る。子ども、農民、学生という属性別だけではなく、男女別でも取るんです。男女間で差があれば、その格差の背景要因を探ります。それがジェンダー分析。
例えば、初等教育の就学率に男女格差がないのに、中等教育では女子就学率が下がるというデータがあるとします。「いや、女子はやる気がないからでしょ」で終わらせるのではなく、何が女子の就学を阻んでいるのかを探ります。
例えば、生理、望まない結婚や妊娠や出産、無償ケア労働の手伝い、学校や通学路での暴力のリスクなどが、女子特有の障壁として見えてきます。それらの解決策として、安全で衛生的な男女別のトイレを設置するとか、井戸や給水設備のようなインフラを作るとか、親やコミュニティや教師への啓発をするとか、教育におけるジェンダー平等を達成するための施策を実行していくのです。
また、必ずしも女子の就学率の方が低くなるわけではないんですよ。モンゴルでは、中等教育では男子の就学率の方が低いんです。男の子は、牧業などの過酷な肉体労働を担うことが期待されているので、はやばやとドロップアウトしてしまうのです。こういったこともジェンダー分析を通して見えてくるので、それらの問題に対応する施策や事業を考えていきます。
——日本でも、ジェンダー分析は行われているのでしょうか?
大崎:データを取るようにはなってきましたけれど、その後が課題です。データをもとにジェンダー分析をする人、政策や事業に落とし込む人など、ジェンダーの専門性のある人材が全く足りていませんね。私のUNDPなどでの経験からもいえることですが、専門的な分析、政策や事業の立案にはお金がかかります。数字に違いが出ても、その背景にあるジェンダー問題がどういうものか、というところまでは分かりません。国が本気でSDGに取り組むのであれば、環境、労働、健康など、SDGsがカバーする全ての領域で、ジェンダー主流化を進めなければなりません。そのための人材を育成し、予算を投じるのは重要なことです。
役員会を多様なメンバーで構成したほうがいいワケ
——企業も、SDGsを無視できなくなってきました。
大崎:企業を大きく動かす、投資家の動きに注目しています。
SDGsは国連で採択されたもので、国連の原点は「人権」です。でも、G20やG7といったグローバル経済の安定を目的とする場でも、ジェンダー平等は重要視されています。2018年の首脳宣言は、「ジェンダー平等は、持続可能で公正な経済成長に不可欠である」と明言し、ジェンダー主流化の必要性が盛り込まれました。
また、欧米を中心に、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重要視する機関投資家も急速に増えています。
リーマンショックでの投資家たちの最大のレッスンは、性別や年齢、人種などが多様なメンバーで役員を構成した方が、きちんとした意思決定が行われることだと言われています。当時、ウォール街の金融機関の役員会には白人男性しかいなかった。競争心にあおられ、短期的な収益のために暴走したという見立てです。
実際、「意思決定層に女性が多いと不正が少ない」というデータもあります。ですから、日本の企業でも、役員会が「生え抜きの日本人のシニア男性」ばかりで構成されている場合は、何かあった時に情報を開示せず隠蔽するのではないか、と思われてしまいます。投資家にとっては大きなリスクです。
——ジェンダー主流化を無視できない状況なんですね。
大崎:どの企業に投資するかを判断する際に、その企業のジェンダー平等の進展度に注目する「ジェンダー投資」は、今注目を集めています。世界最大の機関投資家である日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も、MSCI日本株女性活躍指数(WIN)を採用していますね。
オランダの非営利団体「EQUILEAP」では、ジェンダースコアカードをもとに、世界中の企業をランク付けしています。質問項目は具体的で、「女性・男性両方に対する有給の育休の付与」「女性が所有するビジネスからの調達等サプライチェーンの多様性確保」「セクシャル・ハラスメントへの対応」「男女間の賃金格差」など19項目。
日本企業を対象としたWINは、「従業員に占める女性比率」「管理職に占める女性比率」などをチェックしていますが、グローバルなスコアカードは、ジェンダー平等の視点からより踏み込んだ指標を用いて企業を評価しています。まずは、グローバル・スタンダードを学ぼうというイニシアティブを近々始める予定です。
セクハラを禁止する法律がない日本
——それでは、ジェンダー平等のために、私たちが個人レベルでできることは何でしょうか?
大崎:自分の権利を知ってほしいです。例えば、痴漢は「よくあること」とこれまで矮小化されてきましたが、実際には性暴力であり、人権侵害です。セクシャルハラスメントに関しても、G7諸国で唯一、禁止する法律がないのが日本です。女性の権利がどのように法律で規定されているか、私たち自身がもっと関心を持つところから、ジェンダー平等社会は始まると思います。
——最後に、ジェンダー平等を実現した持続可能な社会を作るために、Reshape(作り直す、捉え直す)するべきものは何だと思いますか?
大崎:「Reshape the policies(政策を作り直す)」ですね。SDGsで求められるのは、根本から変えるということです。努力義務でやってくださいといっても、永遠に実現しません。女性が連帯して言うべきは、今ある法律、政策、制度、予算分配のリシェイプ。それをなくして、持続可能な社会は実現しないと思います。
——ありがとうございました。
大崎麻子さんが、 MASHING UPカンファレンスに登壇します!
[TALK SESSION]ニューエコノミー SDGsはCSRの延長線ではない
2019-11-08[FRI]15:15-16:05 @TRUNK(HOTEL) 1F ONDEN
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撮影/キム・アルム
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