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スポーツには人を結び付ける“魔力”がある/JICA青年海外協力隊事務局員・浦 輝大さん

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32歳までアメリカンフットボールの選手として活躍し、その後、スポーツや国際協力を軸に活動してきた浦 輝大さん。青年海外協力隊として、南太平洋の島国バヌアツを訪れたのち、複数の仕事を経て、現在はJICAの青年海外協力隊事務局で、スポーツに関わる業務を中心に、さまざまな企画やイベントの取りまとめをしている。ずっとスポーツと共にある浦さんの価値観は、環境や時代に影響されてめまぐるしく変化してきた。浦さんが考えるスポーツの可能性とこれからの展望について伺った。

浦 輝大(うら てるひろ)さん
大阪府出身。高校・大学・実業団・アメリカのプロリーグでアメリカンフットボールをプレー。2003年には実業団チームで日本一になり、32歳で引退。2007~2009年、青年海外協力隊の体育隊員としてバヌアツに派遣され、その後、イギリスのボランティア団体に所属し西アフリカのアンゴラにて体育指導、JICA多摩地区デスク国際協力推進員、日本スポーツ振興センター「スポーツ・フォー・トゥモロー・コンソーシアム」事務局を経て、2018年9月より現職。

発展途上国バヌアツでの衝撃的なことば

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日本人って、ずっと成長し続けなくちゃいけないんでしょ? ユニークだね

そう言われたのは、僕が初めて青年海外協力隊としてバヌアツに派遣されたときでした。加えて、「日本人が、ここへ何しに来たの?」とも言われたんです。

僕は、困っている人たちを助けるという役割を信じて、バヌアツへ渡りました。ところが当時、2003年ごろのバヌアツの幸福度指数はとても高かった。彼らは、自給自足で生活でき、今日も明日も同じ日常が続いていくことが一番幸せだと思っていました。

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2年間を過ごしたバヌアツで(写真右下が浦さん)。

それを聞いた僕は、経済成長を追求する先進国のライフスタイルを伝えることにとても迷いました。僕の青年海外協力隊としての役割は体育を教えることでしたが、僕が直接現地の生徒たちに体育を教えてしまうと、現地の教師が生徒に体育の授業をする機会を奪うだけ。そうではなく、教師に対して体育の技術や教え方を伝える、ということに重きを置いていました。

ところが、先生たちは、「体育をがんばって何になるの?」といった様子で、僕の言葉に耳を貸しません。そのうち「お腹が痛い」「体調が悪い」などと言って、授業を休むようになりました。あとから、それはバヌアツの文化で婉曲的に断られていると知るのですが……。その時は憤りを感じていましたね。

スポーツなら国や文化が違っても通じ合える

そもそも僕が青年海外協力隊としてスポーツを教えようと思ったのは、アメリカンフットボールの実業団からの引退後、セカンドキャリアとして面白いチャレンジがしたいと考えたからでした。

実業団の最後の5年間、コーチがアメリカ人だったことも影響しています。彼はカタコトの日本語でも、チームをしっかりと結果に導いていました。その経験から、スポーツなら国や文化が違っても通じ合えると思ったんです。さらには、開発途上国の人のために貢献できると思えば、ネガティブになりがちな引退も、前向きにとらえられると考えました。

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バヌアツで体育の指導をする浦さん。

それなのに、いざバヌアツに行ってみると歓迎されない現実が待っていた。2年の派遣期間のうち、1年は空振りのまま終わりました。

誰にも相談できず、ひとりでたくさん悩みました。その時に考えたのが、援助される側の人の気持ちでした。例えばですが、もしもタイムマシーンがあったとして、100年先の人が日本にやってきて、

「日本人はかわいそうだね。平均寿命が85歳で、癌も糖尿病もエイズも治せないなんて……。100年後の平均寿命は120歳だよ。癌は治る病気だし、HIVはすでに撲滅したよ。僕たちが君たちの生活を改善してあげよう」

といって彼らの「正義」と「使命感」によって僕のこれまでの人生が否定され、惨めなものだと決め付けられて彼らの価値観を押し付けられるくらいなら、このまま胸をはって自分の人生を歩みたい。平均寿命が85歳で何が悪い?と感じる自分がいました。それと同じことを今自分がバヌアツで行っていて、勝手に行き詰っているのだ、と気がつきました。

その結果、相手を変えようとするのではなく、自分の考えを変えるべきだと思いました。まずは、子どもたちと一緒にとにかく体育を楽しもうと決めました。活動がうまく行き始めたのは、そこからですね。

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2年目になって、言葉が上達したことも助けになりました、1年目は単に子供たちに運動をさせていただけでしたが、言葉が上達したことで、例えば大縄跳びでは全然跳べなかった子どもたちに対して「リーダーが声をかけてやってみよう」と促すと、お互いにコミュニケーションを取って跳べるようになる。そのあとにリーダーシップやチームワークの大切さについて説明することで、体育がただの身体活動ではなく、規律や協調性を育むツールであることを伝えることができた

