2050年、国連の予測では、世界人口はほぼ100億人に達するといわれています。
「人口増加による食糧不足」といった危惧も広がるなかで、日本を含む先進国では食品廃棄量が膨れ上がるばかり。こうした状況を根本から変えるには、私たちの想像を超えるイノベーションが必要なのかもしれません。
2019年11月7日・8日に開催されたビジネスカンファレンス「MASHING UP vol.3」では、そんな「未来の食」の在り方について、フード界の最先端で「食」と向き合うスピーカー陣がトークセッションを繰り広げました。
トークセッション「『未来の食』が、私たちの想像を遥かに超えていた – アイデアとテクノロジーと情熱が変えるこれからの『食』」に登壇したのは、Mizkan Holdingsの塚田恭明さん、たべものCo.の菊池紳さん、電通の榊良祐さん。
モデレーターは、食や農林水産業をテーマにした学びと対話の場「霞ヶ関ばたけ」を運営する松尾真奈さんです。松尾さんは、シェアハウスで暮らす一児の母。「未来の食の環境を変えていく、新しいアイデアを生み出す時間にしたい」と話します。
フードロスをおいしく解決するアイデアは?
Mizkan Holdings「ZENB JAPAN(ゼンブ ジャパン)」の塚田さん。
松尾さんに自己紹介を促された塚田恭明さんは、Mizkan Holdingsで始まった新規事業「ZENB」のマネージャー。
ZENBの商品は、コーンやビーツなど、環境負荷の比較的低い野菜を可能な限り“ぜんぶ”使って、手軽に食べられるペーストやスティックにしたものです。
「ZENB PASTE」はえんどう豆、ビーツ、枝豆、コーン、パプリカの5種類。「ZENB STICK」はコーン、ビーツ、パプリカ、パンプキン、枝豆、キャロットの6種類を展開している。
塚田さん「ZENBのコンセプトは“まるごと野菜”。コーンの芯、枝豆のさや、ビーツの皮など、栄養価が高いのに捨てられていた部分もぜんぶ使っています。ペーストに使っているのは野菜と2種類のオリーブオイルだけです。廃棄物を減らすと同時に、素材そのものがどこまでおいしくなるかもZENBのテーマ。おいしいものを手軽に食べることで、健康につながることを目指しています」
この日は会場の参加者に「ZENB STICK ビーツ」が配られ、その味を試すことができました。赤紫色のビーツを皮までまるごと潰し、ナッツや雑穀、果汁を加えたスティックで、ビーツの食物繊維やポリフェノールがたっぷり。甘さ控えめの大人の味わいです。
塚田さん「じつはビーツのスティックは、ワインやチーズとも相性抜群なんです。私のおすすめは“焼き野菜”風。トースターでスティックを数分カリッとあぶると、野菜本来の味や甘みが際立ちます」
1804年創業のミツカンは、もとは造り酒屋。捨てられていた酒粕を「粕酢」にし、おいしくて安価なお酢を江戸の寿司屋に提供したのが事業の始まりだったといいます。
「ZENBは創業時のスピリットを生かした事業」と語る塚田さん。食品メーカーとして新しいサステナビリティをどう生み出していくのか——大きな問題と真摯に向き合って生まれた商品が、こんなにも風味豊かで「おいしい」ことは、消費者である私たちにもうれしいニュースです。
食べ物が持続的に「ある」ために
たべものCo.の菊池さん。
「食品ロスを減らすというZENBのコンセプトには、SEND(センド)と共通するものを感じました。ネーミングもちょっと似ているし、思想が近いのかもしれませんね」と話すのは、起業家の菊池紳さんです。
菊池さんが前職で立ち上げた「SEND」は、地方にある5000軒弱の生産者の畑と、東京都内にある7500軒以上の飲食店をつなぐ流通・物流プラットフォーム。現在は新たに「たべものCo.」を共同創業し、食料生産や供給モデルのイノベーションに取り組んでいます。
菊池さんのビジネスデザインのテーマは、食べ物が持続的に「ある」こと。そのためには次の4つのレイヤーが同心円状に重なっていることが必要だといいます。
1.資源・原料が持続的であること
2.つくれる環境・インフラ・設備があること
3.従事する人が持続できること
4.届ける仕組みがあること
スライドは、菊池さんが考える4つのレイヤーを表したもの。各レイヤーで展開しているサービスに「chiQ」「ハレルヤ」「FarmPay」「SEND」がある。
