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- ダイバーシティ時代の都市・サービスを生みだすためのヒント 2/4
「ダイバーシティ時代」が始まった今、持続的で多様な社会を作るためには、企業は商品やサービス、そして街のシステムをどのように変化させるべきなのでしょうか? これからの時代に対応する都市・サービスを生みだすヒントについて、4人の登壇者がセッションを展開しました。
- 角谷真一郎(ヤフー ノーマライゼーションPJ プロジェクトマネージャー)
- 東浦亮典(東急 執行役員 渋谷開発事業部 フューチャー デザインラボ)
- 半澤絵里奈(電通 プロデューサー)
- 東由紀(Allies Connect 代表)
——このセッションは、2019年11月7日・8日に開催されたビジネスカンファレンスMASHING UPで行われました。
共通のOS、アプリケーションが街と未来をつくっていく
電通 プロデューサーの半澤 絵里奈さん。
(前回から続く)
半澤: ひとつ、質問をさせてください。 渋谷駅はメトロ、JR線、井の頭線(など乗り入れ路線が)いっぱいありますよね。縦割りをなくす上でポイントだったところは何だったんでしょうか?
東浦:たまたまスクランブルスクエアというのは東急のビルではなくて、東急6割、JR3割、メトロ1割という共同事業なんですね。だから比率は違えど、一緒になって議論してきたので、そこのところはなるべく解決していこうと歩み寄りました。銀座線も少し移動して、来春には埼京線も山手線の横まで移動してきて、垂直に移動しやすい状況になります。ひとつだけ置いてきぼりになっているのが井の頭線です。京王線使ってる方には申し訳ないんですが。
ちょっと営業になっちゃいますが、今日は都市のOS。パソコンの中にもOS入ってますけど、都市にも入ってる。それが20世紀ですね。今の渋谷のインフラも前回の東京オリンピックの時に作られたものも結構残っていて、かなり老朽化しています。当時は健常者、障害者、年寄りだろうが若かろうが、みんな等しく同じものを使うというのが一般常識でした。新しいビルが建て変わっていく中で、機能も上がっていきますし、行政側のデータも開示してくると官民の情報連携もしやすくなっていくでしょう。ヤフーさん他いろんなITの方いらっしゃいますが、いろんなデータが共通基盤となれば、共通アプリケーション入れられようになる。みなさんスマホ持って歩いているでしょうが、もっともっとあなたらしく歩けるようになっていくでしょう。今はまだ道半ばと言った感じです。
半澤:都市開発という目に見えているものとスマホが、どんどん連携していくということでしょうか?
東浦:今の渋谷はまだそこまで連携できてないですけど、インフラ、ハード側を作る人間もその辺を意識して用意して、いろんなIT企業の方と連携していくのがこれからの時代に必要だと思います。特に5Gという新しい技術は、まだ高価ですし、電波も直線的に進んでいっちゃうんですけど、渋谷は各キャリアさんもいちばん発信力がある街だとして、渋谷から新しいサービスを提供したいそう。そういう意味でも渋谷は新しくなっていくかなあと思います。
半澤:ありがとうございます。
東浦:で、これは私の本にも書いた持論なんですが、スマートシティとかいう言葉はもう10年ぐらい言われてるのに、スマートになってない。生活者というのが忘れ去られて技術ばっかりが先行して進んでしまっている。これは私がつくった造語で商標登録もしましたが、生活している人の人生、ウェルネスをいちばん大事に思ってつくった言葉に「WISE CITY」っていうのがあるんです。生活者のライフログデータをセキュアな状態で扱いながら、その人にとって最適な生活サービスを返していくというのが「WISE CITY」の世界観です。
分かりやすい話でいうと、東大の名誉教授がうちの沿線に住んでいて「僕は東急百貨店使ってるユーザーなんだけど、お中元やお歳暮を贈るたびに『どこの誰ですか?』と聞かれるの、あれ勘弁してくれよ」と。俺はお得意様なんだから、東急系の施設行ったら名乗っただけで全てが解決するようにしてくれー」と言われました。今はまだ縦割りだからそうなってないんですね。将来はそういうこともできたらなと思います。
視覚障害者にやさしいOSって、なんだろう?
