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CONFERENCE:MASHING UP vol.3

働く場所にとらわれない。コロナでもっと自由に変わる働き方の可能性とは?

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新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務・テレワークが急激に広まっている。これを機に、これまでの働き方を見つめなおす人も増えたのではないだろうか。またコロナ後は、都市部に暮らして通勤する形にしばられない社会へとシフトする可能性もある。

コロナ以前にあたる、2019年11月開催ビジネスカンファレンスMASHING UP Vo.3では、地方で働くということ、行き来しながら働くことを考えるセッション「働く場所、働き方。自由な労働のかたちが地方を変える」を行っている。都市と地方、それぞれのメリットを把握し、事業を展開する先人たちの声は、これからの私たちの生き方にも大いなるヒントとなるはずだ。

登壇したのは、東京でベストインクラスプロデューサーズのマーケティングプロデューサーを務めながら、一般社団法人邑サポートのスタッフとして毎月、岩手県に通う生活を送る伊藤美希子さんをモデレーターに、古都里の豊原弘恵さんリビングワールドの西村佳哲さんロフトワークの林千晶さんの4人が、それぞれの働き方や地方貢献について語り合った。

東京で働きながら、徳島県に地域公社を設立

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リビングワールド 西村佳哲さん。

大手建設会社を経て、建築計画やまちづくりなどの仕事を請け負うデザイン事務所、リビングワールドの代表を務める西村佳哲さん。自身の働き方を“単位”でみると、「書籍の執筆や働き方研究家としての“個人”、人の話を聞くことをテーマとした“ワークショップ”、そして夫婦の活動としての“事務所”と、3種類の単位で働いています」という。

そして、もう一つ。徳島県神山町の町人たちと共同で地域公社 神山つなぐ公社を設立し、理事を務めている。

「神山は平地が少ないので、若い世代が新しい住まいを構えようと思っても土地がなく、そのために近くの大きな街に出てしまう人が多い。その問題を解消するために、集合住宅を開発している」と西村さん。若い世代を支援するための教育や仕事作りのプロジェクトも進行中だ。

「その土地とどう関わるか」をテーマに活動

「僕は最初デザイナーとして仕事を始めて、最近はプランニングやファシリテーションが多いけど、プロジェクトごとに必要なものになればいいと思っています。場所でいえば、東京の家と、東日本大震災後に宿を作った陸前高田市、建設プロジェクトを手伝っている岐阜県などの出張先、それから徳島県の神山町を行き来しています」と西村さん。

どこで、誰と、何をして生きていくかは、人によって千差万別であっていい。西村さんの場合、20代は「自分は何がしたくて、何ができるか?」ということを考えることで一杯だった。それが30代には、「自分が何をしたいか」ということから解放されて、「出会った人と何ができるか」を考えるようになる。そして40代から50代にかけての現在は、「その土地にどう関わっていくか」がテーマになっているという。

周囲の反対を受けながらも信念を貫き、起業

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ロフトワーク 林千晶さん。

ロフトワークの林さんは、大学でマーケティングを学び、その流れで「売れる化粧品」を作るべく花王に入社。だが、ストレスが女性の肌に影響することを防ぐための化粧品を作るより、ストレスそのもののない社会を作りたいと願うようになり、ボストン大学大学院のジャーナリズム学科に進み、米国の通信社に入社する。その後、朝日新聞社への入社を目指すも「一次選考であえなく落ちた」ことをきっかけに、友人とともにロフトワークを設立した。

今でこそ、グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」や、クリエイターとの共創を促進するプラットフォーム「AWRD」の運営で知られるロフトワークだが、2000年の設立当初は多くの反対を受けたという。

「クリエイティブなんてお金にならないし、あなたのように何もスキルがない人は企業に入ったほうがいいと、大企業の経営者などから助言されました。でも現代では、クリエイティブ産業は国家戦略に出てくるくらい注目されているし、皆がフリーランスや起業、副業などさまざまな働き方を選ぶ時代になっています」(林さん)

林さんの挑戦はさらに続く。4年前に、森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す「株式会社飛騨の森でクマは踊る」、通称「ヒダクマ」を設立し、代表取締役社長に就任。飛騨の木材を有効活用するために、伝統的な木工と最新テクノロジーを組み合わせ、林業では価値が低いとされる小径木に光を当てたモノづくりを提唱している。

「打診があったときは、東京から飛騨まで4時間半もかかるし、絶対に無理だと思いました。でも、実際に飛騨に行ってみたら、東京にはない豊かさに触れたのです。それが、会社を設立した理由です」(林さん)

がむしゃらな時代を経て、やりたいことに辿り着いた

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古都里 豊原弘恵さん。

大阪府出身の豊原さんは、大学でスペイン語を専攻し、卒業論文のテーマにドミニカにおけるブードゥー教の研究を選んで、その流れでドミニカへ。現地で結婚・出産し、帰国後は商社に勤めるも、時差のある諸外国を相手にする仕事で我が子と過ごす時間がとれず、独立を決意。それまでにない、貿易代行の会社を起業する。

