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日本の難民のイメージを変えたい。「エシカルPC」で環境問題に挑む/ピープルポート代表・青山明弘さん

青山プロフィール2のコピー

青山明弘さん
大学在学中に、国際協力の現場を見て回った経験から、社会問題を解決しつつ継続的な活動ができるソーシャルビジネスに興味を持つ。2013年ボーダレス・ジャパンに新卒入社し、「出身や国籍による差別偏見をなくす」ことを目指すボーダレスハウス事業部へ配属。2014年より同事業部台湾支店立ち上げのため渡台し、2年で黒字化させ2016年に帰国。2017年12月「日本での難民雇用創出」を目指すピープルポート(株)を創立、電子機器の再生を通じて難民の雇用、 そして日本社会でも課題となる環境保護に取り組む。プライベートでは高校野球が大好き、神奈川県出身の二児のパパ。

日本は世界でも類を見ないほど、難民の受け入れに厳しい国である。2019年、日本での難民申請者は10,375人だったのに対して、認定者は44人。難民認定率0.4%という現実の中、パソコンのリユース・リサイクル事業を通じて、日本の難民に雇用をつくることを目指しているのがピープルポート株式会社(以下、ピープルポート)」代表の青山明弘さんだ。

ピープルポートが手がけるのは、環境に負荷をかけないエシカルパソコン「ZERO PC。エシカルと難民問題を結びつけ、日本の環境問題に貢献することで難民支援に賛同する人を増やしていくという、ピープルポートの取り組みについて話を聞いた。

貧困と理解の欠如が戦争を招く

大学時代、カンボジアの内戦があった地域を訪れて、ドキュメンタリー映画を撮影していたという青山さん。地雷原で暮らす人や、元従軍兵士と語り合う中で、戦争被害者である難民のサポートに人生をかけたいと思うようになったと語る。

青山さん2

ピープルポート株式会社代表の青山明弘さん

「戦争経験者の祖父母からよく話を聞いていたこともあって、幼いころから戦争を身近に感じていました。どうすれば戦争がなくなるのかを自分なりに考えていた時に、カンボジアの元兵士にインタビューをする機会を得たのですが、なぜ銃を撃てたのか、なぜ人を殺せたのかという問いに対して、彼は2つの理由を挙げました。

ひとつは、自分たちの生活のために相手を倒さなければいけなかったこと。もうひとつは、彼がボスから聞かされ続けていた『相手は悪魔だ』という言葉に洗脳されていたことだといいます。また『同じカンボジア人なのに、そのときは同じ人間だと思えなかった。でも相手も自分と同じように、子どもを持つ父親だったかもしれないと、今になって考える』と話したのが、とても印象的だったんです」(青山)

戦争の背後には、貧しさと相互理解の欠如がある。そう痛感した青山さんは、2013年、ソーシャルビジネスを通じて社会問題の解決に取り組む社会起業家集団「株式会社ボーダレス・ジャパン(以下、ボーダレス・ジャパン)」に新卒で入社。台湾支店の設立に2年間携わったあと、2017年12月にボーダレス・ジャパン傘下でピープルポートを立ち上げた。

難民認定率は0.4%。ひたすら待ち続ける6年間

PR用写真のコピー2

オフィスでスタッフと会話する青山さん

ボーダレス・ジャパンでは、ビジネスのスキームとは関係なく「誰のどんな状況を具体的に変えたいのか」という課題を抽出するところから事業をスタートさせるという。

青山さんが考える日本の難民の問題は、大きく2つある。経済的貧困社会的孤立だ。

「日本に来る難民は中東・アフリカ出身の方が多いのですが、基本的には数週間の短期滞在ビザで入国してくるケースが多いです。 ビザの有効期限内に難民申請を行うと、申請中ということで日本の在留許可がもらえます。しかし、ここ数年の難民認定率は0.2~0.4%。認定が出るまでは定期的なビザの更新が必要で、平均で4年~6年ほど審査に時間がかかっています」(青山)

安全確保のために難民の個人情報を出せないという事情はあるものの、審査の判断基準は外からは非常に見えづらく、進捗状況も確認できないことも難民生活に立ちはだかる大きな不安の一つだという。

