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MASHING UP SALON

縦ではなく、横につながる世界へ。コミュニティ・シップが未来を拓く

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ものごとの始まりにはいつもビジョンがある。とはいえ、起業家たちはどうやって新しいアイデアを抱き、人を巻き込むビジョンを生み出しているのだろうか。

7月31日、オンラインコミュニティ「MASHING UP SALON」では、「未来ビジョンの描き方と、新しいコミュニティ・シップ」と題したセッションを開催。

持続可能なイノベーションをテーマに、地域や組織における環境整備およびプロセス設計を手がけるリ・パブリック共同代表の市川文子氏と、食料、農畜水産、生物資源分野を扱う起業家にしてビジネスデザイナーであり、農産流通プラットフォーム『SEND』の創業者、いきものCo.代表の菊池紳氏に語ってもらった。

住みたいところで、好きなことをするために

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2013年にリ・パブリックを創設。リ・パブリックではさまざまな自治体と協働し、その地域の起業家たちを支援している。

「土地の魅力というと、例えば、佐賀県でなぜ器が発達したのかといえば、土はもちろんですが、そこに食文化や気候風土ときちんと紐づいているからです。「地域の資源」を参加者自身が捉え直し、故にどんな価値が生まれ、ビジネスが成り立っているのかをじっくり深掘っていく。その中で起業家が生まれたり育ったり、新しい事業が生まれたりと変化が起きていくんです」(市川氏)

住みたいところで、好きなことができたら、これ以上いいことはない。「私たちはそういう、“コミュニティ・アントレプレナー”たちを応援する企業です」と市川氏は言う。

リーダーが成長だけを追い求めても人はついてこない

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いきものCo. 代表 菊池紳氏

菊池氏はMASHING UPとのコラボレーションとして、次世代リーダー層に向けたラーニング&コミュニティ「Un-LEARN(アンラーン)」のプログラム・リードも務めている。

「僕自身、ベンチャー業界で起業家でもあったので、リーダーシップを持って、とにかく馬力で事業を作っていくような、“戦い”の時間を過ごしたこともあります。しかし、市場はどこまでも大きくなるわけではないし、成長の幻想ということもある。 テクノロジーを駆使して効率化を追求し、収益の成長イコール成功と位置付けても 、組織やそこで働いている人のモチベーションとしてはどうなのか、疑問に思うことがありました」(菊池氏)

ひとりの「夢」に人々が惚れ込み、コミュニティが生まれる

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リ・パブリック共同代表の市川文子氏

「広島でのプロジェクトでは、カルビー元社長の松尾雅彦氏にメンターをお願いし大変お世話になりました。メンタリングの際に参加者たちはよく松尾氏から『夢が小さい!』と指摘されていましたね」(市川氏)

例えば、オタフクソース株式会社から参加した田中亜紗美さん。田中さんは、卵や小麦粉、牛乳などアレルギー源を除いたお好み焼きを作りたいという構想し、会社での商品化に漕ぎ着けた。

「彼女は、工場探しで飛び込んだパン粉メーカーさんから『うちでは作れないけれど、あなたが夢を実現する力になるよ』と言われ、ずっと応援してもらっていました。心が折れそうになったときは、上司に『お前が倒れても俺がやる』と励まされたそうです。さらに社長からは『この商品はすぐには売れないかもしれないけれど、絶対なくしたらいけないね』と言われたと」(市川氏)

ひとりの『夢』に周りの人々が惚れ込み、コミュニティができていく。これが、市川氏が考える「コミュニティ・シップ」だ。

ビジョンの芽となる「妄想力」を引き立てる

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「言ってみれば、組織ファーストではなくビジョン・ファースト。そのビジョンを持つきっかけとなるのが、妄想です」と市川氏。

例えば、ヨーロッパや中南米では、市民が国や都市の予算に提案と投票をする「参加型予算」が採用され出した。パリでは現在、年間100億ほどが参加型予算に充てられているという。

面白いなと思ったのは、市民が『参加型予算という仕組みができたことで、初めて自分も税金をどう使えたらいいのか考えるようになった』と言っていることです。自分も街の変化に関与できるという妄想が、このシステムを支えています」(市川氏)

中間グループがコミュニティ・シップを育む

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コミュニティから新しいモノやコトが生まれる。これには、実は説明がつくということを、市川氏はオランダのアムステルダム応用工科大学の教授に教わったという。

「個人と組織という対極では、新しいものを生み出したり、制度化したりするのは難しい。でも、中間組織のようなものが生まれると、そこがブリッジとなっていろんなものが生み出されていく。以前であれば地縁・血縁がこのコレクティブを作っていましたが、現代のコレクティブの特徴は、その人の出自には関係がない。この組織が参加する人の「意思」から生まれている点です。これは世界中で、いろんな形態で花開いています」(市川氏)

