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Conference:MASHING UP vol.3

「未知への挑戦」が強さにつながる/理論物理学者アドリアーナ・マレ博士

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火星に移住して、研究生活をおくりたい。

南アフリカ出身の理論物理学者のアドリアーナ・マレ博士は、ビジネスカンファレンス「MASHING UP Vol.3」(2019年11月7・8日開催)のキーノートスピーカーとして、気宇壮大な夢を語った。

まるでSF映画の設定のようだが、決して不可能ではないと博士は言う。

宇宙技術は着実に進んでおり、各国政府や民間企業がさまざまなプロジェクトを進めている。スピーチの冒頭で、以下のような事例があげられた。

  • UAEが2017年にMars Science Cityという火星のドーム型都市構想を発表。2117年までに完成させるとしている。
  • 米国では、民間人の宇宙旅行実現を目指すヴァージン・ギャラクティックが2018年に有人飛行を成功させた。商業宇宙船開発では初めての快挙。また、南ア出身のイーロン・マスク率いるスペースXは国際宇宙ステーションへの物資輸送や、再利用可能なロケットブースターの開発などで大きな成果をあげている。
  • 2019年1月には中国の無人探査機が月の裏側に着陸。試験装置のなかで綿花を発芽させた。
  • 2018〜19年、日本の探査機ハヤブサ2号が小惑星リュウグウに着陸。地表サンプル採取に成功。

冒険心は、人間が持つ根源的な欲求

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宇宙へ出たいという思いは、人間の本能のようなものだとマレ博士は言う。

「中央アフリカに出現し、長い年月をかけて地球上に広がったホモ・サピエンスは常に冒険家でした。次に目指すべきは宇宙です。冒険家のDNAを持つ者として、先祖から受け取ったバトンを次の世代に手渡すことは私たちの義務でもあります」(マレ博士)

ある時は好奇心に突き動かされ、またある時は危機な環境から逃れるため、人間は地球上を移動してきた。マレ博士は、17世紀末に宗教弾圧を逃れるためフランスからアフリカに移住した自分の先祖についても語った。

「彼らはヨーロッパを出て、未知の世界へ漕ぎ出しました。3、4か月に及ぶ危険な船旅を経てアフリカ大陸の南端にあるケープタウンに到着し、そこで農業を始めたのです」(マレ博士)

世界から注目を集めた野心的な火星移住計画

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1969年にアポロ11号の宇宙飛行士たちが人類史上初めて月面に着陸してから、50年余り。しかし、1972年を最後に有人着陸は行われていない。

「自分たちの世代が有人着陸をリアルタイムで見られる日がいつ来るのか」。そんなふうに考えていた博士は2013年にある記事を目にする。それは2025年までに火星への移住を目指すマーズ・ワン(Mars One)計画の宇宙飛行士募集の広告だった。

「一読して、子供の頃に抱いていた宇宙に出たいという夢が鮮明に蘇ってきました。自分が生きている間に人間が地球外で暮らす日が来るのかもしれないと興奮し、ぜひ最初の開拓者になりたいと思ったのです」(マレ博士)

技術的な限界から地球への帰還は見込めない「火星への片道切符」と呼ばれたこのプロジェクト。死と隣り合わせのミッションにもかかわらず、世界中から20万人以上の応募があり、大きく注目された。博士は100人のファイナリストの一人に選ばれている。

二度と地球に帰れないと分かっていながら、なぜ火星に行きたいと思うのか? マレ博士はこう説明する。

知識を深めるためです。地球のことをもっとよく知るためにも、別の環境で新たな指標を得なければ分からないことがあります。私が特に興味をひかれるのが生命の謎です。これまでの調査から、火星には40億年前まで海があったことが分かっています。そこにはバクテリアや微生物などがいた可能性が極めて高いのです。地球だけでなく、隣の惑星にも生命が存在したとなれば、広い宇宙ではいかほどかと、夢が広がります」(マレ博士)

