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Conference:MASHING UP vol.3

「いてくれてよかった」。成功より、自分を受け入れてくれる人の存在が「強さ」になる

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誰しも、困難に直面することはある。けれども、失敗し、もうダメだと落ち込んだときに、そこから立ち直り、逆境を跳ね返す力(=レジリエンス力)は、実は私たちに等しく備わっていて、鍛えていくことができるという。

2019年11月開催ビジネスカンファレンスMASHING UP Vo.3では、フィナンシャル・タイムズ在日代表、コマーシャルディレクターの星野裕子氏をモデレーターに、ポーラ取締役執行役員(現・代表取締役社長)の及川美紀氏と、女装家で東京大学 東洋文化研究所 新世代アジア研究部門 教授の安冨歩氏を迎え、それぞれの逆境を例に「自分との立ち向かい方、鍛え方」と題したトークセッションを行った。

入社から間もなく「いらない」と出向が決定

ポーラの及川氏が経験した最初の挫折は、24歳で結婚したときのこと。職場結婚だったため、「夫婦を同じ職場には置けない」という今では考えられない理由で、妻である及川氏の子会社出向が決まった。

「上司に、夫になる人と比べられ、『彼のほうが必要だから』と出向させられました。そのこともショックでしたが、ある社員から『出向してまでこの会社にいるの? あなた、プライドないの?』と言われたことが何よりこたえました。でも、おかげで『あの人に負けない』という気持ちがエネルギーになりました」(及川氏)

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ポーラ取締役執行役員(現・代表取締役社長)の及川美紀氏。

その社員にとっては自分自身が何をするかよりも、どこで仕事をするかの方が重要なように見えた。それなら、自分はどんな場所でも、何をするか、何をしたいかを主題に挑戦しながら生きていこう。そう切り替えて出向先に行った及川氏。だが、そこで待っていたのは「あなたが来てくれてよかった」と言ってくれる仲間たちだった。

「『私が気にしていたことなんて、大したことないな』ということに、2か月もかからずに気づきました。私を引き上げてくれたのは、仕事の成功体験ではなく、身近な誰かに認めてもらえることだったのです」(及川氏)

数字を達成することや企画を通すといった成功よりも、仲間からの日常的な「いてくれてよかった」という言葉を積み上げて、気がついたら20年がたっていた、と振り返る。

「自分はそのままで存在する意味がある」と理解する

及川氏の話に、安冨氏は「確かに、人間にとって、いわゆる社会的地位や成功は何の意味もないですね」と賛同。

安冨氏自身は、京都大学の経済学部を卒業して住友銀行に就職。いわゆるエリートコースだが、会社では等しく「虫けらのように扱われ」、胃潰瘍を患ってしまう。

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東京大学 東洋文化研究所 新世代アジア研究部門 教授の安冨歩氏。

「同じことを2回続けてできない性格なので、銀行員には向いていませんでした。伝票も毎回違う振り方をして、毎回怒られるというのが特技で、結局辞めてしまったのが最初の挫折です」(安冨氏)

日本社会では、幼い頃から、親や学校に「頑張って、いい子にしていたら生きていてもいいよ」という生存切符を発行されて育つことで、自己否定感を抱いている人が多い、と安冨氏は指摘する。

「そういう自己否定感をベースにしている人間にとっては、幸福でいることと成功することは何の関係もないということを、自分の経験から納得しました」と安冨氏。

京都大学に合格したときも、若くして日経・経済図書文化賞を受賞したときも、得られたのは幸福感ではなく、「これで落ちたら死ぬ」という強迫観念から解放されて、ただ「ホッとする」感覚だったという。

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「そういう人は、右肩上がりに登り続けないともう凹んでしまい、そのまま精神を病んでしまうことも多いのです。その場合に、どうレジリエンスを獲得するかというと『自分に存在する意味がある、いるだけでいいんだ』ということを理解することです。これはすごく難しいですが、少なくとも自分の自己否定感には原因があり、その原因は自分ではなく、幼少期からの外部からの暴力によって思い込まされているのだという理解が、私にとっては重要な一歩でした」(安冨氏)