コミュニティ・シップを盛り立てる女性の力

ちなみに、そうしたコミュニティ・シップに取り組む市長には、参加型予算に取り組むパリやバルセロナ、そしてアムステルダム市長など、女性の存在も目立つという。。

「イノベーションってすごくマッチョな言葉ですよね。経済力と動員パワーが必要。だから女性イノベーターも、やや男性的なコミュニケーションをとらざるをえないような雰囲気がありますね」(菊池氏)

その点、コミュニティ・シップは間口が広い。「むしろ、会社だけではなく、暮らしがあって、家庭があってという人だからこそ育めるものがあると思っています」と市川氏も同意する。

夢を持つ人、言語化する人。ビジョンは皆で作るもの

「周りの人を魅了するようなビジョンって、どうしたら作れると思いますか?」という菊池氏の問いに、「言語化をひとりでやらなくていいのも、コミュニティ・シップのよさではないでしょうか」と市川氏。

「例えば、先にお話したオタフクソース株式会社の田中亜紗美さんも、夢を実現した後の言葉の研ぎ澄まされ方が凄かった。商品が世に出る前と後では言葉一つひとつの重みが違いました。またその過程で、その商品の実現を、周囲の人が『夢』であり『なくしてはいけない商品だ』と言い換えた。夢を実現しようと1つひとつ積み重ねている本人が、その事業の意義をすべて言語するのは大変なこと。 だから、すでに何か生み出した人だったり、上司だったり、身近にいる別の立場の人に言い換えてもらうことも大事だと思うんですよね」(市川氏)

小さくても長く続く、自然なビジョンを持つ

これまでは、イノベーションという言葉のもとに、短期間で大きく成長する事業が崇められる傾向にあった。「しかし、国内市場自体が縮小し、競争だけが加速する中、これからは大きさに関わらず丁寧に価値を提供し、長く続けられる人やチームが評価されるようになると思います」と菊池氏は言う。

「そして、長く続けている会社って、ビジョンは意外と大それていない。とても自然体だったりするのです」(菊池氏)

菊池氏自身も、都会に身を置いている時間には大きな事業をしようと考えてしまうが、地方にいると自然に身の回りのリソースを使いながら長く続けられる事業を始めようと考えるとのこと。

ビジョンの誕生には、生活している土地や、身の回りの人間関係を含む環境による影響も大きそうだ。

土地のリソースとどう付き合うか、皆で考えてみる

「カルビーの松尾氏も、戦後、米がないときに、小麦と広島の川にいる栄養豊富な小エビの天ぷらから着想し作ったのが『かっぱえびせん』だとおっしゃっていました。では今の時代にどんなリソースがあって、どんな技術を使うのかということですが、それは経営者だけでなく、皆で考えたほうが楽しいし、健全な姿ではないかと思います」と市川氏。

地域の人だけでなく資源も人格的に捉えて、その“人”たちと長くコレクティブな関係を形成するにはどうしたらいいか、ということなのかもしれないですね」と菊池氏は締めくくった。

まずはアクション・ファーストでもいい

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質疑応答では、「ビジョンを共有できるコミュニティ・シップの規模はどのくらいでしょうか?」という質問に対し、「人数以上に多様性が重要。年代や性別など、多様な人々がいるコミュニティでは、規模は限りないはず」という意見で両氏が一致した。

「そもそもビジョンは先に必要ですか?『面白いから』で始めるのはダメなのでしょうか」という質問には、「もちろん、ビジョン・ファーストではなく、アクション・ファーストで始め、ビジョンなどは途中で言語化されていくのでも構わないでしょう 」と菊池氏。

市川氏は、「 ビジョンまではいかなくても、妄想を言語化することは必要。環境を整備する側にある人々には積極的に妄想を語る場を作って欲しいということは皆さんにお伝えしたい」と語った。

強いリーダーシップに基づく縦の関係ではなく、横の世界を広げたコミュニティ・シップによって、未来のビジョンを描いていく ── 。

リーダーシップ論から一歩進んだ、まさに新しい時代のビジョンの描き方が存分に語られたセッションだった。

MASHING UP SALON vol.3

未来ビジョンの描き方と、新しいコミュニティ・シップ

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中島理恵
ライター。神戸大学国際文化学部卒業。イギリス留学中にアフリカの貧困問題についての報道記事に感銘を受け、ライターの道を目指す。出版社勤務を経て独立し、ライフスタイル、ビジネス、環境、国際問題など幅広いジャンルで執筆、編集を手がける。

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