また、「三角おに」という遊びでは、相手を攻撃しながらも別の方向からの攻撃をよけなくてはならならず、道路を渡る際、横からくる車に注意するという交通ルールにも通ずると伝えることができる。単に体を動かすだけではなく、社会で役立つスキルを学べる。スポーツにはそんな副次的な効果もあるということを伝えることができるようになりました。

やがて、徐々に体育を楽しむようになった子どもたちの姿を見て、ようやく教師たちも興味を示してくれるようになった。スポーツには、人と人を結び付ける魔力があると感じています。

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やんちゃで元気いっぱいのバヌアツの子どもたち。

女性の社会進出にも、スポーツが活用できる

2年の任期を終えて帰国してからは、小学校の非常勤講師や海外のボランティアなど、面白そうだと思うことに次々とチャレンジしました。2014年からは、日本政府が主導する、東京オリンピック・パラリンピックに向けた官民連携のスポーツ国際貢献事業である「スポーツ・フォー・トゥモロー・コンソーシアム」の事務局で勤務し、現在はJICA青年海外協力隊事務局で働いています。

ボツワナで行われたソフトボール大会。

青年海外協力隊は、アジアやアフリカ、中東、中南米など、80か国ほどに派遣され、中にはかつて自分も携わった学校の体育指導や、特定競技のコーチング・普及など、スポーツを通じた国際協力活動を行う隊員もたくさんいます。彼らの活動はもちろん、JICA全体として行っているスポーツを通じた国際協力事業「スポーツと開発」の取り組みに関する情報をまとめ、発信していくのが、僕の役割です。

例えば、2017年11月には、JICAとタンザニアの情報・文化・芸術・スポーツ省で協力し合い、タンザニアでは初めての女子選手を対象とした陸上競技会LADIES FIRSTを開催しました。タンザニアの都市部は女性の社会進出が進んでいるものの、地方ではまだまだ。スポーツを通して脚光を浴びる人が出てくると、周囲からの女性への見方が変わり、女性の社会地位向上につながるのです。

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タンザニア初の女性の陸上競技会「LADIES FIRST」で、リレーを楽しむ選手たち。

その国の女性だけが声をあげると、「チームワークを乱す」とされてコミュニティで浮いてしまったり、文化の壁に邪魔をされたりすることもあると思います。でも、JICAのような第三者が介入すれば、これまでの伝統と異なることにも、耳を傾けてもらいやすい。

また、スポーツで活躍することは、次世代の人に対するロールモデルになる。女性でもいろいろな国を訪れたり、脚光を浴びたりすることができる。スポーツには、競技をするだけでなく、応援し応援されるという側面、訴求効果が期待できます

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「LADIES FIRST」で、10000メートル走を競う選手たち。

スポーツで、人々の生活を豊かにしていく

僕はずっと競技スポーツの選手だったので、勝つことを一番に考えていました。でも、これからはスポーツを通じて女性の社会進出を促したり、HIV等の感染症予防の啓発を行ったりすることで、勝敗以外のスポーツの価値や効果を見出し、活用していきたい。

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「LADIES FIRST」では、サイドイベントとして若年妊娠の問題を取り上げた絵本の読み聞かせも行った。

東京2020オリンピック・パラリンピックは、さまざまな「レガシー」を残すのだろうと思います。競技として、勝敗にこだわるスポーツの側面だけでなく、健康増進やコミュニティづくり、生きがいやストレス解消といったひとりひとりの人生を豊かにすることに欠かせないものとして、スポーツが推進されていくのではないでしょうか。スポーツには人と人を繋ぐ不思議な力があると僕は思います。一緒に体を動かすことで、お互いの新たな一面が見えてくる。

豊かな人生を育むためにスポーツを活用することで、僕自身が経験したアスリートのセカンドキャリアがどうあるべきかといった課題に対する考え方ももっと多様になっていくはずです。これからも、スポーツを通じて面白いことにチャレンジしていきたいと思っています。

スポーツを通じたJICAの国際協力

JICAによる「スポーツと開発」への支援は、1965年に青年海外協力隊の派遣をスタートして以来、これまで90を超える開発途上国で実施されてきました。その内容は、体育科教育改善、社会的弱者の社会参加の拡大・国や地域の平和促進、スポーツ競技力向上など多岐にわたります。

アフリカ地域では、2014年1月から2017年4月の約3年間で、24か国に754人のボランティアを派遣し、セネガルや南スーダンなど12の国で運動会を実施しました。タンザニアで行われた「LADIES FIRST」はその代表例です。スポーツを通じて、途上国の子どもや女性、障害者などあらゆる人々のより豊かな生活をめざしています。

浦 輝大さんがMASHING UPに登壇します

DAY2_スポーツから考える

スポーツから考える、ジェンダー平等 明日につながるスタートライン

2019-11-08[FRI]17:45-18:35 @TRUNK(HOTEL) 2F MORI
タイムテーブルは
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カンファレンス「MASHING UP vol.3」イベント概要は
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JICA

sponsored by JICA

文/栃尾江美、撮影/キム・アルム(1、2、5枚目)、写真提供/JICA(7〜10枚目)、浦輝大さん(3、4、6枚目)


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