これからの時代に必要なのは「少数の理解者」

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自己否定感に突き動かされて成功を目指す人間は、いざというときには脆い。そのエネルギーは「とても危険だと思うし、自己破壊的でも、他者破壊的でもある」と安冨氏。

「それとは反対に、自分を自分で受け入れることや、自分を受け入れてくれる人が、何人か身近にいるというのはすごく強い。本当の意味でのレジリエンスになると思います」と言う。

特に、大きな組織がどんどん解体されて、少人数の組織の連合体が主流になっていく現代では、そうした人たちの存在が重要だ、と指摘する。

「ビジネスでも、遊び仲間でもいい。身近にいる何人かとつながって『ここで生き延びていこう』と思えるかどうかが、ものすごく大事なことなのではないかな、と思います」(安冨氏)

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フィナンシャル・タイムズ在日代表、コマーシャルディレクターの星野裕子氏。

及川氏の2度目の挫折を救ってくれたのも、そうした「自分を受け入れてくれる人」の存在だった。出向から17年後、昇格試験を受けた及川氏は、5点満点中の試験を1.5点で落ち、「リーダーになって何がしたいのかわからない」と、こっぴどい評価を受けてしまう。

ものすごく落ち込んで、自己否定の嵐です。それで私、『上司が指導してくれない、自分を引き上げてくれる人がいない』と、わかりやすくグレた、態度の悪い社員になりました」(及川氏)

そんなとき、「あなた、どこまで落ちていくの? これ以上、がっかりさせないで」と声をかけてくれたのが、ビジネスパートナーのビューティーディレクター(ポーラの化粧品を販売する女性)だった。それを聞いて、「この人は私に期待して、見ていてくれていた」と理解した及川氏は、これまでの考えを改め、仕事をする目的が変わった。

それまで『自分の努力を見てほしい』とアピールしていたのが、『どうしたら仲間が仕事をしやすく、より良い環境になるか』と、組織の志や未来の可能性を語るようになったのです。その結果、2年目の昇格試験では4.5点で合格しました」(及川氏)

人を認める力が、認めてもらえる力になる

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それから十数年経つが、「下手したら未だにグレたままで、手に負えないお局になっていたかもしれないと思うと、見ていてくれている人がいるというのは、すごくありがたいなと思います」と及川氏。

そして、力を与えてくれる理解者は、自分を開かないと作れない。「自分が何をしたくてそのためにあなたのこの力を借りたいと素直に言うことです。人を認めない限りは、自分を認めてもらうこともできません」(及川氏)

「自己開示が苦手だが、どうしたらいいか」という参加者からの質問には、「自己開示を訓練する必要はないでしょう。『この人にわかってもらいたい』という人を、少なくてもいいので、一人から作り、自分から歩み寄って、相手をまず理解しようとすることから始めるといいんじゃないかなと思います」とアドバイスをした及川氏。

安冨氏は、「私は50歳まで、自分が女性だと思っていることに気づかなくて、ずっと普通の男性のフリをしていました。でも、そのくらい大きなことが誰にでも隠れていると私は思うのです」と言及。「自分でも『これは受け入れられない』と思うようなことまでオープンにしているほうが、地に足がついて、自分の人生が歩けます」と、力強く語ってくれた。

レジリエンスは自己の中にあるものだが、身近な他者に救いを求めることも重要であり、それによって力をつけることができる。多くの参加者が勇気づけられたセッションだった。

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MASHING UP vol.3

「いてくれてよかった」。成功より、自分を受け入れてくれる人の存在が「強さ」になる

撮影/TAWARA(magNese)

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中島理恵
ライター・エディター。埼玉県出身、広島県在住。編集プロダクション、出版社勤務を経てフリーランスへ。旅、食、建築、インテリア、ビジネス、育児、動物など多岐にわたる記事の執筆・編集、翻訳などを手がける。3児の母。

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