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一杯のコーヒーと、あなたのストーリーとを交換して #ふたりで社会を変える

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ノルラエラ・ラマシトゥジュさん(左)と、モハマド・サファリ・フィルダウスさん。経営するカフェのカウンターで。

社会課題に取り組む。社会をよくする、少しでも。
この壮大な取り組みに、パートナーと共に二人で立ち向かう、という生き方を選んだ人たちがいる。そんなカップルたちにインドネシアで出会った。

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ノルラエラ(通称エラ)・ラマシトゥジュさんは、インドネシア・スラウェシ島のパルで女性のエンパワメントや人権侵害に取り組むNGOの創設者で、代表を務める。

夫のモハマド・サファリ・フィルダウス(通称ダウス)さんは、アートや文化、人権問題をテーマとするフリーのライターであり、ドキュメンタリーフィルム作家でもある。彼が製作・編集した作品が日本の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されたことも。二人はダウスさんが経営するカフェを拠点にしながら、活動をしている。

女性一人ひとりに寄り添い、自立を後押し

エラさんはもともと会計士だった。しかし多くの紛争や人権侵害の事例を目にし、女性が犠牲になりやすいと感じて、2004年にNGOをつくった。NGOの名前は「エスカペハム」。インドネシア語で「中央スラウェシの人権侵害被害者のための連帯」の単語の頭文字をつなぎ合わせたものだ。人権侵害の実情をデータとして集め、女性を救ってエンパワメントする活動を続けている。

たとえば、1965年におきた大虐殺事件がある。エラさんが生まれる10年以上も前のことだが、インドネシア共産党に関係すると疑われた人々が虐殺されたり、投獄されたりした。犠牲者は50万人とも100万人とも言われる。真相はまだ完全に解明されていない。いまだに、人々の間で尾を引いている大事件だ。2012年と2014年にこの事件をテーマにしたドキュメンタリー映画が作られたほどだ(「アクト・オブ・キリング」「ルック・オブ・サイレンス」)。

エラさんは、何が起きたのか実態を地道に調べる作業を続けている。そして、レイプや暴行、差別といった被害にあいやすい女性たちをトラウマやPTSDから救う活動もしている。女性たちの話を聞き、グループでワークショップをし、癒し、一人ではないと励ます

「女性はいろいろな意味で傷つきやすい。特にこの辺はまだまだ女性の力が弱いので。でも、仲間がいればそれだけでこころづよくなり、一歩が踏み出せます。私はそれを助けたい」。

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エラさんはいつも笑みを欠かさず、優しい物腰だが、「芯が通っていて、驚くほどタフ」(ダウスさん)でもある。

といっても、傷ついた女性たちは最初はなかなか心を開いてくれない。エラさんは彼女たちに寄り添い、ていねいに関係を紡いでいく。「彼女たちが抱える問題について話してくれたとき、本当に嬉しい」。

そして、手に職をつける後押しもする。たとえば、地元産の美しい布で作ったバッグなどの裁縫製品をつくって売ったり、小さな食堂を開業したり。「お料理が得意な人が多いですから。私は簡単な収支計算なども教えます。自分でお金を稼ぐことで、みんな自信をつけていくんです。それが何よりも大事です」。

人権のワークショップで出会い、結婚

エラさんとダウスさんが出会ったのは2012年、バリ島で開かれた人権のワークショップだった。エラさんはNGOの代表として、ダウスさんはそのワークショップのドキュメンタリーを作る仕事で参加していた。ダウスさんはエラさんの拠点とするパルとは違う、西ジャワの島に住んでおり、なかなか会えなかったが、2013年に結婚してダウスさんがパルにやってきた。

「自分のような人間は他にもいるけど、パルでエラのような活動をしている女性はいない。彼女は地域に密着していて、地域には彼女が必要だから。インドネシアでは結婚したら女性が男性に従う文化がまだあって、それも変だと思っていたから。といっても、難しい決断でしたけどね」(ダウスさん)

それぞれの「ストーリー」をシェアするカフェを開業

無類のコーヒー好きで、いろいろな場所に出かけるたびに地元産のコーヒー豆を手に入れては自分で挽いてコーヒーを淹れて楽しむのが趣味だったダウスさんは、2018年にカフェを開く。地域の人々がカフェを開業するためにバリスタとしてのトレーニングの拠点になれば、という思いもあった。実際、ここで修行をしてカフェを開業した人もいる。

ダウスさんはカフェのマスター、そしてもともとの仕事であるライターや映像作家もしながら、エラさんのNGOの活動も手伝っている。ボランティアに、ライティングやメディアの使いこなし方を教えているのだという。

カフェの名前はインドネシア語で「ストーリー」。

「インドネシアのさまざまな土地でコーヒーが作られていて、それぞれの土地に物語があるから」(ダウスさん)。

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二人の友人のアーティストが描いた、カウンターに立つダウスさん。

人生のパートナー以上の存在

そしてカフェはその名の通り、やってくる人たちがそれぞれの「ストーリー」をシェアする場となった。カフェを開いた2か月後、2018年9月にパルは大規模な地震と津波に襲われた。ダウスさんとエラさんは被災地の復興支援にやってくるボランティアにカフェを開放。それぞれのストーリーと情報を共有してほしい、と頼んだ

一杯のコーヒーと、ストーリーと情報を交換する場だったんです」(ダウスさん)。

カフェには多くのボランティアがやってきて、やがて復興について議論する場となる。今では多くのNGOや市民活動家が集い、ミーティングや議論の場として使われるようになった。

カフェの外壁にはインドネシア語で「girls raise her voice」の文字が。そして、中の壁には、ホワイトボードにミーティングの予定がたくさん記入されていた。

エラさんはダウスさんをこう表現する。「私の人生のパートナーであるだけでなく、いろんなことを議論する相手でもあります。彼はいろいろと私を後押ししてくれるだけでなく、私にいろいろと気づかせ、最初に批判してくれる。だから私は走り続けられるんです」。

取材・撮影/秋山訓子

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秋山訓子
朝日新聞編集委員。東京大学文学部卒業。ロンドン政治経済学院修士。朝日新聞入社後、政治部、経済部、AERA編集部などを経て現職。著書に『ゆっくりやさしく社会を変える NPOで輝く女たち』(講談社)、『女子プロレスラー小畑千代―闘う女の戦後史』(岩波書店)、『不思議の国会・政界用語ノート』(さくら舎)『女は「政治」に向かないの?』(講談社)など。

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