近年、働き方が多様になってきており、その変化は男性よりも女性の方が顕著だという。働き方が多様化するに伴い、価値観や幸せの形もさまざまに変化している。一昔前のように「絵にかいたような幸せ像」があるわけではない。では、女性はどうすればよりよく働き、「WELL」な状態でいられるのか——。
MASHING UP SUMMIT 2020(2020年2月28日収録)では、女性の仕事探しのサポート事業などを手掛けるWarisの共同代表であり、フリーランス協会の理事を務める田中美和さんと、&Co.,Ltd.代表取締役でTokyo Work Design Weekオーガナイザーの横石崇さんが、近年のデータを振り返りながら幸せに働く条件を探った。
多様になっている女性の働き方
&Co.,Ltd.代表取締役の横石 崇さん。
対談は、働き方についてのイベントも多く手がける横石さんの経験談からスタート。
「過去に、女性の働き方というテーマでイベントをしたところ、参加者のひとりが『私の知っている女性の働き方じゃない』と怒って帰ってしまったことがあるんです。そのとき『女性の働き方』とひとくくりにしたことをとても反省しました」(横石さん)
「そうですね、とても多様化しています。私は過去に、働く女性向けのメディアで記者をしており、現在は、フリーランスとして働きたい女性と企業をマッチングするサービスをしています。女性のライフやキャリアは、私自身が長く接してきたテーマなんです」(田中さん)
2018年の広義のフリーランス人口は、副業も含めて390万人いると言われており、日本の労働人口の6%ほどだという(※)。
「東京都内ではもっと多いだろう。韓国は日本の倍くらい」と横石さん。ニューヨークでは、 若年層の半数をフリーランサーが占めているという推計データもあるという。世界的にも、個人で仕事をするケースは増えているというのだ。
フリーランス人口の増加だけでなく、職種も多様に
Waris共同代表の田中美和さん。
田中さんが共同代表を務めるWarisの調査によると、ここ数年で職種も多様化しているのがわかる。
「フリーランスと言うと、デザイナーやエンジニアなどクリエイターのイメージが強いかもしれませんが、一般の会社員と同じような業務が増えています」(田中さん)
横石さんは「いわゆる“ビジネスフリーランス” や“インディペンデント・コントラクター” ですね」と付け足す。スクリーンに表示されたグラフを見ると、2017年にはフリーランスの仕事を探してWarisに登録する人のうち、ライターや編集者が最も多く、19%を占めていたが、現在はマーケティングや広報が24.8%とトップ。その次に人事が続き、16%の割合となっている。
「人生100年時代と言われており、働く期間も長くなる。フルタイム週5日、終身雇用という従来の働き方では、対応できなくなってきています。多様なニーズとともに、それを実現するテクノロジーもある。同時に、価値観も多様化しています」(田中さん)
働き方改革が提唱される前から「Tokyo Work Design Week」を開催している横石さんは、2011年の東日本大震災がきっかけになって、これからのキャリアの作り方に大きな変化を感じていた。
「当時から、一方向の『はしご型』のキャリア形成ではなく、『ジャングルジム型』のキャリア創造をするようになると言われていました。上に登るだけでなく、斜めに進んだり、飛び降りたり、もう一度登ったり。それくらいキャリアの作り方が変わるだろうと」
田中さんはその変化を実感している。2012年に自身が会社員を辞めた時には「もう会社員には戻れない」と感じていたというが、現在は会社員とフリーランスを行き来する人も増えているのだとか。
「会社員になってもフリーランス時代のクライアントと取引を継続するなど、その境目はあいまいになり、グラデーションになっていると感じます」
どうすれば幸せに働けるのか?