のちに貿易代行業でのタイ人のパートナーが、来日するたびに大量の桃を買っていくことに気づいた。タイでは桃が高価だと聞き、桃を輸出しようとするが、規制が多く簡単にはいかないことを知り、「それなら桃を外に出すのではなく、人を連れてこよう」と、近くに桃の木がある和歌山県かつらぎ町の古民家で、伝統的な暮らしを体験できる1日1組のゲストハウスをオープン。外国人客からも人気のグローバルな価値を持つ宿として注目された。

「現在は、和歌山に2軒、三重に1軒のゲストハウスを運営しています。地方には、『何もないという贅沢』があり、それを求めて多くの人が訪れるのです」(豊原さん)

外からのつながりを地域へ、岩手と東京でパラレルワーク

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ベストインクラスプロデューサーズ 伊藤美希子さん。

モデレーターの伊藤美希子さんもパラレルワークを実践している。1年前に岩手県住田町に住民票を移し、ひと月の三分の一を岩手で暮らし、三分の二は東京でマーケティング支援の仕事をしている。

きっかけは東日本大震災で仮設住宅が住田町に建てられ、先輩を頼りボランティアとして通い出したこと。学生時代にコミュニティデザインを学んでいた伊藤さんは、仮設住宅のコミュニティづくりや、外部からのボランティアと住民のニーズをマッチングさせるコーディネートを行い、団体を法人化。現在は東京から通いながら、町の景観づくりや地域づくりの活動を続ける。「私自身もよそ者だけど、そのよそ者がまたよそ者を連れて、つながりの中から面白いことを起こそうとチャレンジしている」と、今の状況を語った。

「変わらない」という地方のしなやかな強さ

貨幣経済が進む都市では、豊かさを得るにはお金がかかる。それが、地方では少し違っている、と林さんは指摘する。

「以前までは、会社を設立した理由として、『地方がクリエイティブを必要としているから』という東京目線の回答をしていました。でも本当の理由は、現地で囲炉裏で焼いた五平餅をいただいて、すごくおいしかったからです。東京ではビジネスで囲炉裏を出している店はありますが、現役の、本物の囲炉裏を見るのは初めてでした」(林さん)

2月だったが、もてなしには山菜も出た。「今の時期に採れるのですか」と聞くと、「山菜が採れるのは5月からだけど、私たちはおいしいものを大切に保存して食べているから、一週間雪が降って交通が止まっても何ともない」と言われたという。東京のように、ちょっとした自然災害で右往左往はしないのだ。

これには、「地方は“ありがとう経済”だから強いですよね」と豊原さんも賛同。近所の人に野菜をおすそわけすれば、新鮮な魚になって返ってくることもある。わらしべ長者が成り立つ地方では、持っているお金にかかわらず、豊かな生活を送ることができる。

アウトサイダーだからこそ地方にメスを入れられる

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ただ、「地方はいいことばかり」というわけではない。「地方は車社会で、子どもたちも車で学校に送迎するから、寄り道をして新しい世界が開けるということがない」と西村さん。人材が限られるので、アイデアや企画に合ったメンバーを探すより、「このメンバーでなにができる?」と考える順番が変わる。

そんな部分を「足りなさ」でなく「特徴」として見られるのは、「アウトサイダーだからでもある」と西村さんは言う。都市の不自由さも知っているからこそ、フラットな目線で理想を追求できるのだ。そして、いざ動き出すと、都心と違ってシステムが分厚くないぶん自由度が高く、よい影響力も生み出しやすいという。

「地方は、行政の動きがすごく早くて、地域のためになると思えば全力でバックアップしてくれます。それがとても心強いですね」(豊原さん)

都市と地方、そして世界を自由に行き来して働く時代に

最後に、私たちのこれからの働き方について、林さんはこう語った。

「仕事が“労働”といわれていた時代から、“働く”ということに変わってきています。さらに30年後くらいには、働くことは“活動”に変わっていると思っています。AIが発達すれば、人間がやらなければいけないことは減って、各々がやりたいことをする“活動”に変わるのです。そのとき、地方と都心、というだけでなく、世界も含めてボーダーレスに、旅をするように生きていく時代が来るのではないかと思っています」(林さん)

地方と都市という視点でだけではなく、場所と働き方にとらわれない自由な働き方が、このコロナによってより進んでいくことを、4人のトークが示していた。

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MASHING UP vol.3

働く場所、働き方。自由な労働のかたちが地方を変える

撮影/今村拓馬

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中島理恵
ライター。神戸大学国際文化学部卒業。イギリス留学中にアフリカの貧困問題についての報道記事に感銘を受け、ライターの道を目指す。出版社勤務を経て独立し、ライフスタイル、ビジネス、環境、国際問題など幅広いジャンルで執筆、編集を手がける。

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