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インタビュー/働くあなたに伝えたいこと

遠くの大勢ではなく、目の前にいる人を大事にしていく/&Co.横石崇さん

横石崇さん

MASHING UPに新しい視座と的確なアドバイスを与えてくれるコミッティメンバー。今回から、コミッティメンバーにフォーカスし、その仕事人生をシリーズでお伝えする。

有名クリエイティブエージェンシーのグループにおいて20代で会社役員を務めるなど輝かしい経歴を持ち 、巨大なメディア運営を担っていた横石崇さん。大きな力を手にした感覚でいたが、東日本大震災をきっかけに、「子どもたちの未来に向けて」「目の前の人やモノを大切に」という考え方にシフトしていく。キャリアと今の心境、これからチャレンジしたいことなど、その変遷を語ってもらった。

横石 崇(よこいしたかし) &Co. 代表取締役/Tokyo Work Design Weekオーガナイザー
多摩美術大学卒。広告代理店・人材会社を経て、2016年に&Co.を設立。ブランド開発や組織開発を手がけるプロジェクトプロデューサー。主催する国内最大規模の働き方の祭典「 Tokyo Work Design Week」では3万人の動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条 SANCI」支配人。法政大学兼任講師。著書に『これからの僕らの働き方』(早川書房)、 『自己紹介2.0』(KADOKAWA)がある。

憧れのクリエイティブエージェンシーで役員に

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Zoomで取材に応じる横石崇さん。

就職氷河期で美大生だったこともあり、就職先も少ないわけですし、「就職しなきゃ」みたいな緊張感もなかった。ただ、何かしらのかたちでアートやデザインマネジメントには関わっていたいと思い、当時では珍しくメディアアート事業を手掛ける会社に応募したら採用されたんです。

今となってはそうそうたるメンバーですが、若い頃のライゾマティクスの真鍋大度さんやWebデザイナーの中村勇吾さんらが参加するプロジェクトにド素人ながら関わらせていただきました。そこで数年、アート事業に限らずWebメディアや展覧会を作ったり、テレビ会議用のソフトを開発したりと、最先端のメディアビジネスのイロハを教わったんです。

その後、日本の広告業界を牽引するクリエイティブエージェンシーTUGBOATがデジタルメディア事業に新しくチャレンジするということで、引っ張ってもらいました。僕にとってはなによりも憧れの会社で、岡康道さんをはじめとしたレジェンドと言われる超一流たちの仕事を肌で体験できたことは大きかった。

そこでは、ヤフージャパンと一緒に雑誌のコンテンツプラットフォーム「X BRAND」を立ち上げて、約1000万人のユーザーが利用するサービスに育て上げました。運良く20代で会社役員という責任ある立場を担わせてもらったのですが、周りからは「ヤンエグ(ヤング・エグゼクティブの略)」なんて中傷を言われたこともありましたね(笑)。たしかにスマホもない時代でも1億ページビューあるメディアに関わっていたことで、「何でもやれるんじゃないか」といった全能感もおごりもありました。

そんな時、東日本大震災が起きたんです。

震災で変わった、働き方の価値観

「何でもできる」と思っていたのに、震災が起きたときには自分の力で何もできなかった。メッセージを投げかけても、被災者に届くこともなければ、一人も助けることもできないような感覚。自分の仕事に手触り感がないことに大きな無力感を覚えたんです。自分の仕事は誰のためにあるんだろうか。何のためにもなっていないんじゃないだろうか。数字ばかりを追いかけて誇っていた自分が恥ずかしくなりました 。

せめて何かの役に立ちたいと、友だちに誘われて陸前高田にある村へボランティアに行きました。手触りを求めていたんだと思います。いろいろ手が足りないところを手伝って、すこし自分の中で満足していたときに、村長さんに告げられたんです。

「横石君、もうここには来なくていいよ」

何か怒らせることをしてしまったかと思いました。でも、そうじゃなかった 。

「この村はもう大丈夫だから。私たちは元気でやれる。ただ、心配なのは子どもたちだよ。横石くんには、この子どもたちの未来を作ってほしい。選択肢を増やしてあげてほしい。だから、ここに来る以外にも別の方法もあるんじゃないか」と。思いがけないかたちで、人生の問いを授かったのです。

「新しい働き方」に着目して、未来を作っていく

イベント1★PhotobyTakuYaginuma

横石さんの登壇風景。

Photo by Taku Yaginuma

その翌月には会社を辞めていました。そして、震災の翌年である2012年から、新しい働き方の祭典「Tokyo Work Design Week(以下、TWDW)」をスタートさせます。

TWDWは、働き方のフジロック・フェスティバルみたいなもの。音楽のフェスって、いろいろなステージがあちこちにあって、行けば自分の知らない音楽に出会えたり、友達ができたり、違う世界を知ったりできます。どうしても働き方というのは、組織や業界の壁によって閉ざされがちなのですが、音楽フェスのように、新しい働き方に出会うきっかけを作りたいと思ったのです。それ以降は毎年11月の勤労感謝の日に開催していて、今年で8年目を迎えます。150名のスタッフは全員がボランティアです。トークセッションやワークショップ、仕事体験ブース、ライブラリなど、新しい働き方と出会うためのさまざまな仕掛けをつくりました。自分が得意とするオンラインではなく、手触り感のある対面形式に徹底的にこだわりました。

