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根気強く「対話」することで道が拓く。1980年代のダイバーシティ/ESPN ローザ・ガッティさん

各企業でCDO/CDIO (チーフ・ダイバーシティ・オフィサー/チーフ・ダイバーシティ・インクルージョン・オフィサー)が設置され、ダイバーシティ推進が重視されるようになった現代。しかし、日本は世界に比べると、まだまだ遅れをとっています。

女性たちのダイバーシティとの戦いは、今に始まったことではありません。例えば、1980年にケーブルテレビのパイオニアとして知られるESPNに入社し、のちに同社の副社長としてダイバーシティを監督する立場となったローザ・ガッティさん。彼女の知見は、今のわたしたちに必要なものと言えるでしょう。

ローザさんに、ダイバーシティを推進する上で大切にしてきたことを伺いました。

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社員が一丸になって環境改善に取り組む、チームESPNを立ち上げた2004年頃。

ローザ・ガッティ(Rosa Gatti)さん
1980年にESPNに入社し、1988年よりシニア・バイスプレジデントとしてコミュニケーション・カウンセル、コーポレート・アウトリーチを担当。同社の人事・ダイバーシティイニシアチブを創成期から監督した。アメリカのカレッジスポーツインフォメーションディレクターズシニア・バイスプレジデント、ビラノバ大学理事、ケーブルコミュニケーター協会会長も歴任。地域社会への貢献が評価され、受賞歴多数。

紅一点の職場で、無言の圧力を感じた

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1987年、テレビ批評家会議でスピーチした時の写真。

—— ESPNに入社されるまでは、母校のビラノバ大学などで女性初のスポーツ情報ディレクターを務めていらっしゃったそうですね。ESPNという男性メインの企業に入ることに、迷いはありませんでしたか?

ローザ:入社するときは、それについては心配していませんでした。それよりもケーブルや衛星、TVに関して知識がないのに、その宣伝をしないといけないことが気がかりでしたね。

ただ、入社後の会議では、女性はいつも私ひとり。最初は無言の圧力を感じて何も言えませんでした。それから一歩一歩、会議で発言する勇気を身につけていったのです。

ESPNはアメリカンフットボール、野球、サッカー、バスケットボールなどのスポーツ中継やスポーツニュースを専門とする衛星及びケーブルチャンネル。1980年代当時はまさに“男の職場”だった。

1990年代、ひとりの女性の訴えが社会の流れる

—— ESPNでダイバーシティ/インクルージョンが必要だと感じたのはいつですか? 当時、どんな状況だったのでしょうか。

ローザ:1980年代、私は会社の女性たちが皆、私と似たような経験をしているのだろうかと気になってしかたがありませんでした。でも、女性たちは自分たちがどのように扱われているかを口にすることに、とても慎重でしたね。女性委員会の設立を提案したこともあるのですが、当時の社長はもし女性委員会を作れば、他の種類の委員会も作らなければならないだろうと感じていたようです。

転機となったのは、1991年、米国最高裁判事としての資質を問う、クラレンス・トーマス候補への米国上院による公聴会でした。彼の元で働いていた、現在では教授となっているアニタ・ヒルという女性が、彼から言葉によるセクシャルハラスメントを受けたと訴えたのです。皆、その話題でもちきりでした。

私には、女性たちの声を受け止める義務があった

ローザ:この話に触発されて、ESPNでも、特に生産部門の女性たちが私のところに来て、同じようなハラスメントを受けたと訴えたのです。問題意識を持ったのはそのときでした。幹部として、私は何らかの対処をする義務があると感じました。

私は女性たちからの訴えを匿名で2ページのリストにまとめ、2つの解決策を提示しました。

1つめはダイバーシティとインクルージョンを高めるため、多様な人々からなるダイバーシティ委員会を設立すること。そして、2つめは、偏見の存在や職場におけるインクルージョンの必要性を議論するためのダイバーシティトレーニングを全社員に行うことです。

大切なのは他者を敬い、「対話」を続けること

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2012年頃、ESPN従業員タウンホールミーティングにて。

