「健康志向、環境に対する意識の高まり、SNS。これらが美容業界を大きく変えつつある」
MASHING UP SUMMIT 2020 の収録(2020年2月28日実施)でそう語ったのは、米国のウェブメディアGLOSSYの編集長ジル・マノフさんだ。
ニューヨークに拠点を置くGLOSSYは、デジタル時代のマーケティングとメディアに関する情報を発信するDIGIDAYの姉妹サイト。テクノロジーがファッションに与える影響について伝えるため2016年に立ち上げられ、現在はファッションだけでなくビューティに関する記事も数多く掲載している。
マノフさんは、近年「ウェルネス」というコンセプトが業種を超えてマーケティング戦略に使われており、ビューティに大きな影響を与えていると解説した。
一大産業となった「ウェルネス」
ウェルネスという切り口で宣伝を行なっているのは、いまや化粧品、生活用品、ペットケアなどにとどまらず、酒類や葬儀関係にまで及んでいるとのこと。2017年にはウェルネスは世界でおよそ500兆円規模の産業に成長したという。
SEPHOLA(セフォラ)やULTA Beauty(アルタ・ビューティ)などのビューティ専門店や、ニーマン・マーカスなどの高級デパートも関連商品を多数取り扱っており、オンラインショップも専門カテゴリーを立ち上げ。睡眠、オーラルケア、セクシャル・ウェルネスなど商品は多岐にわたる。
「多くの店がウェルネス関連スペースを広げています。これは、既存の化粧品の棚が侵食されているということを意味します。コスメブランドはそこに食い込もうと動いていて、投資家もこの分野のスタートアップに積極的に出資しています」(マノフさん)
ウェルネスこそ新しいラグジュアリー
デジタルデバイスを肌身離さず持ち歩くのが当たり前となり、今はオンオフの区切りがつけづらい時代。
「『どんなに忙しくても、意識して自分だけの時間を確保しよう!』との呼びかけが始まり、#SelfCareSunday(セルフケア・サンデー)や#wellnesswednesday(ウェルネス・ウェンズデー)のハッシュタグで、ヨガや、フェイスマスクをしている様子がインスタグラムで盛んにシェアされるようになっていきました」(マノフさん)。
現在、スパやリトリートで息抜きをしたり、フィットネスクラブやサイクリングで汗を流すことは、ステータスだと捉えられているそう。
「ウェルネスこそ今の時代のラグジュアリーです。化粧品などのモノよりも、経験を買うことに関心がシフトしていますし、作り込まれたゴージャスな美しさより、健康でハッピーな生活にみんなが憧れるようになっています」(マノフさん)
こうしたトレンドを受け、セルフケアを意識した新サービスもたくさん誕生している。カフェや休憩スペースを充実させたスパ、仮眠スペース、シャワーとアメニティを完備した都心のチャージステーション、フェイシャル専門サロン、顔専門のトレーニングジムなどがその例だ。
プロテイン、ビタミン、コラーゲンなどの美容サプリも人気だ。また、特に近年注目されているのがCBDという大麻由来の成分。炎症を抑えたり、不安を鎮めたりする効果がある。様々なコスメブランドがオイルやクリーム、サプリなどを発売しており、高級デパートのバーニーズも専用スペースを開設した。
肌にも地球にも優しい「クリーン・ビューティ」の台頭
こうしたウェルネスブームの流れで台頭してきたのが「クリーン・ビューティ」のムーブメントだ。オーガニック、サスティナブル、エシカルなどのキーワードで消費者の心を掴んでいる。
「関心の高まりから大手もこのトレンドを捉えようと動いていて、ムーブメントを引っ張っているコスメブランドの買収が増えています」(マノフさん)
2019年秋には、肌の負担となる成分を排し若者の支持を得るスキンケアブランド、Drunk Elephant(ドランク・エレファント)を資生堂が900億円で買収。ロレアルもビーガンやサスティナブルをうたうSeed Phytonutrients(シード・フィトニュートリエンツ)に出資している。
また、Love Beauty and Planetという動物実験を行わず環境に優しいスキンケア・ヘアケアブランドを展開しているユニリーバは、同じコンセプトで洗剤や柔軟剤を扱う新ラインを立ち上げ。女優のミシェル・ファイファーのフレグランスブランドHenry Roseは、安全性と環境への負荷の少なさを打ち出した。これらの話題も、クリーン・ビューティのムーブメントの現れといえるだろう。
