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聞き上手な女性は、実は政治家に向いている⁉/パリテ・アカデミー 三浦まりさん、申きよんさん[後編]

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政治学者の三浦まりさん(上智大学法学部教授)と申きよんさん(お茶の水女子大学ジェンダー研究所准教授)に、「政治と女性」についてインタビュー。「パリテ・アカデミー」設立につながる2人の出会いや「政治分野における男女共同参画推進法」成立についてうかがった前編に続き、後編では日本の政治の問題点や、女性・マイノリティーの政治参加の必要性を掘り下げていく。

前編はこちら⇛

日本の民主主義は「活気がない」

東アジアの国々とくらべて、日本の政治にはどのような違いがあるのだろうか。申さんによると、日本の民主主義には大きな特徴がいくつかあるという。

申さん:日本の特徴といえば、民主主義の歴史が長いこと。戦後トップダウン式に民主主義が降りてきたとはいえ、日本は国民主権主義の憲法のもとで一度も民主主義を捨てたことがありません。

でもこの民主主義は、みんなのための民主主義というよりは、男性は外で稼ぎ、女性は家庭を守るという強固な性別役割分業に基づいたものでした。政治そのものが「男性がやるもの」として作り出されていて、その基盤の上に成り立っている。なおかつ自民党政権が続いていて、政権交代がほぼ行われていない。それが日本の民主主義の特徴かなと思います。

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お茶の水女子大学ジェンダー研究所准教授の申きよん(しん・きよん)さん。

申さん:たとえば北欧では70年代くらいから女性運動が高まり、政治に変化を促しました。政党も複数で常に競争していますので、経済的な危機が起きたり、「もう今までの政治では無理だ」という認識が広がって政治のダイナミズムに変化が起きると、女性の要求を取り入れやすくなり、そこで女性の政治への参画が進んだのです。

韓国や台湾では80年代まで独裁政権が続いていましたが、民主化されて国政でも選挙が行われることになりました。二大政党間の競争が激しくなると、女性有権者にアピールするための政治力学が働くその過程で、党内の女性候補擁立が進められてきました。台湾では2005年の憲法改正で候補者クオータ制が規定されましたし、それ以前から地方議会や政党内ではクオータ制が実施されていて、アジアの中では女性議員比率がもっとも高くなっています。女性議員の比率は台湾ほどではありませんが、韓国も政治状況は似ています。

しかし日本では自民党政権が続いていて、若手や女性を候補者にするとか、そういった形で自民党が自らの革新性を打ち出す必要がほとんどなかった。非常に安定した一党支配が続いてきたということで、ある面では活気がない民主主義だったともいえますね。

今はようやく、女性に政治に参加してもらおうという機運が出てきたという感じがします。今までは女性が政治家になったとしても、それは政治家の家業を継ぐとか、自民党の一員としてであって、女性の声を代弁することはそれほど大事ではありませんでした。しかし今は、女性というグループ自体が政治に参加しなければいけないという認識が広がっています。これは日本の新しい動きです。

性暴力、シングルマザー……“生きづらさ”を感じる女性たち

政治に関心のある高校生から40代前半までの女性を対象とする「パリテ・アカデミー」には、政治家を目指す女性はもちろん、女性議員の誕生を助けたい、応援したいという支え手も集まってくる。その多くは、女性として今の社会に“生きづらさ”を感じている人たちだ。政治に疑問を感じたきっかけとしてはジェンダー問題や性暴力の問題が大きく、将来に不安を抱えるシングルマザーも多い。高校生の参加者は、痴漢の被害を語る人が多かったと2人は語る。

申さん:女性として“生きづらさ”を感じているけれど、「これは何なのか? なぜ私がこういうことを経験しなければいけないのか?」と考えるとよくわからない。その原因が政治にあると確信しているわけではないけれど、何かつながりを感じていて、それを探りたくて来る人が多いように思います。

三浦さん:政治について話したいけれど、女性が政治について話すと「意識高い系」とか思われて引かれちゃう。でも、ここならいろんな人と知り合えて、もっと政治について話せるんじゃないかと思った……とか。

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上智大学法学部教授の三浦まりさん。

申さん:みんな「同じ関心を持つ人がこんなにいるとは思わなかった」と喜びますよね。若い女性が政治を議論する文化がないというか、そういう場がなかったんでしょうね。

選挙のシミュレーションで「できるかもしれない」

「パリテ・アカデミー」の2泊3日の合宿では、4人でチームを組み選挙に出るためのシミュレーションを練る。立候補する地域は抽選で決まるため、ほかの候補者とどう差別化し、どういうキャッチフレーズで、誰をターゲットに選挙を組み立てれば勝てるかを考え抜く。一連の作業は極めて実践的で、作成した選挙ポスターを現実の選挙で使った人もいるほどだ。

