2019年10月16日~20日の5日間、今年で3度目の開催となる「NoMaps(ノーマップス)」が札幌で開催されました。
NoMapsとは、クリエイティブな発想や技術で次の社会・未来を創ろうとする人たちのための交流の場(コンベンション)。毎年アメリカで行われている最先端テクノロジーイベント「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」にインスパイアされたのが開催のきっかけなのだとか。期間中、札幌中心部のいたるところでカンファレンスや展示、イベント、交流、実証実験などを同時に展開していました。
そのなかで、10月19日にはなんとNoMapsとMASHING UPのコラボが実現。札幌市民交流プラザ(SCARTSコート)で半日イベントとして4つのセッションを実施しました。今回は、その様子をピックアップしてお届け。「新しい家族のカタチ」と題して行われたセッションをレポートします。
さまざまな視点から見る「家族のカタチ」
中村:皆さまこんにちは。モデレーターを務めさせていただく、MASHING UPコンテンツディレクターの中村寛子です。このセッションでは3名の方にお越しいただきました。まずは自己紹介をお願いいたします。
「7丁目のパウダールーム」店長、「さっぽろレインボープライド」実行委員を務める満島てる子さん。
満島さん:満島てる子という名前で活動しております。普段からメイクをしていますが、自分のことは男性だと思って生活しています。好きになるのは男性です。セクシャリティフリーの女装サロン兼BAR「7丁目のパウダールーム」の店長、そして毎年札幌で行われている「さっぽろレインボープライド」の実行委員も務めています。「レインボープライド」とは、LGBTの当事者、支援者含めて街を歩き、多様性を認め合う社会を目指すパレードです。そのほか、大学やこのようなトークセッションなどでもお話しさせていただいています。
グラフィックデザイン事務所「Mog Mog Kids」代表を務め、主に在宅ワークをしながら一児の主夫としての役割も担っている木藤允博さん。
木藤さん:IT、音楽、ローカルコミュニティという分野でグラフィックデザイナーをしている木藤允博(きとうまさひろ)です。NoMapsのグラフィックデザインを2016年より担当しています。最近は子ども向けの塗り絵のワークショップなども開催しています。2017年までは「初音ミク」で知られるクリプトン・フューチャー・メディアという会社で働いていて、現在は在宅ワークをする傍ら、兼業主夫をしています。あとは、三度の飯よりゲームとアニメが大好きです(笑)。9歳下の妻と再婚して、3歳の息子、5匹の保護猫に囲まれてのんびり暮らしています。
サイバーエージェントを退職後、札幌にUターン。その後、クラウドファンディング「Makuake」のキュレーターを務め、現在はフリーランスとしてクリエイター支援施設「インタークロス・クリエイティブ・センター」のコーディネーター等に携わる岡山ひろみさん。
岡山さん:岡山ひろみと申します。札幌出身で、大学から上京しそのまま東京で働いていたのですが、約2年前に札幌にUターンしてきました。今はフリーランスです。私は自分自身が結婚したときに「そもそもなんで名字って変えなきゃいけないんだっけ?」など納得がいかないことも多く、そこから結婚制度に疑問を持ち始めました。名字に関しては夫が理解のある人で、私の名字に変えてくれたのですが、どちらかが名字を変えなきゃいけないのにクレジットカードや銀行口座の名義変更にお金と手間がかかるというのは「なんだかなぁ」という思いがあります。
MASHING UPコンテンツディレクターの中村寛子。
中村:皆さま、ありがとうございます。今回のセッションテーマ「新しい家族のカタチ」は、MASHING UPチームとしても、とても重要視しているテーマです。本日はよろしくお願いします。
「夫婦同姓」問題。仕事によっては名誉上の不利益が?
中村:入籍の際、全体の96%ものカップルが男性側の名字を選択するなかで(平成 28 年度 人口動態統計特殊報告 「婚姻に関する統計」の概況より)、岡山さんはご自身の名字に合わせてもらったとおっしゃっていました。女性側の名字にするためには手続きが大変などといったことはあるのですか?
岡山さん:婚姻届に名字を選択する欄があって、じつはそこで夫か妻、どちらかにチェックするだけなんです。なので、婿養子とかそういうのではないんです。本当の意味での婿養子になるには養子縁組をしなければいけなくて。そうではなく、私たちは私の名字である「岡山」を名字として選んだ、というだけなんです。
中村:女性側の名字を選択したことに対し、周りの反応はいかがでしたか?