半澤:ありがとうございます。では次に角谷さんからお話をお伺いしたいと思います。東浦さんからハードの話がありましたが、角谷さんは障害当事者というお立場から、またちょっと別の視点をお持ちかなと思います。お願いします。
角谷:今日は「生活のOS」の具体例を4つ持ってきました。点字ブロックはだいたい公共施設や公道にはあるんですけど、駐輪場の脇を通っているとブロックの上に自転車が置かれていることもあり、当事者の声が入ってるのかなと思うことが多々あります。加えて信号ですね。誘導の音楽が鳴ってくれるのはいいんですけど、交差点に立って、前と右両方から音が鳴っていると、音が鳴っていてもどっちだか分からないんですね。なので、音楽よりも「右進んで」「前進んで」とか言ってくれたらいいのになと思います。先ほどスライドの話もありましたけど、白背景に細い文字で書いてあると、見えないことがあるんですよ。ボタンを3つぐらい押せば読み上げてくれる機能があると思うんですけど、スパイ映画の暗号みたいで辿り着けない。
あと、生活のいちばん身近なOSである硬貨。100円玉と10円玉の区別がつかないんです。目を閉じて銅貨を触って欲しいんですけど、そんなに大きさが変わらないんですよ。50円玉と5円玉も然りです。なので50円玉と5円玉を間違えて、レジの人に渡すと変な顔されることはよくあります。当事者の声が入るとまた違うデザインになるのかなと思います。
ヤフー ノーマライゼーションPJ プロジェクトマネージャーの角谷 真一郎さん。
半澤:次は、天気の話にいきましょうか?
角谷:はい、そういうわけでOSづくりに(障害をもつ)当事者が関わるようになりました。インターネットの情報にどれだけアクセスしやすいかを「アクセシティ」と言います。もともとヤフー社内には、いろんな方が使ってくれるウェブサービスを、目の悪い人でも使いやすいようにしようよ、と推進してくれる方がいました。
研修を受けてダイバーシティに考慮して、いろんな人にサービス作りが大事なのは分かった、でもどうしたらいいかわからないというデザイナーがいます。一方で私は、ヤフー社内で障害を持ってる方も働きやすい環境づくりをやっていこうという旗振り役をしているんですが、メンバーの声を聞くと、何かして欲しいっていうよりも、ヤフーが出す何千万人も使われるサービスに貢献したいよ、という声があったんですね。なので、改善したいという想いがあるなら、視覚障害者の当事者社員10人ぐらいでYahoo!天気・災害の見た目デザインをよくするためのテストをしました。その機会を作ったのは去年ですね。
今日は、事例として天気図を持ってきました。当事者以外の社員に聞くと「そんな変わらないじゃん」って言うんですけど、視覚障害者の当事者にとっては劇的に変わっているんですよ。特に海と陸とのコントラストがついて日本列島は分かりやすいんです。ただそうすると、海の色と等圧線の色、深い青と真っ白とのコントラストが付いて、特に低気圧や高気圧の文字も大きくして分かりやすく、すごく見やすくなりました。
次は地震ですね。これはデザイナーが頭を悩ましたんですが、私たち当事者の意見を取り入れつつ、情報の優先順位を付けることになりました。特に震度5以上の情報は自分や家族の命に関わるので、これは目の悪い人でも見えるようにしようと言う思いで改善しました。震度5以上だとフォントを太くして、文字自体も大きくしていますね。
視覚障害者と一言で言ってもいろんな人がいて、見え方が違います。「このデザインすごくいい」って人もいれば「前の方がよかったよ」という人もいる。一緒にデザインに関わった人と話し合った結果、優先順位をつけようってことになりました。より命に関わること、みんなが知って欲しいことを優先して見せるということでYahoo!天気をアップデートしました。
半澤:ありがとうございます。元々あるものをアップデートするのは大変な作業ですよね。
角谷:そうですね、めちゃくちゃハードですね。前のやり方で収益も出てますから、抵抗もあります。
半澤:そこをどう乗り越えたのでしょうか?
角谷:そこは相手のストーリーに合わせました。ファクトとエビデンスを提示したんですね。やっぱり収益が大事なのは分かった。でも、これからは少子高齢化になって目の見えにくさを抱える方って、爆発的に増えていくんだよ、って言う厚労省の統計があるんですね。それを見せたら「分かった、やっぱり目の見えない人にも今から配慮しなきゃね」となりました。
半澤:客観的なエビデンスをマーケティングの武器にしたということでしょうか?
角谷:はい、そうです。そこで地道に説得をして協力を仰いででき上がったという経緯です。(次回に続きます)
MASHING UP vol.3
ダイバーシティ時代の都市・サービスを生みだすためのヒント
撮影/TAWARA(magNese)
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*第1回はこちら

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