セネガル出身のマリエム・ジャムさんが立ち上げたiamtheCODEの目標は、2030年までに100万人の女性エンジニアを育てること。また、SDGs達成に女性が主体的に関われるようにすること。活動の主軸となる「SDGハッカソン」について紹介した前編に続き、後編では、ジャムさんの原点に迫ります。
マリエム・ジャム(Mariéme Jamme)さん
セネガル生まれの英国人起業家、プログラマー、ブロガー。幼い頃孤児となり体系的な教育を受けられず、16歳で保護施設に入ってから独学でプログラミングなどを学ぶ。IT関連のコンサルティング会社Spotone Global Solutions、SDGs達成のため正確なデータ収集を促すAccur8Africa、女子のデジタル教育を推進するiamtheCODEを設立。2017年にはユニセフとビル&メリンダ・ゲイツ財団がSDGs達成に貢献した人物に贈るGlobal Goals Awardを受賞。TEDxなどでデジタル教育や女性エンパワメントについての講演多数。
孤児となってヨーロッパへ渡った少女時代
iamtheCODEが特に力を入れているのが、難民キャンプや貧困地域など社会の周縁に置かれている女の子たちの教育です。その原点は、ジャムさんの歩んできた道のりにあります。
幼い頃に母親に捨てられたジャムさんは、里親や孤児院を転々とさせられ、13歳の時に人身売買によってフランスに連れてこられます。警察に保護されたのは16歳のときでした。
あるとき保護施設で、英国に行ける交換プログラムのことを知ります。フランスでの辛い思い出から距離を置きたかったジャムさんは、それを機に英国に移住します。
勉強することで脳が変わっていった
英国での最初の日々は施設に住み、清掃の仕事などをしていたジャムさん。大卒者でないと良い仕事に就けないことを悔しく思っていたところ、施設の人が図書館に行けば勉強ができると教えてくれます。
「近所の図書館にはたくさんの本があり、夢中で読みふけりました。帰る時に不安になって、また来てもいいかと係の人に尋ねると、図書館は消えたりしないから大丈夫と言われたんです。ずっと貧しさの中にいたから、一度手にしたものは離すと消えてしまうんじゃないかと、不安だったんです。
学ぶうちに自分の脳が変わっていくのを実感しました。子ども時代を通して、なぜ自分が辛い状況に置かれているのか、理解できなかった。アイデンティティも築けなかった。その原因が、徐々に分かってきたんです」
私たちは「かわいそうな人」じゃない
ジャムさんは、メディアでのアフリカの取り上げられ方にも疑問を感じるようになります。なぜアフリカの人たちを無力な存在として扱うのか? 自分の考えをブログに綴り、アフリカ救済を訴えるU2のボノやボブ・ゲルドフに宛てた公開書簡を発表しました。
善意はありがたいが、施しを与えるものと受けるものとの主従関係が発生してしまうやり方は間違っている。アフリカの人々の声にもっと耳を傾け、対等なパートナーとして接するべきでは?
そんな内容の公開書簡は、ガーディアン紙などに取り上げられ大きな話題になりました。
注目を浴びたことがきっかけで、ジャムさんに様々なオファーが舞い込むようになります。開発関連プロジェクトのアドバイザーを務めたり、ドキュメンタリー制作に携わったりするなど、大きく環境が変わっていきました。
女の子たちにとって安全な環境をつくりたい
「生まれ故郷セネガルの社会についても学び、私を捨てた母の事情も分かるようになりました。通常の結婚制度の外で生まれたため、親族からのプレッシャーで里子に出されたのです。
私はデジタル教育普及にとどまらず、社会の構造的問題を正していきたい。アフリカでは身近な人からレイプ被害にあう子が多く、それを食い止めるため区画ごとに助けを求められる救済センターが必要です。
女の子たちに、黙っていてはダメだと伝えたい。暴力や暴言にさらされて、自分を小さく見積もるようにならないでほしいです」
各地にあるiamtheCODEの学習拠点では、辛い体験をした子たちがトラウマを抑圧しないよう、おしゃべりを通して精神的苦痛を和らげる取り組みも行っているとのこと。
消費者から創造者に
独学で7つのプログラミング言語を身につけたジャムさんは、やがてIT関連のコンサルティング会社Spotone Global Solutionsを立ち上げます。ERPソリューション(会計、人事、生産、流通などを管理するためのソフト)を販売する企業が新しい市場に参入する際の橋渡しが主な仕事で、マイクロソフト、オラクル、グーグルなど有名企業が取引先として名を連ねています。
3年前から軸足を移しているiamtheCODEはIT分野への女性の参入を促しつつ、さらに包摂的なSTEAMED(Science,Technology, Engineering, Arts, Mathematics, Entrepreneurship and Design)教育を目指します。
「高度にデジタル化した社会で暮らし、社会をつくる側にまわるためにもテクノロジー関連の知識は必須です。また、社会システムを理解するための人文学的教養や、デザインの能力も大切です。消費者としてだけでなく、創造者として女性の存在感を高めていきたいです。
途上国などで女の子たちに教えていると、彼女たちの母親からもポジティブな反応が返ってきます。社会問題解決のため自分も何かしたいと言ってくれるんです。
私のような子ども時代を誰にも経験してほしくない。貧困はなくせないけれど、苦しんでいる女の子や女性たちにインスピレーションを与えていきたいです」
取材・撮影/野澤朋代

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