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CONFERENCE:MASHING UP vol.3

ダイバーシティはイノベーションの源泉! 多様性の先にあるもの

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各企業がダイバーシティ&インクルージョンに取り組む中、全社員に文化を浸透させるというハードルの高さに、思わずため息が漏れてしまう担当者もいるのではないだろうか。特に、ROI(投資対効果)が見えにくいため、モチベーションを継続させるのは簡単ではないはずだ。

だが、その先には、これまでにない世界が待っている! ビジネスカンファレンスMASHING UP Vol.3(2019年11月開催)では、各社のダイバーシティを導いてきたプロノバの岡島悦子さんをモデレーターに、キリンビール広域法人統括本部長(現・人事総務部長)の神元佳子さん、丸井グループ執行役員の津田純子さんを招き、「ダイバーシティってコストも時間もかかる。でもその先に面白くてたまらない多様性があるという事実」と題したトークセッションを行った。

「女性活躍」からスタートしたダイバーシティ

まず、このセッションが生まれた背景として岡島さんが取り上げたのは「ラグビー・ワールドカップ」の例だ。岡島さんは、国籍、年齢、身体性も大きく異る多様性あふれるメンバーがワンチームになることで、強さや面白さ、ワクワク感が生まれると指摘。その構造はビジネスの場でもあてはまるのではないか、というのが岡島さんの投げかけだ。

キリンビールでダイバーシティ推進の取り組みがスタートしたのは2007年。女性の総合職社員が辞めてしまうケースが続き、「女性が働き続け、活躍できる会社になれば、全社員にとって働きやすい会社になるのでは」と、キリン・ウィメンズ・ネットワークというプロジェクトが立ち上げられた。08年にそのリーダーに就任したのが神元さんだ。

「女性の社会進出に伴い、お酒の世界のお客様も多様性しました。それなのに、作っているほうが旧態依然とした男性ばかりだと、お客様に置いていかれるような危機感が強くありました」(神元さん)

5、6年の取り組みを進めるうちに女性の退職者は少なくなった。神元さんが次に目指したのが、「リーダーになる女性を増やそう」というフェーズだ。

経営理念に「ダイバーシティ」を追加

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キリンビール 神元佳子さん。

「特に女性は結婚や出産などいろいろなライフイベントがあるので、キャリアの前倒しで、早めにいろんな経験をしてもらうようにしました。そうすることで、女性だけでなく、男性も年齢に関わらず、優秀な人はどんどんリーダーにするという風土が生まれると思ったのです」(神元さん)

現在、キリングループにおける女性管理職の割合は8.1%まで上昇。2021年には12%まで引き上げることを目指している。

そして第3フェーズが、2019年に経営理念をブラッシュアップしたことだ。若手のグループセッションで発言された「ダイバーシティ」というワードが経営理念に加えられた

「ダイバーシティが経営理念に加えられたことで、社長もいろんなところでダイバーシティに言及し、戦略を実現するために人事や営業部隊も動き出しました。そして少しずつ、社内で異なる考え方や経験、物の見方、属性だけではない『見えない多様性』が進んできていることを実感しています」(神元さん)

働き方改革とともに、会議には女性の参加をマストに

丸井グループはかつて、深夜までの残業も当たり前のように行われていた。そのため、ダイバーシティの取り組みは、2008年、働き方改革を検討するなかで始められた。

「リーマンショック後の不況の中で、『そもそもおじさんが長時間、朝から晩まで食事もせずに会議をしていること自体が業績を悪化させているんじゃないか』と社長が言ったのです。それではクリエイティビティなんて生まれないのではないか、ということになり、会議には必ず女性や若手が参加するようになりました」(津田さん)

やるときは徹底してやるのが丸井グループの社風だ。そこから勤務シフトを50パターンほど作るなど様々な改革を行い、残業時間が1人当たり年間で42時間と、日本でもトップクラスの残業が少ない会社へと変貌した。

ダイバーシティ推進を「見える化」する

丸井グループでは、2013年頃から女性活躍に取り組み始めている。まずは外部から講師を招き、「なぜダイバーシティに取り組むのか」という内容を、幹部を中心に浸透させた。

「ある程度の理解が得られた2014年に、中期経営計画の一つにダイバーシティを加えました。こうした取り組みはなかなか見える化が難しいものですが、自主的にKPI化して、目標に向かって進めています」(津田さん)

KPIである「女性イキイキ指数」によると、意欲的に仕事に取組み、ダイバーシティに共感する社員の割合が現状で98%。2021年までに100%を目指している。男性の育休取得率ではすでに100%を達成した。

「育休は7日間から6か月間程度まで幅があるのですが、部長クラスの幹部に、部下から出産の報告が入ったら『おめでとう!育休いつ取る?』と必ず聞くようにお願いしたところ、急激に取得率が上がりました」と津田さんは言う。