菊池さん「食の仕事をするようになって10年になるのですが、10年かかってこのレイヤーの姿にたどり着いたというところです。やってきたのは流通の部分。『たべものCo.』で始めた『ハレルヤ』では、ピッカーと呼ばれる買取役のスタッフがフルーツ、野菜、山菜などを出荷する人のところまで出向き、事前に提示される内容で全量買取をしてくれるサービスを提供しています。
今年は『いきものCo.』という新しい会社を設立して、生命資源や生態系の持続性向上への取り組みも始めました。未来の資源不足に科学者は危機を感じているのに、僕たちには届いていない。未来の人が足掻かないで済むように、僕らがハッピーになれるデザインを探していきたいですね」
「SUSHI TELEPORTATION」の衝撃
電通 / OPEN MEALSの榊さん。
食糧問題への関心が高まるなか、世界ではテクノロジーで「食」にイノベーションを起こすフードテックが注目されています。
毎年アメリカで開催されている最先端テクノロジーの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」では、2018年に電通の榊良祐さんが率いるデータ食革命プロジェクト「OPEN MEALS」が大きな話題を呼びました。
スライドは、SXSWの会場で実演された「SUSHI TELEPORTATION」の様子。
特製の3Dプリンターや人工光ファームが並ぶ最先端のフューチャー・キッチン。職人が握る寿司を数cm角の形状で再構成し、3Dプリンターで出力することで、世界のどこでも日本の寿司を味わうことができます。食べる人の体内データに合わせ、もっとも栄養効果が高くなるように最適化することも可能です。
世界初の“デジタル上で食をデザインできるOS”や、“データ食を現実に出力する3Dフードプリンター”を開発中の「OPEN MEALS」。デザインされたデータ食は、世界標準規格の「.cube」フォーマットで記録され、世界の誰でも味わえるようになるといいます。
榊さん「フードテックは4年前くらいから急激に投資が伸びているジャンルです。世界中でカンファレンスも急増していますし、OPEN MEALSの取り組みも注目されています。『未来の食』は世界中の人々とつながり、個人の体内とつながる。そして料理はデータでシェアする、そんな世界になると考えています」
「OPEN MEALS」が繰り出す新たなビジョンに、会場からは驚きの声が。サステナビリティ、パーソナライジング、オートマタイジングを3つの柱として描き出された未来像が、「食」の新しいステージを垣間見せてくれました。
2119年の「未来の食」に望むこと
トークセッションの仕上げとして行われたのは、100年後の「食」に望むことを考えるワークショップ。参加者がテーブルごとに2119年の「未来の食」のイメージを語り合い、パネルに書いて発表しました。
霞ヶ関ばたけの松尾さん。
「買うときに誰がどこでつくったのかが可視化できる社会になっていてほしい」と書いたのは、モデレーターの松尾さん。各テーブルからは、「つながりを生むハブになっていてほしい」「旬のある完全食になっていてほしい」「テクノロジーが役立つ“ユニバーサルフード”が具現化してほしい」など、さまざまな意見があがりました。
わずか5分ほどのワーク、ほぼ初対面の者同士でこれほど会話が盛り上がったのは、それだけスピーカー陣が語る「未来の食」のインパクトが大きかったから。改めて「食」と向き合い、その未来を考える貴重な時間となりました。
MASHING UP vol.3
「未来の食」が、私たちの想像を遥かに超えていた
– アイデアとテクノロジーと情熱が変えるこれからの「食」
- 菊池 紳(たべものCo. 共同創業者 / CDO)
- 榊 良祐(電通 デザインストラテジスト / OPEN MEALS ファウンダー)
- 塚田 恭明(Mizkan Holdings / ZENB JAPAN 新規事業開発 マネージャー)
- 松尾 真奈(霞ヶ関ばたけ 代表)
撮影/c.h.lee、取材/田邉愛理
Sponsored by ZENB JAPAN
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