—— ESPNでダイバーシティとインクルージョンを促進するにあたり、一番難しかったことは? また、どのようにそれを乗り越えたのでしょうか。

ローザ:すべての社員が理解するには、長い時間がかかりました。1920年まで女性が参政権を認められず、大学に進学して様々なキャリアを求めたり、育児と仕事を両立させたりすることが許されなかった、数世紀にわたる文化を変えるには時間が必要です。同様に、ビジネスの文化を変えるのにも時間がいるでしょう。私たちの国は、人種や肌の色に偏見を持ってきた歴史があり、いまだに解決できずにいます。

大切なのは、他者を敬うことそれには、対話が欠かせません。私たちはダイバーシティについて、経営会議で議論しました。年次戦略会議で、事業目標の一つとして「ダイバーシティの強化」を掲げたこともありました。

年に一度、人事部と共に、幹部たちと彼らが管理するチームについて話し合う機会も設けました。ダイバーシティに関する有望な人材は誰か。なぜ女性たちが離職しているのか。多忙を極める会社で、子どもを持つ女性をサポートするにはどうすればいいかということについて、意見を交換し合ったのです。

ある上層部の男性には、優秀な男性の部下をランチに連れ出すのと同じように、女性の部下にランチを誘ったことがあるかと尋ねたことがあります。彼はまさか、と即答し、「女性を昼食に誘ったら、どう思われるかわからない」と言いました。

私からすれば、男性側のそうした視点に思い至ったことがなかったので新鮮でしたね。それで私は「あら、某プロジェクトについて話し合いたいから昼食をとろう、と言えばいいじゃないですか」と提案したのです。これは対話によって、誤解や障壁が打破できた一例です。女性側としても、男性の輪に入れてもらえないと、情報を得る上で不利になります。

ダイバーシティが顧客の拡大につながった

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2013年頃の従業員イベントより。

—— ダイバーシティ/インクルージョンについて考えることは、企業文化や実際の製品・サービスに良い影響を与えましたか?

ローザ:もちろんです! 多くの女性や有色人種の人々が、プログラムや製品、収益を高める上で会社に貢献しています。それは経営幹部も証明してくれるでしょう。

多様な人々を会議に招き、自由に発言してもらい、その意見を聞く。そうすることで視野が開け、より多様な消費者にサービスを提供することができるようになりました。ESPNの場合、視聴者の35~40%が女性で、一部のスポーツでは女性のほうが視聴割合で上回っています。他者を敬い、他者について考えることは、お客様について考えることにもつながるのです。

まずは経営陣からダイバーシティの模範となるべき

—— 多くの組織がCDO(チーフダイバーシティオフィサー)/CDIO(チーフダイバーシティインクルージョンオフィサー)を任命しはじめている、現在の状況をどう思われますか。

ローザ:肩書にかかわらず、ダイバーシティ担当者を決めることは、会社をよりよい方向へ導くのに役立ちます。担当者が採用や昇進、解雇、傾向を細かく追跡し、企業は具体的な結果や進捗を俯瞰する必要があります。

最も重要なのは、ダイバーシティを会社のトップから取り入れること。経営幹部は、人事やダイバーシティリーダーだけでなく、多彩なメンバーで構成されるべきです。幹部が模範を示すことで、社員を導くことができます。

「男性VS女性」ではない。今はお互いについて学び合うべき時

もちろん、彼らが間違いを犯すかもしれない。男女の偏見は誰でも持っていて、相手の気持ちを損ねると気づかずに言動してしまうことがあるからです。だからこそ私たちは、避けるのではなく積極的に話し合い、お互いについて学ぶべきです。そうすることで、誰もが主役となり、多様な才能を開花する、強いチームに成長します。

ローザさんをはじめ、黎明期の人々の努力によって、ダイバーシティとは何か、どのように推進していくべきかというロールモデルが作られていきました。私たちは彼らから学び、さらなる高みへと歩みを進めることが求められています。

取材・文/中村寛子、構成/中島理恵

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中村寛子
イギリス、スコットランドにて大学を卒業後、グローバルデジタルマーケティングカンファレンス、ad;tech/iMedia Summitを主催しているdmg::events Japan株式会社に入社し、6年間主にコンテンツプログラムの責任者として従事。2015年にmash-inc.設立。女性エンパワメントを軸にジェンダー、年齢、働き方、健康の問題など、まわりにある見えない障壁を多彩なセッションやワークショップを通じて解き明かすダイバーシティ推進のビジネスカンファレンス「MASHING UP」を企画プロデュースし、2018年からカンファレンスを展開している。

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