教育へのアクセスを拒まれてきた女の子たちに安心して学べる場を提供し、デジタル社会で変革を起こせる人材に育てたい。
そうした理念のもと、セネガル出身のマリエム・ジャムさんによって英国で設立されたのがiamtheCODEという団体です(CIC : Community Interest Company コミュニティ利益会社という英国独自の法人形態をとる)。各国政府や企業などの協力を得ながら、世界中で教育拠点を運営し、2030年までに100万人の女性エンジニアを育てることを目指しています。来日したジャムさんにお話を伺いました。
マリエム・ジャム(Mariéme Jamme)さん
セネガル生まれの英国人起業家、プログラマー、ブロガー。幼い頃孤児となり体系的な教育を受けられず、16歳で保護施設に入ってから独学でプログラミングなどを学ぶ。IT関連のコンサルティング会社Spotone Global Solutions、SDGs達成のためのデータ収集を促すAccur8Africa、女子のデジタル教育を推進するiamtheCODEを設立。2017年にはユニセフとビル&メリンダ・ゲイツ財団がSDGs達成に貢献した人物に贈るGlobal Goals Awardを受賞。TEDxなどでデジタル教育や女性エンパワメントについての講演多数。
プログラミングを学び、SDGs達成を目指すハッカソン
iamtheCODEは、SDGs(2015年に国連で設定された、持続可能な世界を実現するための17の目標)の達成に女性たちが主体的に関わるべきだと考えます。特に重要視するのが以下の目標。
iamtheCODEが重要視するSDGsゴール
4番 質の高い教育をみんなに
5番 ジェンダー平等を実現しよう
8番 働きがいも経済成長も
9番 産業と技術革新の基盤をつくろう
iamtheCODEは、若い女性たちがSDGsについて学び、プログラミング技術を用いて問題解決に向けたソリューションをつくる「SDGsハッカソン」というイベントを世界各地で開催しています。
2019年11月には東京でハッカソンが開かれました。日本でのパートナーは、IT業界のジェンダー・ギャップを埋めるため、女子中高生にプログラミングを普及させる活動を行う一般社団法人Waffleと、小学校でのプログラミング教育を推進するNPOみんなのコード。多くの企業の協力を得ての開催となりました。
2019年11月に東京で開催された「SDGsハッカソン」の様子。
iamtheCODE提供
2日間のハッカソンで参加者は社会課題解決のためのアイディアを競い、優勝グループはその後本格的にプロダクト制作に取り組みます。そして各国のハッカソン優勝者は、9月にニューヨークの国連本部でプレゼンテーションを行います。
東京でのハッカソンを振り返り、ジャムさんはこう語ります。
「SDGsについて知らなかったという子がほとんどでしたが、良いソリューションがたくさん出ました。国連での発表準備のため、これから何度か日本を訪れる予定です」
【写真左】「SDGハッカソン」を共同開催した 一般社団法人Waffle代表理事の田中沙弥果さんと。【写真右】ハッカソンで参加者と談笑するジャムさん。
共同開催したWaffle代表理事の田中沙弥果さんは、iamtheCODEのイベントを通じ、日本の女の子たちがグローバルな視点を得られたと言います。
「9歳から18歳までの100人以上が参加しました。世界の同世代の子たちの活動について知り『私たちもやらねば』と刺激になったと思います」(田中さん)
女子中高生向けにプログラミングを普及することで、性別に関わらず誰もが尊重される社会を目指すWaffle。共通の目標を持つiamtheCODEとのコラボを通して、IT業界における女性のエンパワメントへの思いをさらに強くしたようです。
一般社団法人Waffleのホームページ。女子中高生向けにプログラミングを普及するイベントやBoot Campを開催する。
世界各地で行うデジタル教育と就職サポート
現在66か国で活動をしているというiamtheCODEが特に力を入れるのは、難民キャンプや貧困地域など社会の周縁に置かれている女の子たちの支援です。
世界各地の企業、コミュニティ・センター、図書館、教会、学校などと提携しパソコンの使い方やプログラミングを教える「デジタルクラブ」を運営しています。12週間のコースに通うことで生徒はウェブサイトやアプリを作れるようになります。
メンターシップ・プログラムでは、生徒たちが高い収入を得られる仕事につけるよう後押し。現在約800人の専門家がメンターとして登録しており、リーダーシップ、マネージメント、営業、契約など、スキル別にマッチングが行われています。
存在を受け止め、学びの入り口に立ってもらう
iamtheCODEは、厳しい環境に置かれた女の子や女性たちが社会の仕組みを理解し、自ら行動を起こせるよう促すことも目的としています。
印象的なエピソードとして、ジャムさんはブラジルのハッカソンに参加した、貧民街に暮らす10代の少女の変化を語ります。
「やる気がなく態度が悪い子がいたので横に座ってじっくり話を聞くと、授乳期の赤ちゃんがいることがわかりました。胸が張って痛がっていたので、早退してもいいよと言いました。
その子は次の日も出席し、かまってもらえて嬉しかったと言ってくれたのです。さらにスマートフォンで写真を編集した短い動画を見せてくれました。前日学んだ環境問題について、自らの視点でまとめていたのです」
知る機会をつくり、人と人を結ぶ
「貧民街の子たちは、自国の大気汚染の問題や、アマゾンの熱帯雨林が危機に瀕していることも知る機会がありません。その子は初めて問題を知り、自分の子どもの未来のために何かをしたいと思ったのだそうです。少女のチームはハッカソンで優勝し、世界的な金融機関のブラジル代表を務める女性に会う機会を得ます。代表は予定時間を大幅に超えて女の子たちの話に真摯に耳を傾け、支援を約束してくれました。
立場を超えた対話が生まれたことが感動的でした。この出来事はiamtheCODEを続けていくうえで、大きな励みになっています」
※後編に続きます。
取材・撮影/野澤朋代

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