震災後は、働き方というと「不況で雇用がなくなる」「AIによって仕事が奪われる」などネガティブな話題ばかりだったからこそ、その空気を壊したかった。それに、ネットの記事で他人の話をいくら読んだりしても、働き方というのは実際に体験したり心で感じないとわからないはずです。新しい出会いから、働き方の固定観念を揺さぶり、自分では思いがけなかった選択肢を提供したかったんです。

ただ、大っぴらに言っていませんが、自分が課しているミッションがあります。それは「被災地で出会った子どもたちが社会に出るまでに、生き生きとできる働きがいのある社会をつくる」こと。もう、いくらも時間が残されていない。僕が一人だけでできるものではないけれど、コロナやマイノリティの問題をはじめ、社会が大きく変わっていくタイミングだからこそ、若い人たちが未来をつくれるようにしたいんです。そして、僕はその人の想いを全力で肯定できる人でありたいと思っています。

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NHKでは現代を象徴する若者の祭典と紹介された。

目の前の人に向けた事業を作っていきたい

会社を辞めた後、クリエイティブエージェンシーと人材会社を掛け算したような「ベンチ」という会社を共同で立ち上げました。前職で学んだクリエイティブやブランディングの力をつかって、企業の組織づくりに役立てると考えたからです。

それから間もなくして、組織づくりに限らず、人づくりを行うために「&Co.(アンドコー)」という会社を作ります。社名の由来は、Tiffany & Co.の「&Co.」が「(ティファニーさんと)その仲間たち」という意味なんですが、誰かにとっての1人目の仲間でありたい、という想いをこめています。クリエイティブや人材採用といった問題解決の手法を限定するのではなく、目の前にいる人のためにできることをすべてやり抜くことが大切だと考えたからです。

Webサービスで1000万人を相手にビジネスをしていたころは、人の顔をしっかりと見れていなかったと思います。実際にそのときの記憶はあんまりない(笑)。でも今は、数字を追いかけて一喜一憂するのではなく、プロジェクトやイベントなどを通して息遣いや笑顔、フィードバックをリアルで感じるようになりました。もちろん人の生き方や働き方を変えるのは簡単なことではないですし、いいことばかりではありません。喧嘩になることもあれば、涙を流して感謝の言葉をもらったこともあります。結局のところ、ぼくはそういう泥臭いのが好きなんですよね。

手持ちのリソースでチャンスを築いていく

横石崇さん

目標を決めないんです。事業計画もつくらなければ、正月の抱負も考えない。計画や目標がないわけだから、僕の辞書には「失敗」という概念はないんですね(笑)。その代わり、たまたまの偶然とか、近くにいる人とのちょっとしたアイデアから始まることを大切にしています。だから、すべての出会いを必然だと捉えているところがある。

被災地で出会った言葉も、会社をつくるときもそうでした。「エフェクチュエーション理論」といって、未来から逆算する計画と真逆をいく理論(※)がありますが、まさにそれです。例えるなら、冷蔵庫にある食材を見て「ここから何の料理を作ろうか」という考え方ですね。一流の素材と一流のシェフを日本中から探し出して……という考え方の逆なんです 。

とはいえ、できる限りおいしくしたい。そのためには、ただやみくもに作るのではなく、目の前にある人やモノ、できごとを、自分なりに解釈していく力が大切だと思っています。リフレーミングって言葉に置き換えてもいいですが、視点や視座を変えることですべてに意味や文脈を与えていくことが僕にとっては楽しくて仕方がないです。

※エフェクチュエーション(Effectuation)……優れた起業家に共通する意思決定・思考のパターン。インド系経営学者サラス・サラスバシー氏が体系化した。

僕は「うつわ屋」さんだと思っている

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横石さんが支配人をつとめる鎌倉のコレクティブハウス「北条SANCI」

横石という一族は陶芸の血筋を引いているのですが、そういった意味では&Co.もTWDWもですが、ある意味では“うつわ”を創っていると考えています。そのうつわは、実際の焼き物ではないんだけど、人の個性をよりよく魅せたり、人と人を結びつけることで彩りを飾り付けることもできる。だから、何屋さんかと問われれば、僕は「うつわ屋」さんだと思っています。聞いた相手はキョトンなんでしょうけど(笑)。

今年から法政大学のキャリアデザイン学部で教員にチャレンジしています。これも望んだわけではなく、たまたま声を掛けてもらって「文化マーケティング論」という授業を受け持つことになりました。学生たちと一緒に新しい時代の学問づくりを共創する感覚でやっているのですが、僕が一番楽しんでるかもしれませんね。

ちょうど東日本大震災で被災した子どもたちも大学生になるころなんですよ。今はコロナ禍に悲観する学生も多いのですが、そんな中でも、すべての出会いに意味を見出すことの楽しさを伝えたいと思っています。TWDWも含めて自分のすべての活動は、若い人たちの未来につながっていると信じていますから。

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栃尾江美
外資系IT企業にエンジニアとして勤めた後、ハワイへ短期留学し、その後ライターへ。雑誌や書籍、Webサイトを問わず、ビジネス、デジタル、子育て、コラムなどを執筆。現在は「女性と仕事」「働き方」などのジャンルに力を入れている。個人サイトはhttp://emitochio.net

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