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女性のモヤモヤの根っこは「政治」とつながっている/パリテ・アカデミー 三浦まりさん、申きよんさん[前編]

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いま世界では、クオータ制(※)を取り入れるなどの施策が功を奏し、女性議員比率が急増しているという。「日本女性は政治に無関心」ともいわれるが、その原因はどこにあるのか——。“女性政治リーダー養成講座”を提供する一般社団法人「パリテ・アカデミー」を主宰する三浦まりさん(上智大学法学部教授)と申きよんさん(お茶の水女子大学ジェンダー研究所准教授)に、現状の問題点をうかがった。

クオータ制:政治代表における男女の不均衡を是正するため、候補者・議席の一定数を女性、または男女双方に割り当てる制度、ジェンダー・クオータ。ヨーロッパ、アジア、南米などで導入されており、いまや世界の趨勢となっている。性別割当制。

社会を変えるためには、研究だけでは足りない

2018年3月、共同代表として「パリテ・アカデミー」を立ち上げ、6名の女性政治家を世に送り出してきた三浦さんと申さん。

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上智大学法学部教授の三浦まりさん。

三浦さん:もともと申さんは日韓の女性運動や家族法、私は日本の働き方を研究していたんです。労働、福祉、家族法など、ジェンダーに関する問題を追っていくと、結局は意思決定の場に女性がいないから、政策が進まないという実態が見えてきます。そこから女性の政治参画の重要性にたどり着きました。

申さん:三浦さんのことは以前から知っていて、一緒に色々なことができそうな方だなと思っていました。最初のきっかけは、2011年3月に上智大学で開催されたクオータ制のシンポジウム。

三浦さん:そうそう。そのときの出版物を一緒に作る過程で、より深く関わるようになったという感じです。本を出した後も共同研究を続けて、2人で政治家によくインタビューをしていたんですよね。その前後におしゃべりをしていたときに、女性議員を増やすためにはスクールというか、トレーニングみたいなものも必要なんじゃないかと。それぞれがそう思っていて、何かの会話で「私もそう思ってた!」みたいなね。

申さん:はっきり覚えているんですけれども、2016年の秋。もうその場で「やりましょう!」と意気投合したんですよね。やっぱり社会を変えるためには、研究だけでは足りない。一緒にプロジェクトをやりませんかということになったわけです。

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お茶の水女子大学ジェンダー研究所准教授の申きよん(しん・きよん)さん。

三浦さん:2017年5月にアメリカに行き、主に若手女性に対して政治トレーニングを行っている14の団体を視察しました。アメリカにはクオータ制がなく、選挙に出たいと思った人は自由に出やすいシステム。ただ、たくさん資金を調達しないと出られないので、どういうスピーチをするかとか、どういったところに支援を求めるかとか、そういったノウハウが必要になる。それを提供するスクールがたくさんあるんですね。

私たちがアメリカを訪れたのは、ちょうどトランプ大統領当選のあと。ウーマンズマーチをはじめ「自分が立ち上がらなければ」という女性たちの大きな波が起き、どの政治トレーニングスクールにも今までの3~4倍の応募者が殺到していました。スクール側は、全員の要望に応えられないのが課題だと。日本とはまったく違う状況でしたね。

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アメリカには、政治家を目指す人向けのスクールがたくさんあり、女性の応募者も多い。

「いつまで私たちを待たせるんですか?」

日本では2018年5月、「政治分野における男女共同参画推進法」(候補者均等法)が参議院本会議で可決された。これは、選挙で男女の候補者数をできる限り均等にすることを、政党に努力目標として求めるというもの。三浦さんは2015年から「候補者均等法」を準備した議員連盟のアドバイザーとなり、与野党の一致点を探り出して法の制定へと導いた立役者のひとりだ。

三浦さん:こうした「男女半々」を目指す法律は世界では「パリテ」と呼ばれており、「候補者均等法」は「日本版パリテ」と言っていいでしょう。法律の原案自体はすぐにできあがったんですが、政党内の説得がとても大変でした。与党である自民党の賛成がないと「候補者均等法」は成立しない。それはもう辛抱強く待つしかないわけです。「いつまで私たちを待たせるんですか?」という気持ちでした(笑)。