「一方で、多色シャドーパレットのブームには陰りが見え始めた」とマノフさんは言う。豊富なカラーバリエーションを低価格で提供する化粧品ブランドe.l.f.(エルフ)はトレンドを読み、クリーン・ビューティで知られるコスメブランドW3ll PEOPLE(ウェル・ピープル)を買収している。
「美容のホールフーズ・マーケット」とも言える、クリーンやサスティナブルをテーマにしたコスメショップも増えているとのこと。
今後の課題は基準づくり
注目されるクリーン・ビューティだが、課題もあるという。
「何を指してクリーンと言うのか、国が定めた明確な基準がないのです。また、成分規制も国によって違います。ヨーロッパでは、13,000種類もの成分が化粧品への使用を禁止されていますが、アメリカではたった30種程度。何が安全なのか本当のところよく分からず、国際規準が必要だとの声が出ています」(マノフさん)
今のところ販売店やビューティ雑誌等のメディアがクリーン・ビューティに関する独自の基準を設けているとのこと。
Image via Getty Images
成分や製造工程に対して消費者の目が厳しくなるなかで、クリーンをうたう根拠を説明する責任がブランドに問われている。また、情報を整理して分かりやすく伝えてほしいという消費者からのニーズも高まっている。
クリーン・ビューティのブランドを立ち上げたメイクアップ・アーティスト、グッチ・ウェストマンはユーチューブチャンネルを立ち上げ情報を発信。女優のグウィネス・パルトロウが手がけるライフスタイルメディア&ブランドgoop(グープ)はビューティとウェルネスをテーマとしたイベントを開催している。
Beautycounter (ビューティカウンター)というコスメブランドは、ソーシャルメディアやイベントなど様々な手段を使って情報発信をするのと同時に、クリーン・ビューティの基準を作るよう政府に働きかけている。
ソーシャルメディアの影響
女性たちの意識の変化を反映したアメリカの美容事情について語ったマノフさん。スピーチ終了後には、MASHING UPの中村寛子とのQ&Aセッションが行われた。
MASHING UPの中村寛子(写真・左)。
「内側からの美しさということは昔から言われていましたが、なぜ今これほど盛り上がっているのでしょうか?」(中村)
「ソーシャルメディアで情報が共有されやすくなったことが一番の理由だと思います。また、共有された情報がオンラインでの購買活動に結びつくようになったことも大きいですね」(マノフさん)
「女性の社会進出も原因として考えられますか?」(中村)
「そうですね。#SelfCareSundayなどのハッシュタグが流行ったのも、背景には仕事も家事も子育ても、というプレッシャーがあります。そのなかで『自分だけの時間を自らに許そう』と声を上げる女性が増え、ハッシュタグでキャッチーな呼び名がついて、一気に広まっていったという感じです」(マノフさん)
アメリカで2、30年かけて徐々に起きてきた社会の変化も影響しているとのこと。
「昔は定時で帰宅することや、有給休暇を取得することを良く思わない人が多かったけれど、今は逆に上司が部下に有給休暇を取るよう勧めるし、6時半にはオフィスは閑散としています。職場以外の生活を充実させようという意識が社会に浸透してきました」(マノフさん)
美しさは心身の健康と直結している。それだけでなく、社会のなかでどう生きるかという選択ともつながっている。アメリカのビューティ・トレンドを概観したセッションから、女性たちが理想とする時代の輪郭が見えてきた。
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このセッションの収録動画を、MASHING UPコミュニティ会員に限定公開しています。MASHING UPコミュニティ会員になると、以下の動画のノーカット版をご覧いただけます。
MASHING UP SUMMIT 2020
KEYNOTE
ビューティ新潮流。業界を変容させるウェルネスムーブメントとは
撮影/中山実華、文/野澤朋代
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