岡山さん:私は普段から「男らしい」などと言われているので、友人たちは特に驚いていませんでした。自分的には夫にわざわざ名前を変えてもらった申し訳なさがあって、「この人を幸せにしなきゃ」と思っています(笑)。ただ、自分のアイデンティティである名前をどちらかが変えなきゃいけないというのを見ていると「いま2019年だよな……?」という気持ちになります。昔できた家制度を今も引き継いでしまっていることには違和感がありますね。
満島さん:名字が変わるというのは、仕事によってはさらに大変ですよね。私は大学院で研究者を志していた時期があるのですが、結婚して名字が変わった研究者は不利益が多かったように思います。論文の名前を変えるためには手続きをしなきゃいけないし、手続きをしなければ、旧姓で書いた論文と現姓で書いた論文の紐付けがなかなかされない。それによって研究実績が全くなかったかのように扱われてしまうこともあったみたいで。仕事の名誉上の不利益までをもこうむってしまうなんて……。名前って財産だなって思います。
導入され始めてきたパートナーシップ制度。でも、まだまだ課題も
中村:結婚自体が悪いとかそういうことではなく、結婚制度にいろいろなアップデートやサポートが必要ですね。
満島さん:札幌では2017年6月に「札幌市パートナーシップ宣誓制度」というものが導入されました。たとえば、同性カップルで同居したいというときに、入居可能な家を探すのはこれまで大変でしたが、その制度の証明書を使えばスムーズに対応してもらえるようになったという話は聞いています。ですが、まだどの不動産屋でも対応してくれるわけではありません。というのも、残念ながらその証明書自体は強い法的効力を持つものではなく、必ずしも社会保障に結びつくわけではないからです。結婚しているカップルだと社会において保証されるものがありますが、その保証を同性カップルもあたりまえのように受けられるようになるためには、市や国単位で制度としてさらにアップデートしていくべきだと思います。
中村:同性カップルの住宅問題で言うと、リクルート住まいカンパニーの不動産や住宅の総合情報サイト「SUUMO」のなかにLGBTフレンドリーな物件を探せる「SUUMO for LGBT」というページが数年前に立ち上がったという話を聞きました。パートナーシップに関する制度も、証明書が発行されるようになって、さらにそのさきのアクションにも紐付くといいですよね。
満島さん:そうですね。パートナーシップ制度については札幌でも全国的にも利用者は増えてきているような気がしています。制度自体も、今や全国的にいろんな自治体が導入してくれているので、この波がどんどん広がっていけば、そのさきのアクションとしても具体的になっていくのかなと思います。
今はまだ「主夫」はマイノリティ。周りの反応は?
中村:木藤さんは、主夫を選ばれたきっかけはあるのでしょうか。
木藤さん:前の会社を辞めた理由のひとつに、「家族との時間を大切にしたい」というものがあって。そのときは正直、辞めて食べていけるかどうかとか不安もありました。けど、それよりも家族といたいという思いが強かった。自分のなかでは、主夫というもの自体に違和感はありませんでした。仕事的にも、パソコンがあればどこでもできるので。
中村:実際に主夫になってからはいかがでしたか? 周囲の方の理解や、反応ですとか。
木藤さん:まず、家族がすごく理解してくれて。本当に幸せなことだなと思うんですけど、妻も特になにも聞かずに「いいよ」の一言。お義父さんやお義母さんも応援してくれました。でも、驚いたのは大家さんの行動です。僕が家にいるときにわざわざピンポンしに来て、「なにしてるの?」と言いに来るんです(笑)。それで「家で仕事しているんです!」と言ってもあんまりピンときていないようで。今でこそ、そういうことは言われませんが、当時はなかなか理解されていなかったように思います。あとは、子どもの保育園でいうと、他の子どものお母さんたちとのコミュニケーションや意見交換することが難しく感じることがありますね。
中村:ママたちのLINEグループとかには入っているんですか?
木藤さん:入っていないです。自分からはなかなか言えないですね(笑)。自分のなかで性別や年齢差を無意識のうちに差別化しちゃっているのかもしれない。ママ友・パパ友への憧れは少なからずありますが、「たくさん友達がいなくても親友が一人いればそれでいい!」と考えています。
岡山さん:友達の多さとか、人にどう見られるかを考えて生きていると時間がもったいないし、疲れてしまいますよね。自分がどう生きたいか、自分にとっての幸せはこれだ、というのを探していくなかで、そこに「いいね」って言ってくれる人がいたら仲良くする、くらいでいい気がします。
結婚も、家族のカタチも。「自分はどうありたいのか」を明確にしてみては?
中村:最後に、「結婚式」についてはいかがでしょう。
岡山さん:挙げたくないなと思っていたんですけど、私の親が挙げてほしいとのことで、10名ほどの親族だけで挙げました。
木藤さん:僕も妻も合理的なタイプなので、結婚式は挙げませんでした。指輪もしていないです。
満島さん:私は反対に、憧れがあります。わりとLGBT当事者の方は結婚式に憧れを持っている人が多い印象がありますね。今まで社会的に認められていなかったからこそ、結婚式という場で認めてほしいという気持ちが強いのではと思います。結婚式で周りの人たちに祝福してもらえて、みんなに目の前で見てもらえることって、きちんと認められることに近いと思うので。LGBTにも結婚や結婚式という選択肢が少しずつ降りてきた今だからこそ、結婚したい、結婚式を挙げたいという気持ちが出てきたんじゃないかなと思います。
中村:結婚式を挙げたくない人もいれば、挙げたい人もいて。それぞれの個のニーズに合う結婚式や、結婚式ではないなにかがあったら素敵ですよね。また、全体を通して「自分はこうありたい」というのをきちんと明言化することがすごく大事なんだな、と。それに対してどんな偏見を持たれたとしても、信じてくれる人が一人いれば、自分の理想とする姿を突き詰めていいんだなと、改めて思いました。
登壇者の皆さま、ありがとうございました!
撮影/NoMaps実行委員会
[NoMaps]

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