働き方が柔軟、多様になる中で、どうすればWELLな(幸せな)働き方ができるのだろうか。みんなに当てはまる「幸せ像」がない中で、どのように見つけていくべきなのだろう。
「Warisでは『Live your life』というビジョンを掲げています。私のWell-beingのイメージは、このビジョンの示す『すべての人に自分らしい人生を』というもの」(田中さん)
「大手町のような場所で“背広族”の人に『あなたのキャリアのタグは?』と聞くと『会社員しかない』と言われてしまうことも多い。これでは多様性もないし、その人の願望も、その人らしさも現れてきません。『自分らしい人生って何だろう』って考える機会がないんですよね。だから女性だけでなく、男性にも必要な考え方なんじゃないでしょうか」(横石さん)
ここで田中さんが「活躍フリーランスの幸福度実態調査」というリサーチデータを紹介した。幸福学を研究している前野隆司さんと共同で調査したもので、「幸せなフリーランスは何が違うのか」について調べたものだ。
「“人生満足度”を見たとき、日本人平均が18.9%、フリーランスの平均が25.9%と、フリーランスのほうが7ポイントも高いんです。また、興味深いことに、働く時間や報酬と、人生満足度の間に明確な相関関係が見られませんでした。さらに調査をしていくと、人生満足度は『今の自分が本当になりたかった自分かどうか』が影響しているとわかったんです」(田中さん)
「自分らしさ」というキーワードに加えて「なりたかった自分」といったキーワードが登場する。誰かに与えられる役割ではなく、「自分」が大切になるのだ。
多様な働き方で幸せになる条件がわかってきた
一方で、多様な働き方の中で増加しているフリーランスやリモートワークでは、「上司や同僚と肩を並べて働く」という機会が少なくなる。それによる弊害もあるのでは、と横石さんが疑問を投げかける。
「会社がフルリモートワークになった女性から相談を受けました。自立性は促されたものの、成長実感がないという悩みです。近くに上司がいないため、アウトプットまでのプロセスを見てもらえない。また、『ありがとう』という感謝や『やってみよう』という促しも少なくなったそうなんです」(横石さん)
そういった人間関係の面では、テクノロジーが解決できる部分は大いにあるという田中さん。
「弊社は30人ほどのメンバーでリモートワークをしていますが、『ありがとう』の言葉やひとりひとりを認める部分は、システム上でコインを送りあうようなシステムを活用しています。また、リモートワークだからこそ、1on1のセッションを大事にするなど、コミュニケーションに注力しています」(田中さん)
リモートワークは、自然と雑談が生まれるような環境ではないため、意識してコミュニケーションに注力することが必要不可欠になる。
また、フリーランスのメンタルヘルスに関する調査では、「メンタルヘルスが良好なフリーランス」の共通点がわかったという。ここでも、コミュニケーションの重要性が明らかになった。
「メンタルヘルスを良好に保つ条件のひとつは『仕事におけるマイルールの確立』。軸や価値観、ビジョンといった抽象的なものに加えて、『4時以降は打ち合わせを入れない』などの細かなルールも含みます。ふたつめは『人的ネットワークの充実』です。人とのつながりは、Well-beingを考えるうえで欠くことのできない要素です」(田中さん)
ここで、「自分が幸せになるために、自分の軸を持つ」という観点で、参加者の意見をたずねる。それぞれ近くの人とシェアしてもらったのち、数名が次のように発表した。
「『楽しいことしかしない』『好きなことしかしない』というルールを持ちたい」
「ファッション業界でやりたいことが明確にあるので、手段も職業も問わず、それを実現するために行動していく」
シェアした時間は短くはあったが、「自分らしさ」や「自分の軸」といった疑問を改めて自分に問いかけ、言葉にすることは価値が高かったはず。今回のセッションではフリーランスに関するデータが多かったものの、働き方に関わらず大切なことが明らかになった。なりたいイメージを持ち、それに向かって選択を重ねていけるよう一人一人が心がけることで、その先に新たな可能性が待っているのかもしれない。
「女性の可能性というテーマでしたが、男性の可能性も広げてほしいと思っています。男性は危機感がないとなかなか動けないので、女性が社会を変革するエンジンになってほしい」(横石さん)
会場の誰もが自分らしい生き方、働き方に思いを馳せたセッション。それぞれが、それぞれの「WELL」を見つけていくことが、幸せな働き方につながっていく。
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このセッションの収録動画を、MASHING UPコミュニティ会員に限定公開しています。MASHING UPコミュニティ会員になると、以下の動画のノーカット版をご覧いただけます。
MASHING UP SUMMIT 2020
TALK SESSION
女性の可能性をひらく。これからのWELLな働き方
撮影/中山実華

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