ダイバーシティの成果である「本麒麟」が大ヒット

ダイバーシティを早くから推進してきた結果、両社ではこれまでにない手法で結果を生み出している。キリンビールでは、「本麒麟」のヒットもダイバーシティの結果といえる、と神元さんは指摘する。

「本麒麟は今、大ヒット中なのですが、作ったのはとても情熱的な女性です。また、これが生まれた背景にもダイバーシティが絡んでいます。というのも、商品開発の要であるマーケティング部長を、外部のP&Gさんから来ていただいたのです」(神元さん)

ダイバーシティとは、均一な中に、異能の人間が入るということ。その効果を上げるには、「あなたはそこにいていいんだよ」という心理的安全性を確保する存在が必要、と神元さん。キリンでは、社長自らが「なんでもやっていいから、安心してやってくれ」と外部からの人材に言い続けた。それにより、当人は冷静に、内部の人間関係に捉われず「なぜ今までの商品が失敗したのか」をヒアリングして分析し、ヒット商品へとつなげたのだ。

インクルージョンを極めた「ラクチン」シューズが誕生

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丸井グループ 津田純子さん。

キリンのケースと同様に、ダイバーシティによって新しいイノベーションを目指す理由は、何より「お客様に喜んでもらうため」だと丸井グループの津田さんは言う。その丸井では。19.5cm~27cmセンチまでサイズ展開した「ラクチンきれいシューズ」が大ヒット。さらに、パンツも含めた「ラクチン」シリーズをECサイトで購入したい顧客に向け、試着専用の売り場を設けたことで話題を呼んだ。

誰も取り残さない取り残されている人がいるところは、逆にビジネスチャンスだよね、という考え方で、幅広いサイズ展開をしました。すると、トランスジェンダーの方にもご愛用いただいて、プライベートブランドでありながらこれまでに500万足を販売しています」(津田さん)

「マルイ×お客さま商品開発」として、顧客を招いて意見交換をする会議もこれまでに600回以上実施されている。「皆でダイバーシティを持ち寄り楽しく対話するところから、いろいろな成功事例が生まれたのかなと、振り返って思います」と津田さんは言う。

トップの肩入れとジョブローテがポイントに

ダイバーシティを進めるということは、「異能な人を集める」ということだ。しかし、異能な人を集めるだけではなく、バイアスを外し、新しいものを生み出すまでには時間もかかる。それに成功した2社に共通するポイントについて、津田さんはこう指摘する。

「やはり、トップが担保して、ダイバーシティを強く推進していることが一つ。もう一つが、社内でもジョブローテーションなどでさまざまな職種を経験することで、部署ごとの『ここはこうあるべき』という文化や村意識が薄れ、肩の力が抜けていきました。若手がベテランの上位職になることも当たり前になる中で、10年ほどかけて変わってきたという感覚です」(津田さん)

ダイバーシティは楽しい!

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プロノバ 岡島悦子さん。

最後に、「ダイバーシティのワクワクポイントは?」という岡島さんの質問には、以下のように答えてくれた。

「ダイバーシティが、次のビジネスの種となることです。会社の文化や風土でいえば、明らかに景色が変わりましたし、意思決定の出し方も変わりました。確かに、ここまで来るには時間もコストもかかりましたが、いざ回転しだすと、とても良い結果を生むことを実感しています」(津田さん)

「私たちの会社は食から始まり、今では医薬の会社も持っていますが、8年後の2027年に向けて、『食と医を繋ぐ』という領域にも進出したいと思っています。そのためのベースとなるのが、ダイバーシティであり、多彩な視点を持ってインクルージョンできる人だと考えています。とにかく今は異能の人をたくさん作りたい。そのために、ロボットの会社やミャンマーの山奥の会社に若手を送り込んだりして、人材育成に力を入れています」(神元さん)

「ダイバーシティは楽しく、イノベーションの源泉になる」という共通認識を示してくれた2人。最後に、岡島さんが「老若男女それぞれのなかに多様性が、インターパーソナル・ダイバーシティと言えるものがある。それらがかけ合わさることで、新しいものがどんどん登場することを期待したい」と総括。

現在、時間もコストもかかるダイバーシティに行き詰まりを感じている人も、それぞれのトークから、未来のワクワクを目指して邁進する力を与えられたのではないだろうか。

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MASHING UP vol.3

ダイバーシティってコストも時間もかかる。でもその先に面白くてたまらない多様性があるという事実

撮影/今村拓馬

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中島理恵
ライター。神戸大学国際文化学部卒業。イギリス留学中にアフリカの貧困問題についての報道記事に感銘を受け、ライターの道を目指す。出版社勤務を経て独立し、ライフスタイル、ビジネス、環境、国際問題など幅広いジャンルで執筆、編集を手がける。

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