MASHING UPに新しい視座と的確なアドバイスを与えてくれるコミッティメンバー。そんなコミッティメンバーにフォーカスし、その仕事人生をシリーズでお伝えする。
Logitech米国本社に籍を置き、同社のコーポレート/ブランドサイトをグローバルで束ねている秋吉梨枝さん。アメリカでの挫折を経て自分らしさを取り戻し、日本企業で再度グローバルへ向かって活躍していく姿は、痛快そのもの。
自ら動き、たくさんの仕事をこなし、「いろいろなチームメンバーの気持ちがわかる」ことが強みだという。これまでのキャリアの軌跡と、仕事に対する姿勢を聞いた。
高校時代から独学でコーディングを学び、大学卒業後に入社したインターネット関係の企業でEC事業に従事。Webサイトのディレクションの他、商品・プロモーション企画や情報管理など幅広い業務に携わる。その後、渡米し、ベンチャー企業でBtoBマーケティングを担当する。帰国後Logitech Inc(株式会社ロジクール)に入社し、コーポレートサイトの日本エリアを統括。さらにアジアパシフィック、全世界へと管轄する範囲を広げ、現在は46の国・地域に向け情報を発信する、コーポレート/ブランドサイトのグローバル責任者を務める。
EC事業で活躍後アメリカへ。新天地での気づき
勤務するロジクールの会議室から、Zoom取材に応じる秋吉梨枝さん。
経歴を一言でいうと、インターネットのデジタルマーケティングの分野で、ずっとブランドサイドのディレクションをしています。
キャリアのスタートはソニー系列のSo-netで、EC事業のプロデューサーでした。入社の翌週には「予算のPL(損益計算書)を立ててこい」と言われるようなスピード感。それまでマーケティングに関して無知だった私は、毎晩勉強をしながらなんとか食らいついていました。
扱う商材はファッションや演劇、プロサッカーチームの物販などさまざま。入社まもない時期に、大きな予算のプロジェクトを一任されて不安になり、上司に相談したことも。すると、「俺が何のためにここにいると思っているんだ?お前の失敗くらい引き受けるから思い切りやってこい」と、勇気づけられたことをよく覚えています。
ところが体を壊して退職することに。休もうと思ったものの、知人からアメリカのスタートアップを紹介されて興味が湧き、退職した半年後には渡米していました。
「自分はある程度は仕事ができる」と高をくくっていたものの、渡米直後にその鼻をへし折られ、思うように仕事の進まない苦しい時期が続きます。
サンフランシスコの自宅からオフィスまでの通勤時に毎日通っていた道です。 挫けそうな時、この天気に助けられました(秋吉さん)
多民族国家のアメリカでは、「ブルー」と言っても同じブルーを指し示さないように、伝えたい内容が相手に伝わらない。思い描くビジョンも届かず一時は失語症になりかけたことも。
苦しさから抜けたのは、1年後。特にきっかけがあったわけではないけれど、「こうでありたい」ということに執着しなくなったのが理由。
「私は私」と考え、人目を気にせず自分自身でいられることがむしろ楽。そう感じられるようになったんです。
ロジクールでグローバルのWebサイト責任者へ
その後、帰国してロジクールに入社 。コーポレートサイト改修に携わった際、自ら調査や勉強をしながらすすんで仕事に取り組む姿勢が評価に繋がり、 米国本社のヘッドクオータとしてグローバルマーケティングセクションに籍を置くことになりました。
そのような動きができたのは、もともとSo-netで「出る杭は出させる」といった文化にいたからかもしれません。手を上げれば任せてくれ、失敗を成功へと導いてくれるようなチームの中で鍛えてもらいました。
さらに、いろいろな仕事に手を出すことで学びのチャンスが増え、人と仲良くなる機会も増える。メリットがあると体感的に知っていたから、積極的に取り組めたんだと思います。
グローバルセクションに籍を置き、アジアパシフィック全体を見るようになりました。仕事に対する意識はさほど変わりませんが、組織体系が大きく変わった。
そして、入社5年目くらいに組織改革があり、全世界のWebサイトのマネジメントのトップに昇進したんです。それも産休中の話だったので、とても驚きましたね。
つい仕事を抱え込んでしまう自分から脱却
Webサイト全体に関わるようになって苦労したのは、権限移譲の部分です。社歴も長いし、システムや製品、各国の知識が積みあがっていくので、チームのメンバーに任せるよりも「自分でやる方が早い」と思うこともよくありました。権限を渡すようにと頭の中では意識していたのですが、どうしても抱え込みたくなることがしばしば。
Logitech米国本社滞在時の通勤ルート上で毎朝必ず見る空です。朝、近くのホテルから歩いて向かうのですが、これが気持ちのリセットになり、 日本にいるときにもリセットが必要なときにはこの写真を眺めています(秋吉さん)
それに気づいたのは、娘の熱が出て仕事との板挟みで大変だったとき。アメリカの上司から電話がかかってきて、「つらい時には『つらい』と言ってくれないとわからない。言ってくれれば助けるから」と言われたんです。
隠しているつもりはなかったのですが、プロとして見せない方がいい、という思いがあったのかもしれません。それからは、家族の状況などもオープンにするようになり、もっとチームに頼れるようになりました。
今はまったく抱えていなくて、チームメンバーからは「最大限の責任をくれてありがとう」と言われます。彼らが、日々どのように時間を管理し、いつ休んでいるかなど、細かな部分は気にしていません。
ただ、大事なところは押さえておく必要があります。何かあったときに解決するのは私なので、些細な部分も把握しておかなくてはならない。
例えば、製品ページやプレスリリースを出す前日になって、「今のままではできない」とメンバーから泣きつかれれることも。その時は、抱えている問題に優先順をつけて、やるべきことを判断する。5時間かかる作業であれば、2時間に短縮するために各所からリソースを借りてくる。そういった交通整理をするのも私の役目ですね。
そのために、普段からシステムや製品、使えるリソースを把握しておくことが、大事なことだと思っています。
それぞれが「主体的に動く」ことがチームの活性につながる
Logitech米国本社にはアイディアボードというか、誰でも落書きできる黒板が 壁全体を覆っているフロアがあります。出張時には娘も一緒なので、 行くたびに彼女の落書きがその黒板に追加されています。これは一番最初に書いたもの。 今でもこの落書きを見ると「抱え込まなくていい」という当時の上司の声が蘇ります(秋吉さん)
私が大事にしているのは、チームに気持ちよく仕事をしてもらうこと。「やらされている」と思うのではなく、主体的に動いてもらうこと。
私がこれまでいろいろな経験をしてきたからこそ、彼らの気持ちがよくわかります。彼らのパッションと事業をいかに結びつけるかを普段から考えていますね。
デジタルマーケティングの領域はどんどん幅広くなっていて、総括的な知識を得ることが難しくなっている。
でも、だからこそ、全体を通した知識はとても貴重。私たちのチームではそういうスキルを持ってもらいたいから、現在は社内アカデミーを計画中です。
全体の工程や関わる組織を把握していて、かつそれぞれの専門分野を深堀りできる人材を増やしていきたいと思っています。

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