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- 障がい者雇用を変えたい。個性を開花させ、新しい価値を生み出す方法
「障がい者雇用」というと、自分とは遠い世界のように感じるかもしれない。だが病気や事故など、思いがけないことで当事者になる可能性はいくらでもあり、年を取れば誰だってあちこち不自由になる。むしろ、ごく身近に起こりうるさまざまな制限の中で個性を発揮するヒントが、その中に詰まっているのではないだろうか。
2019年11月開催ビジネスカンファレンスMASHING UP Vo.3では、セガサミーホールディングス株式会社 CSR・SDGs推進室 副室長 / セガサミービジネスサポート株式会社 代表取締役社長(開催時は、バンダイナムコウィル取締役)の一木裕佳氏をモデレーターに、ミライロ代表取締役社長の垣内俊哉氏、楽天ソシオビジネス代表取締役社長の川島薫氏、ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥氏を招いて、トークセッションを開催。
障がいのある人々がのびのびと働くためにユニークな仕組み作りをしている4名が、その課題や個の可能性を伸ばす方法について語り合った。
どのように個性として開花させるか
セガサミーホールディングス株式会社 CSR・SDGs推進室 副室長 / セガサミービジネスサポート株式会社 代表取締役社長(開催時は、バンダイナムコウィル取締役)の一木裕佳氏。
バンダイナムコウィルで障がい者雇用を促進する取締役の一木氏は、前職であるゲーム会社の新規事業責任者の仕事で睡眠不足やハードワークが重なり、ある朝、耳鳴りがしたという。仕事の合間を縫って6日後に病院へ行くと、医師に「あと1、2日遅れていたら、一生耳が聞こえなくなっていましたよ」と指摘された。まさに、当事者になる一歩手前だった。
「障がい者を切り口にした議論は、ダイバーシティの中で生きづらさや、働きづらさを感じている方々にとっても大きなヒントになると思っています。それぞれ個の可能性をどのようにポジティブに捉えて、周りがどのように異能を個性にするか。いいところをどのように引き出してチームビルディングをしていくかということにもつながります」(一木氏)
障がいを新たな価値にする「バリアバリュー」の考え方
ミライロ代表の垣内俊哉氏。
多様な方との向き合い方やサポート方法を伝える「ユニバーサルマナー検定」を手がけるミライロの垣内氏は、骨の病気で、車椅子で生活している。それをマイナスに捉えていた時期もあったが、「視点を変えれば、強みや価値になることがわかりました。障がいがあってもできることではなく、障がいがあるからこそできることも作っていかなければならないと感じたのです」と語る。
そして、社会に存在する「環境」「意識」「情報」の3つのバリアを解消するため、障がいのある人の視点を活かし、建物や施設のバリアフリーだけでなく、接し方や情報のバリアフリーにも取り組む。サポートが必要な人、「かわいそう」と思われている人、守ってあげなければいけない人のためではなく、障がいを新たな価値にする「バリアバリュー」というミライロの企業理念は今、広く浸透し始めている。
一律に「かわいそう」と思われるギャップを変えたい
楽天ソシオビジネス代表取締役社長の川島薫氏。
楽天グループ全体の障がい者雇用を牽引する川島氏は、先天的に両足の股関節が脱臼して産まれ、手術をするも脚を引きずる形で障がいが残った。しかし、一般の企業で健常者と同じように働いてきた経験を持つ。「将来のことを考えたときに、障害者合同面接会で 、障がい者雇用で面接を受けてみませんかと言われたのが楽天です」と川島氏。
「しかし、自身を障がい者だとは思っていなかったので、他の障がいのある方に会うと、自分自身が、障がい者の方を下に見ていると痛感しました」(川島氏)
川島氏のように、障がいを持ちながらも公の場で講演する立場にあると、周りから障がい者という目線では見られにくい。一方で、「私たちを知らない人からは『かわいそうだな』という目線で見られます。こういうギャップを変えていきたいと願ってきました」と川島氏。最近では障がい者雇用だけでなく、女性活躍などについても講演することが増えている。
知的障がいがある人は世界に2億人以上
ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥氏。
松田氏は、4つ上の兄が自閉症で、昨年7月に双子の兄弟と一緒に福祉実験ユニット「ヘラルボニー」を立ち上げた。障がいのある人によるアートを、建設現場の仮囲いに展示したり、プロダクトに落とし込んだりして、フォーブスによる世界を変える人材「UNDER 30 JAPAN 2019」にも選ばれている。
「知的障がいがある人は世界に2億人以上いると言われていまして、日本では108万人。そのうちの一人が、私の兄です。といっても、僕にとって兄は“自閉症の人”ではなく、喜怒哀楽を共にしてきた存在です。それなのに小さい頃から、親戚に『兄貴の分まで一生懸命生きろよ』と言われることに、とても違和感を覚えていました」(松田氏)
知的障がいのある人のイメージを変容させたい。それが、松田氏の原点だ。
チャンスによって新しい個が引き出される
障がい者雇用で楽天に入ったとき、川島氏は社内の「あまり無理をしなくて良いので、みなさんと仲良くやって行きましょう」という緩やかなスタンスに疑問を持ったという。
「もっと仕事がしたいと楽天の人事の方に伝えると、『そもそも障がい者の人たちってどんな仕事ができるの?』と言われたんですね。そのとき、障がいのある方がずっとそういう目線の中で生きてきていたということを知り、障がい者雇用を変えていきたいと思ったのです」(川島氏)
川島氏のチャレンジのひとつが、障がいのある人を管理職にすること。
「最初は手探りでしたが、チャンスをもらって、皆さんいきいきとしていました。現在は管理職の約30%弱くらいが健常者の方、70%近くが障がいのある方。今、会社がどんどん成長しているので、新しい個というものが見い出せてきたのかな、と実感しています」(川島氏)
発達障がいを持ち、働き方に悩んでいた人に、まずは障がいを受け入れることだとアドバイスしたこともある。
「親御さんは子どもが障がい者として生きていくことに悩む方が多いようですが、当人にとっては、受け入れて私たちのような障がい者雇用の会社に入ることで、活躍する場が作れます。その道を選んで、『僕は本当に幸せです』と言った、彼の笑顔が忘れられません」(川島氏)
ITを活用するなど小さな工夫を積み重ねる
一方、徳川家重・家定という障がいのある将軍がいたり、障がいのある人があんまやはり灸、琵琶法師といった職業に就いていた日本は、300年前から続く障がい者雇用の先進国だと垣内氏は指摘する。
その分水嶺となったのは産業革命。均一な作業が求められる中では障がいが障壁となったが、今の時代ではパソコンのスクリーンリーダーやスマートフォンの読み上げ機能を使うなど、工夫次第で障がいがあってもいくらでも活躍できる。
「一緒に働く上では造作のないことであり、決してコストがものすごく上がるわけでもありません。そうした環境整備さえすれば、充分にそれぞれが価値を発揮することが可能です。バリアがバリューになるというのは、そうした細かい工夫の積み重ねだと思います」(垣内氏)
新しい可能性を見出すために
最後に、「当たり前のことですが、僕は『障がい者』なんて人はこの世にいないと思っています」と松田氏。
「アーティストでも、自閉症の人とか、ダウン症の人というのではなく、たとえば八重樫道代(やえがしみちよ)という素晴らしいアーティストがいるということを伝えたくて活動しています。アートというフィルターを通じて、障がいのある方と、社会との接点をもっと作っていきたいですね。そして、さまざまなフィルターを通じて『障がいっておもしろい』と感じてもらえたら幸いです」(松田氏)
まずはお互いを知り、バイアスを取り外すこと。そして、「はなから『できないでしょう』という目線ではなく、健常者に遠慮している障がいのある人に対し、『一緒にやろうよ』という心のサポーターになること。そうすれば、逆に彼らのほうが能力を持っていることもたくさんあります」と川島氏。
新しい価値や可能性が、周囲の関わり方によって生み出されるかもしれない。そんな煌めくような期待感を抱かせてくれるセッションだった。
MASHING UP vol.3
撮影/今村拓馬
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