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- 今こそジェンダー視点の主流化を。「誰一人、取り残さない」社会へ向けて動こう
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新型コロナウイルスの流行により、社会全体が大きな変革を強いられた。テレワークでも仕事ができることや、オンラインでの交流がメインになることで、地方や海外の人ともつながりやすくなったことなど、社会にとって新たな発見もあった。 しかし一方で、コロナは社会的に脆弱な立場にある人々の生活を容赦無く脅かした。
影響が最も大きかった飲食や販売などのサービス業を支えているのは、主に女性たちだ。中でも、最も深刻な打撃を受けたのが、シングルマザーである。 そこで、コロナという未曽有の事態が浮き彫りにしたシングルマザーの現状を明らかにし、国や自治体への政策提言につなげるため、認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむと研究者らがシングルマザー調査プロジェクトチームを発足。特定非営利活動法人Gender Action Platform理事、関⻄学院大学客員教授を務め、MASHING UPのアドバイザリーボードメンバーでもあるジェンダー専門家、大崎麻子氏もチームに加わり、全国1,800人のシングルマザーへのウェブアンケートを行った。
コロナの影響でシングルマザー世帯の7割が減収
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まず調査から明らかになったのは、シングルマザーの多くが収入減を強いられたこと。雇用・収入への影響に対する質問では、「大いに影響があった」38.5%、「ある程度影響があった」が32.3%と、7割を超えるシングルマザーたちが影響を実感。特に、非正規や自営で働くシングルマザーたちは、就労自体ができなくなったことで手痛い打撃を受けた。5月時点で就労収入がゼロになったシングルマザー世帯は、非正規雇用者で16.1%にも及んでいる。
またコロナ禍では、したくても仕事がないという状況に加え、子どもたちの臨時休校や登園自粛への対応というケアの問題が重なった。シングルマザーたちは家庭において主たる生計維持者であると同時に、子ども達を育てる役割も担っている。自分が感染してしまった場合子どもたちのケアができなくなる懸念から、やむなく「自発的に仕事を休んだ」人が28.0%、「自発的に仕事をやめた」人が4.1%と、合計32.1%もの人があえて休職・退職を選んでいるのは驚きだ。とくに、不特定多数の人と接するサービス業をはじめ、医療関係者、家族に難病を抱えた子どもや高齢者がいるなど、仕事とケアワークとの両立が不可能となるケースが目立った。
もう一つ課題となったのが、母親の心的ストレスだ。同調査が厚生労働省「国民生活基礎調査」などで用いられるK6尺度(※)で心理的ストレスを測定したところ、気分障害・不安障害に相当する心理的苦痛を感じているとされる「10点以上」が61.5%に上り、2019年度の全国調査の10.3%をはるかに上回る結果となった。また調査結果では心と身体を壊し、精神科で「コロナ鬱」と診断された回答者の悲痛な声なども寄せられている。
※K6尺度とは、米国でうつ病・不安障害などの精神疾患をスクリーニングすることを目的として開発された指標で、心理的ストレスを含む何らかの精神的な問題の程度を表す際に利用されている。(厚生労働省ホームページより)
学習環境の格差に食生活への影響も……深刻な子どもへのしわ寄せ
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また、学校でオンライン授業が進む中で、子どもたちの学ぶ環境も課題となった。中学生以上の子どもがいる世帯のパソコンとタブレットの普及率を調査したところ、36.8%が「パソコンやタブレットはない」と回答。 また、パソコンがあっても自宅でインターネットに接続できない世帯は5.7%、通信量を制限しなければならない世帯は24.6%と、シングルマザー家庭においては、子どもたちのオンライン学習に関する環境が不十分であるケースが多いということも明らかになった。さらに、問題は学習スペースの有無にも及ぶ。狭い住居に住んでいる場合、子どもの自室が確保できない場合が多く、学習に集中できる場所がないという声も聞かれるなど、これまで存在していた教育格差がより広がる結果となった。
コロナが子ども達へ及ぼす影響は、食生活にも。臨時一斉休校や登園自粛によって学校給食がなくなったことにより、ほとんどの世帯で食費が増加するなど、食生活における問題も浮き彫りになった。日々の食費に困り、1日の食事回数を減らした世帯は18.2% 、また給食がなくなることで55.3%が野菜を食べる量が減ったと回答するなど、栄養面の影響も深刻だ。そこで、しんぐるまざあず・ふぉーらむでは、3月から現在まで「だいじょうぶだよプロジェクト」と銘打った食品支援を通して、のべ8,000世帯に米などの食品を送る対策を行った。
今、「誰一人、取り残さない」社会へ
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今回の調査は、シングルマザーがコロナ禍で置かれている悲痛な現状を可視化させた。そこでプロジェクトチームは、今回の調査結果をシングルマザーを取り巻く環境改善につなげるべく、国と自治体に対して次のような提言を行っている。
- ひとり親世帯臨時特別給付金(基本給付と追加給付、8月から給付開始)を令和2年度内に再度給付すること
- 児童扶養手当の恒常的な拡充を行うとともに制度から漏れるひとり親がないようにすること
- 緊急の手当付の就労支援策を講じること
- 子どもの学びのための環境整備(パソコン、インターネット接続環境など)を行うこと
- 生活保護制度の自動車保有の制限などをなくし活用しやすい制度とすること
- そのほか必要な措置
調査では、そもそも支援制度があっても認知されていない、あるいは、時間がとれず手続きができないといった世帯も多いことが見えてきている。支援を広く届けるためには、制度の配備ももちろんなのだが、そこから漏れるひとり親がないように配慮するのも大切なこと。
日本のシングルマザー世帯の貧困率は、OECD先進諸国の中でもとりわけ高く、ひとり親の貧困率は 48.2%(出典:厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査」)にものぼる。経済状況が厳しいひとり親世帯への支援は、今後もさらに強化する必要があるだろう。就労や家庭環境により女性の能力が十分に発揮されないことや、子どもの教育に影響を及ぼす貧困問題は、社会にとって大きな損失であることは間違いない。 Gender Action Platform理事の大崎麻子氏は、国連が中⻑期的な経済政策や保健政策などにジェンダー視点を主流化し、男女への異なる影響を反映させる必要性を各国に提言している点に触れつつ、「本調査は、普段から脆弱な状況にあり、孤立しがちな母子世帯に負の影響が集中する構図を可視化しました。この調査を活用し、『誰一人、取り残さない』政策策定が行われることを求めます」とコメントした。
このような時こそ、社会がセーフティーネットとして機能しなくてはならない。格差を拡大・固定化させないため、また社会の網目からこぼれ落ちてしまう人を出さないためには、今回の調査結果を具体的なアクションにつなげる必要があるだろう。
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