申さん:4人チームで選挙キャンペーンを練ってみることで、まずは自分が政治に関わることを具体的にイメージしてみること。それはちょっとしたスキルかもしれませんが、「できるかもしれない」という臨場感を持つことができます。たった2泊3日で自分がこれほど変わる、そういう経験をすることが非常に大事。それが、自分も政治に参加できるという自信につながります。

三浦さん:トレーニングを受けると、最初のころと最後のスピーチではまるで違います。刺さるスピーチをするには、自分のストーリーを自分で見つけて、言葉を磨くしかない。仲間との会話を通じて、ストーリーを掘り下げることで、人の心に届く話ができるようになるんです。

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「パリテ・アカデミー」が提供する合宿では、2泊3日を通して自分が政治に関わる具体的なイメージを手にする。

Image via Shutterstock

政治は日常生活の延長線上にある

政治家になる女性が少ないのは、ロールモデルに会う機会が少ないのもひとつの理由かもしれない。女性政治家と出会う機会を作り、等身大の姿を伝えることで、政治を志す女性は増えていくはずだと三浦さんは言う。

三浦さん:実際の女性議員と接すると、女性に限らず議員という仕事が、色々な人の悩みを聞き、それを掬い上げることなんだと理解することができるんですね。人々の声に謙虚に耳を傾けて、自分なりにキャッチしたことを政治に反映していくこと。そうわかると俄然面白くなってくるし、やりがいのある仕事だと思えるようになります。

「人の話を聞く」ということは、女性が日常生活で常にやっていることなんです。政治は日常生活の延長線上にあるもの。悩みを個人で解決するのではなく、制度を変えていくのが政治です。

だから、色々なことにアンテナを立てて、興味関心が広い人。世話好きで、「そういうのって、こうしたら解決するよ」って考えられる人は、政治家にとっても向いています!

地方議会の場合は必要な票数もそこまで大きくないし、立候補にかかる費用もそこまで高くないんです。地域で活動をしていた方が、地域活動の延長として政治をやるのもいい。地域活動をボランティアとしてやるのではなく、職業としてやってみる。選挙にはお金がかかりますが、当選後は報酬をもらいながら活動することができます。「それなら、やってみよう」と思える資質のある女性は、潜在的にはとても多いと思います。

そうした女性が政治に参画していくことで、政治文化が変わっていくはずです。モヤモヤも解決していけるし、未来は明るいと信じられる。それって、わくわくすることですよね。自分が政治家にならなくてもいい。でも、女性の声を聞いてくれる女性議員を応援する女性がもっともっと増えれば、私たちの日常は今よりもずっと暮らしやすくなるはずだと信じています。

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三浦まり(みうら・まり)さん
上智大学法学部教授。米国カリフォルニア大学バークレー校で政治学博士号取得。専門はジェンダーと政治、福祉国家論。主著に『日本の女性議員:どうすれば増えるのか』(朝日選書)、『私たちの声を議会へ:代表制民主主義の再生』(岩波書店)など。パリテ・キャンペーンやパリテ・カフェの活動も行っている。NHKラジオ「社会の見方・私の視点」コメンテーターを務める。

申きよん(しん・きよん)さん
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科及びジェンダー研究所准教授。米国ワシントン大学政治学科で博士号を取得し、ジェンダーと政治、女性運動、ジェンダー政策などを研究。学術誌『ジェンダー研究』編集長。共著『ジェンダー・クオータ:世界の女性議員はなぜ増えたのか』(明石書店)など。

「パリテ・アカデミーで議員とじっくり語る夕べ」講座 vol.1

※このイベントは終了しました。

パリテ・アカデミーで、軽食を取りながら議員と語る夕べを開催します。国会議員は具体的にどのように仕事をしているのでしょうか? 国会で奮闘している女性議員たちを囲んでじっくりお話を聞きます。どうぞふるってご参加ください。

開催日時:2020年2月13日(木)18時〜21時
会場:tiny peace kitchen(東京都千代田区平河町2-5-3)
ゲスト:打越さくら(参議院議員)、木村弥生(衆議院議員)
定員:先着30名
参加費:4000円(食事付き)
詳細・申し込み:パリテ・アカデミーのホームページから

撮影/柳原久子(4枚目を除く)

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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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