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CONFERENCE:MASHING UP vol.3

火星での研究生活を夢見て/理論物理学者 アドリアーナ・マレ博士

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MASHING UPカンファレンスvol.3のキーノートスピーチに、理論物理学や量子生物学など多岐にわたる分野で論文を発表する南アフリカの研究者、アドリアーナ・マレ博士が登壇しました。

生命とは何かという謎を解くために、宇宙に出て研究をしたいと言うマレ博士。火星移住計画マーズ・ワン(Mars One)の宇宙飛行士候補として選出されるも、2019年の初めには資金面の問題で計画自体が頓挫してしまいます。

人類は常に未知の世界に乗り出していた

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「レジリエンス力 – 私が挑戦しつづける理由」にキーノートスピーカーとして登壇したマレ博士。

そこでマレ博士はプラウドリー・ヒューマン(Proudly Human)という組織を結成。地球外に住むシミュレーションを極地や砂漠などで行うOff-Worldというプロジェクトを進めています。

最初の計画は2021年の南極越冬。約10名のメンバーは夏の終わりの2月に南極入りし、11月までそこで暮らします。冬の間は太陽が昇らない極寒の地。キャンプ施設内での食料生産、エネルギー自給、水のリサイクル、遠隔地とのデータ通信など様々な実験をする予定です。

アフリカ大陸で生まれ世界に広がっていった人類の根幹には、未知の世界への探究心があるとスピーチで語ったマレ博士。登壇後にお話を伺いました。

閉鎖空間で暮らすことの難しさ

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——MASHING UPカンファレンスに参加されていかがでしたか?

マレ博士:ジェンダー平等をうたうこのイベントで、レジリエンスや、夢の実現というテーマについて私自身の経験をシェアできて誇りに思います。女性として、人間として、インスピレーションを与えられれば嬉しいです。

——Proudly Humanのアドバイザーには90年代に米国アリゾナ州で行われた「バイオスフィア2」(8名の科学者が密閉された人工生態系で自給自足しながら研究を行った)のメンバーが名を連ねていますね。

マレ博士:3名の方にご協力いただいています。バイオスフィア2の実験では、残念ながら対立する2つの派閥ができてしまいました。当初の予定よりも食料生産に時間がかかり、研究に支障をきたすようになったのがきっかけのひとつだと言います。

人間の習性ともいえる派閥形成を回避するにはどうすべきか? 彼女たちに尋ねたところ、メンバー同士で議論を重ねたうえで明確なビジョンを設定し、徹底してそれに沿うように行動すべきだとの助言を受けました。

Off-Worldの南極越冬実験では、人間心理やチーム・ダイナミックスも研究対象にしています。そこから得られた成果は企業などあらゆる組織の運営に役立つでしょう。

宇宙への夢は豊かさにもつながる

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——途上国での宇宙教育、Africa2Moonについてお聞かせください。

マレ博士:各国政府などと一緒にアフリカで初めて月面に実験装置を置くことを目指しています。アフリカ諸国の子どもたちに科学技術への興味を促すプロジェクトです。

1960年代から70年代初頭にかけてのアポロ計画の時代には、米国で科学技術分野に進む若者が急増しました。

彼らはその後、インターネットの発達、パーソナル・コンピュータ、モバイル技術などの先端技術を次々と開発し、何十年にもわたって米国経済に貢献しました。

アフリカでも大勢の若い人たちが宇宙への夢を通してSTEMの分野に進み、未来を切り開いて欲しいです。また、宇宙で生きるための研究や技術開発が進めば、水や食料、エネルギー供給など、地球での多くの問題も解決できます。

外から地球を見てみれば

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——AIに対する不安など、昨今はテクノロジーの負の側面が注目されることが多く、純粋に夢を抱くことが難しくなったように思えます。

企業は利益を優先するのではなく、人々がより良く生きられるためにテクノロジーを使うべきです。

テクノロジーは人間のための道具でしかない。それを忘れてはいけません。リスクだけでなく、大きな夢を描きワクワクすることも大事です。

宇宙に出ていって、食べ物をつくり、音楽を奏で、人間として生きていく。近いうちに私たちは火星だけでなく、木星の衛星であるタイタンやエウロパなどにも移住できるかもしれません。

外に出てみて、初めて本当の意味で地球の良さがわかるでしょう。互いに衝突してばかりいないで、もっと環境を大事にしなければと気付けるのではないでしょうか。

Proudly Human……人間だから持てるもの

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——子供の頃の大きな夢を持ち続けていられる理由は?

マレ博士:人生は一度きり。それに尽きます。時間は無駄にできないと思うんです。 みなさんも、やりたいことがあればリスクを恐れず挑戦していただきたい。大きなビジョンと情熱があれば仲間や協力者が集まってきます。

自分のエゴを超え、より良い世界を目指し行動する人が増えれば、確実に世界は変わるでしょう。

——宇宙に行くために必要なスキルや知識は何だと思いますか?

エネルギーや食料生産に関することなど多岐に渡りますが、移住した先でも人間の本質は変わりません。科学者だけでなく芸術家も必要とされるでしょう。エンパシーや情熱、好奇心など、人間だからこそ持てるものを大切にしていきたいですね。

ADRIANA MARAIS/アドリアーナ・マレ
理論物理学者,科学技術者 / Off-World Founder。地球内外における持続可能な未来に向けた研究技術の新境地開拓を目指すOff-Worldの創設者。開発途上国の若者を教育面から支援するAfrica2Moonプロジェクトに取り組む宇宙開発財団の理事長も務める。南アフリカ政府の第四次産業革命タスクフォース諮問委員会の委員、シンギュラリティ大学およびデューク・コーポレート・エデュケーションの教員を務めるほか、マーズ・ワン計画の宇宙飛行士候補者にも選ばれている。2020年12月にはOff-Worldチームと共に、南極大陸で越冬による宇宙移住シミュレーションを実施・調査予定。

撮影/柳原久子(インタビュー)・今村拓馬(セッション)、取材/野澤朋代

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野澤朋代
フォトグラファー、翻訳者、ライター。趣味は散歩と語学学習。

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