独自プロジェクト立ち上げへ

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残念ながら、Mars Oneプロジェクトは資金面で暗礁に乗り上げ、現在実現が難しい状況となっている。そこでマレ博士は宇宙に出る新たな道を模索するため、勤め先を辞めて独自のプロジェクトを立ち上げた。

地球の外で生きるために必要な技術や知恵を研究する、Off-Worldというこの計画では南極、砂漠、深海など、隔絶された環境に長期滞在し、電気や食物の自給、水の再利用、通信、閉鎖空間が精神面へ及ぼす影響など、様々な実験を行う。

最初に予定しているのが、2021年の南極越冬だ。火星の摂氏-60度には届かないものの、-40度以上の極寒の地は気温という点で似ている。

全く違うのは大気だ。火星の大気は、その96パーセントが二酸化炭素。いずれ火星で人間が生活していくには、新鮮な空気を確保する必要がある。

そのためには、太古の海の名残りを利用する構想があるそうだ。地中に含まれる凍った水分を抽出し、水素と酸素を分離させ、酸素を居住ユニットに送り込む。地中から抽出した水分は飲み水などにも利用できる。

貴重な水を再利用する技術は、マレ博士の南極越冬プロジェクトでも植物の栽培実験などに使われる。

宇宙への夢を通して伝えたかったこと

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2030年までに月や火星に人が住むことが可能になると信じ、夢の実現に向けて一歩を踏み出したマレ博士。スピーチの終盤で会場に向けてこう語りかけた。

「みなさんと火星で再会できる日が来るといいですが、今日お話ししたいことの核心は別のところにあるんです。それは、どんなに途方もない夢でも諦めないでほしいということ。信念を持ち、できることを一つ一つ積み重ねていけば、得られるものがあるはずです。みなさんも子供の頃の冒険心を蘇らせ、新しい世界を開拓していってください」(マレ博士)

スピーチの後、Q&AセッションのためMASHING UP編集部の遠藤編集長が登壇。レジリエンスをめぐって対話が交わされた。

困難に直面してもやり抜く強さは、「新しいことに挑戦すること」で鍛えられる。そうマレ博士は語る。富士山を登る、イベントに出かけて新しい知り合いを作る、語学を始める、知らない街に住むなど、やり方はそれぞれでいいという。

「慣れ親しんだ思考や行動パターンから一歩踏み出してみることで意思が鍛えられ、知識が広がります。そうしたことが、強さにつながっていくのです」(マレ博士)

会場からは「プロジェクトを立ち上げるため、仕事を辞めるのに躊躇はなかったか?」との質問があった。

それを受けて、不安よりも行動したい気持ちの方が勝っていたと答えた博士。メディアや記事執筆を通して積極的に宇宙への夢を発信し続けてきた結果、複数の企業から機材提供などの申し出を受けているそうだ。しっかりした計画とビジョンがあれば、必ず仲間や協力者が集まるはず。やりたいことがあるならば、ぜひ挑戦してみてほしいと来場者を励ました。

人類や生命の歴史を振り返り、未来を構想する。そして宇宙のなかの一点として目の前の現実を見る。これは人間だからこそできること。そうした大きな視点にたって、一回きりの人生で何を大切にするべきか、改めて考えさせられるセッションだった。

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ADRIANA MARAIS/アドリアーナ・マレ
理論物理学者,科学技術者 / Off-World Founder。地球内外における持続可能な未来に向けた研究技術の新境地開拓を目指すOff-Worldの創設者。開発途上国の若者を教育面から支援するAfrica2Moonプロジェクトに取り組む宇宙開発財団の理事長も務める。南アフリカ政府の第四次産業革命タスクフォース諮問委員会の委員、シンギュラリティ大学およびデューク・コーポレート・エデュケーションの教員を務めるほか、マーズ・ワン計画の宇宙飛行士候補者にも選ばれている。2020年12月にはOff-Worldチームと共に、南極大陸で越冬による宇宙移住シミュレーションを実施・調査予定。

MASHING UP vol.3

レジリエンス力 – 私が挑戦しつづける理由

撮影/今村拓馬

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野澤朋代

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