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今だからこそ考えたい、私たちのライフスタイルが地球につける「足跡」[後編]

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前回は、ポストコロナの時代を見据えて、私たちの暮らしを見直すきっかけとして、平均的な日本人の暮らし方をもとにした、地球温暖化を含む気候変動を抑制するための選択肢について取り上げました。今回は、それを一歩進めて、どのように一人ひとりの豊かな暮らしを実現し、皆でサステナブルな社会を作っていくかを一緒に考えていきたいと思います。

前編はこちら⇛

一人ひとりに合った多様でサステナブルな暮らし方へ

「平均的な日本人の暮らし」がすべての人の状況や好みにぴったり当てはまるわけではありません。同じ日本で暮らしていても、都市部と地方部、若者とお年寄り、学生と子育て中の共働き夫婦など立場が違えば、住むところや食べるもの、移動手段、休日の過ごし方は異なります。こうした条件が同じでも、趣味や生活で重視しているもの、人生の目標などは一人ひとり違います。そのため、一人ひとりに合った多様でサステナブルな暮らし方があるべきなのです

私たちの調査でも、実際の温室効果ガス排出量はそれぞれのライフスタイルによって大きく異なることがわかっています(Sustainability誌『Carbon Footprints and Consumer Lifestyles』)。日本に暮らす人々の生活の消費パターンを分析し15のグループに分けたところ、カーボンフットプリントが最も大きなグループは1人あたり年間で約25トン、最も小さなグループでは同5トンと、約5倍もの開きがありました。

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【 1人1年あたりのカーボンフットプリント】

IGES提供

この差についてはしっかり考えなければなりません。経済的格差の拡大が世界的に問題となっていますが、世界の温室効果ガス排出量の半分は、わずか10%の人々の消費によるものだと指摘されています(オックスファム『Extreme Carbon Inequality』)。このことは、誰が気候変動を引き起こしているのか、そして対策を誰が主導あるいは負担していくべきかという公平性の観点からも大変重要な視点です。

サステナブルな社会の鍵を握る豊かさとは

より良い社会をつくるためにもうひとつ重要なことがあります。それは私たちの「豊かさ」をどのように捉えるかのモノサシです。近年、GDPなどの経済の量的な大きさでは測れない暮らしや社会の質が注目を集めています。例えば、内閣府は健康状態、ワークライフバランス、社会とのつながり、自然環境などを『満足度・生活の質を表す指標群(ダッシュボード)』として取りまとめました。モノやお金だけでは測れない充実した質の高い暮らしをどう実現するかという課題を政府でも検討しているのです。

今回の新型コロナウイルスで、モノやお金には代えられない、何気ない日常や人とのつながり、そして健康の大切さを強く実感した方も多いのではないでしょうか。サステナビリティの観点からも、モノの所有や消費の楽しさや便利さに加えて、そうした豊かさに引き続きもっと目を向ければ、サステナブルな社会への糸口が見えてくるのではないでしょうか。

二酸化炭素(CO2)などの排出につながる暮らしの側面の多くは、モノの所有やエネルギーの消費などの「物質的な量の拡大」に関わっています。モノの所有や消費だけを豊かさとすれば、気候変動への対策は我慢を強いているかのように感じてしまうかもしれません。しかし、気候変動という「地球の健康」のための対策は、私たちの暮らしの新たな「豊かさ」につながる面もあります

例えば、自転車通勤や野菜中心の生活を取り入れることは健康にもつながります。テレワークや職住近接で通勤時間を減らすことで、家族や友人と過ごす時間を増やしつつ、時間がなくて諦めていたことに挑戦できるかもしれません。モノや移動手段のシェアリングを通じて職場や地域の人々との接点が増えたり、国内や身近な場所の良さを発見してますます地域が面白くなるきっかけを生んだりする可能性も十分あります。

皆さんが、これからの暮らしや人生で大切にしていきたいことは何でしょうか。

※選択肢のなかから、いずれかの回答をクリックすると投票結果がすぐに表示されます。他の人の回答についてもチェックしてみてください。

人間も地球も豊かにする「地球1個分の暮らし」

さて、2回にわたってこれからのサステナブルな社会のあり方を、気候変動と私たちのライフスタイルの観点から考えてきました。「人類の健康」と「地球の健康」の関係を少しでも身近に感じていただけたでしょうか。

森林や海洋など地球の生態系は、自然界や人間社会から排出された汚染物質を吸収し、きれいにする力を持っています。ただし、その力には限界があり、私たちの人口増加や生産・消費・廃棄活動をすべて受け止められるわけではありません。

私たち一人ひとりが地球にかける負荷と地球が許容できる負荷を比べて、それがぴったり同じになる暮らしを「地球1個分の暮らし」と呼び、地球の限界を超えた地球2個分、3個分の暮らしになることをオーバーシュート(限界超過)と表現します。そして、気候変動をはじめとする地球への負荷はすでに「オーバーシュート」しつつあります。それを止めるには、ライフスタイルと社会のあり方を変えることが必要ですが、一度「当たり前」になったことを作り替えるのはとても大変です。一度設置した社会インフラや住居、自動車・家電製品などの耐久財は数年から数十年単位で使われますし、政府の財源にも限りがあります。だからこそ、新型コロナウイルスがそれらを根底からまとめて揺さぶっている今、新しい社会の「当たり前」を考えることがとても重要なのです。

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私たちの社会の「当たり前」をサステナブルなものに見直していくには、一人ひとりが参加する社会的な議論が必要です。気候変動を止めるために生じる負担を社会全体で支え、すべての人々の生活や雇用を守り、地域経済の活性化や新たなビジネスの機会につなげながらサステナブルな社会に移行しようという「Just Transition(公正な移行)」が議論されています。気候変動への対応は、事前に準備してデザインされたプロセスに基づくべきで、突発的で強制的なものであってはなりません。サステナブルな社会への移行は、気候変動という危機を抑えつつ、どのような暮らしや豊かさを大切にしたいのか、私たち一人ひとりが参加して考える望ましい未来の姿に基づいたものとするべきです。そして、特定の人に負担を強いるようなことがないよう、社会的弱者にも配慮した、段階的で公正なプロセスとしていく必要があります。

私たち一人ひとりが、この非常に困難な時期を、私たちの社会の豊かさと「地球1個分の暮らし」について考えるきっかけとし、皆で協力してこの非常事態を乗り切ることを心より願っています。そのためのひとつのきっかけとして、本コラムと『1.5°Cライフスタイル ― 脱炭素型の暮らしを実現する選択肢』がお役に立つようであれば幸いです。

SDGs: 12,13公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)]Image via Shutterstock



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小出 瑠
地球環境戦略研究機関(IGES) 持続可能な消費と生産領域 研究員
専門は環境・資源工学および政策・統計分析。経済社会システムにおけるモノの流れを把握するマテリアル・フロー分析やそれに伴う環境への影響を分析するライフサイクル・アセスメント(LCA)、データサイエンスの手法を活用し、持続可能な社会の実現へ向けた調査研究を行う。近年は、持続可能な消費と生産(SDGsのゴール12)に関する政策分析、脱炭素で資源効率の高いライフスタイルに関する分析やシナリオ策定に取り組んでいる。

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