三浦さん:「候補者均等法」は、市民社会の女性たちがずっと求めていたものが、やっと結実してできた法律。そこに意義があります。だからこそ、市民社会の女性が使いこなさなきゃいけない。その意味でも、2018年3月に「パリテ・アカデミー」ができて、5月に「候補者均等法」が可決するというタイミングで「政治リーダー養成トレーニング講座」をスタートできたのは、とても幸運だったなと思っています。

というのも、政党は常に「女性候補者のなり手がいない」と弁解することが多いんですね。でも実際はそうではなく、政党からの積極的な働きかけがあれば、そこに潜在的候補者が集まっていきます。それは各国の研究でわかっていることです。政党を本気にさせると同時に、パリテ・アカデミーのように女性を後押しするスクールがあることで、確実に女性議員を増やすことができると思っています。

モヤモヤの根っこを変えるのが政治の仕事

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34歳でフィンランドの首相に就任したサンナ・マリン氏。実母と同性パートナーによる“レインボーファミリー”で育ったという。マリン首相だけでなく、フィンランド新内閣の閣僚は19人中12人が女性。日本から女性首相が誕生する日は来るのだろうか。

「日本人女性は政治に無関心」といわれることがある。政治の在り方に違和感をおぼえることはあっても、それを“自分が変えられる”という気がしない。日本の女性と政治を隔てる距離感は、どうしてこれほど大きくなったのか——。それは「日本の政治の場に女性がいないからだ」と三浦さんは言う。

三浦さん:フィンランドのマリン首相のように、30代40代の女性たちがたくさん政治をやっていたら、すごく近い感じがしますよね。自分と年齢が変わらない人ならば、同じ関心を持っているだろうと思える。そういう人たちが政治を動かしているのを見る環境があれば、もっと政治への関心は高まるはずなんです。

でもテレビの国会中継では、男性のなかに女性が1人、2人。多くの人が考える政治は“永田町の権力闘争”といったイメージで、そこに魅力を感じる女性は多くはありません。また、メディアで女性議員が脚光を浴びるのは、弁舌鋭く政権に対峙する姿か、スキャンダルが起きたとき。そういう世界に自分が入っていくということに対して、恐れをなしてしまうということがあると思います。

でも、政治はそれが全てではありません。なぜ保育園に入れないのか、なぜ女性管理職が増えないのか、なぜセクハラはなかったことにされるのか、なぜ選択的夫婦別姓は実現しないのか。そういった私たちの暮らしや、生きていくなかでのモヤモヤの根っこは、社会の仕組みに問題があります。その仕組みを作っている法律や予算を変えることで、もっと暮らしやすい社会を作るのが政治の仕事。そう考えると政治はすごくやりがいがあるし、そこにもっと女性やマイノリティの視点がないと、政策が偏ってしまうことも理解できるはずです。

また、実際に政治の世界に入って、議員たちのふだんの顔をみると、真面目に有権者の要望を聞き、法律を勉強して、今の法律をどう変えたらよくなるかを真剣に議論している人もたくさんいるんです。その姿を伝えると、「それなら自分も」と思う女性が出てくる。それは「パリテ・アカデミー」での活動を通して実感しています。

[後編に続く]

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三浦まり(みうら・まり)さん
上智大学法学部教授。米国カリフォルニア大学バークレー校で政治学博士号取得。専門はジェンダーと政治、福祉国家論。主著に『日本の女性議員:どうすれば増えるのか』(朝日選書)、『私たちの声を議会へ:代表制民主主義の再生』(岩波書店)など。パリテ・キャンペーンやパリテ・カフェの活動も行っている。NHKラジオ「社会の見方・私の視点」コメンテーターを務める。

申きよん(しん・きよん)さん
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科及びジェンダー研究所准教授。米国ワシントン大学政治学科で博士号を取得し、ジェンダーと政治、女性運動、ジェンダー政策などを研究。学術誌『ジェンダー研究』編集長。共著『ジェンダー・クオータ:世界の女性議員はなぜ増えたのか』(明石書店)など。

撮影/柳原久子(1〜3、6枚目) Image via Shutterstock(4、5枚目)

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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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