就労許可は難民申請をしてから9か月後前後に出ることが多く、それまでは支援に頼るほかありません。就労許可が下りた後も、留学生とは異なり日本語が話せないので、なかなか仕事が見つからない。運よく肉体労働系の仕事につけても立場が弱いため労働条件が悪かったり、いじめの対象になったりして、継続的・安定的に働くことが難しい状況です。

しかし彼らには、そういったことを相談できる場が少なく、社会的に孤立しています。この2つの問題をどうにか解消できないかと思ったときにたどりついたのが、パソコンのリユース・リサイクル事業でした」(青山)

「ありがとう」の気持ちで社会を変えたい

「ありがとう」の気持ちで社会を変えたい

パソコンの修理をおこなうスタッフ。

パソコンに関わる仕事なら、日本語が話せなくても英語さえ理解できれば、世界共通の技術を身につけることができる。しかも、パソコンの中古マーケットは世界中にある。一度身に付けた技術力は、この先他国に移った時や母国に戻れた時にもきっと彼/彼女らの助けになるだろうと見据え、パソコンを扱うビジネスを選んだという。

「そしてもうひとつ、環境問題を通して日本社会に貢献できるということも、この事業にこだわる理由です」と青山さん。2019年に廃棄されたパソコンは約300万台。それらの多くは全て埋め立て処分や熱処理によるリサイクルがなされているといい、今後いかに廃棄の量を減らし、よりよい処理方法を見つけていくかが課題となっている。ピープルポートでは、難民が事業を通してこの問題解決に挑む。

また、こう続ける。「日本における難民支援に対して『なぜ税金で……』といったネガティブな声もあります。それはひとつの意見として受け止めつつも、日本の民意として難民支援活動を広げていくためには、日本の人たちからの『ありがとう』という気持ちを集めることが必要だと思うんです。

感謝を抱いた相手には報いようという気持ちになることは多いですよね。『ありがとう』の気持ちを通じて、 難民という立場にいる人たちをポジティブにとらえる人を増やしていけたらと考えています」(青山)

メンバーの帰国がターニングポイントに

メンバーの帰国がターニングポイントに

チームメンバーと。(※プライバシー保護のため、一部メンバーの顔は伏せています。)

これまで4人の難民を雇用してきたというピープルポート。 現在は難民申請中のメンバー2名、難民申請中ではないシリア出身/中国籍のメンバーそれぞれ1名、そして日本籍のメンバー6名による多国籍なチームで菊名にオフィスを構え、オンライン販売とショッピングモールでの催事を軸に事業を展開している。難民申請中のメンバーも日本籍のメンバーも、雇用条件や社会保障の内容はまったく同じだ

採用はパートナーシップを結んでいる難民支援団体を通して行っているが、採用枠に対して5倍ほどの応募者があり、全員を雇用できないのがつらいと青山さん。今年に入り、収益性とソーシャル性のバランスをとることの難しさも強く感じているという。

「ZERO PCでは新品と変わらない使い心地のリユースパソコンを、スペックに応じて29,800~59,800円という低価格でご提供していることもあり、ショッピングモールなどでの催事の売り上げは好調なのですが、今後はオンライン販売に軸足を置く計画を立てています。

というのも昨年、難民申請の結果がいつ出るかわからないストレスや、母国に残してきた家族のことで思い詰めていたメンバーの一人が帰国する出来事があったのですが、催事のタイミングと重なり、そのスタッフの悩みに正面から向き合うことができなかったんです。

今の業態のままだとスタッフのケアが行き届かないかもしれないと考え、できるだけ多くのメンバーがオフィスでコミュニケーションを取りながら売上を上げる方法はないかと考えました。 単に売り上げが上がるだけでは、この事業の存在意義はないと思っていますので、結果、催事よりもオンラインでの販売に注力すべきだという判断に行き着きました」(青山)

難民を生む環境変動へのアクションを

難民を生む環境変動へのアクションを

ZERO PC

いま日本で、ピープルポートのように難民に特化して採用を行い、事業を広げていこうというビジョンを掲げる企業はほとんどない。ビジネスとしての難しさはあれど、今後もZERO PCを進化させ、難民支援、そして環境問題にアプローチしていきたいと青山さんは話す。

「いまや全人類に共通して、環境問題は無視できない課題です。難民という立場にいるメンバーと仕事をしていると、将来、難民を生む可能性がある環境変動に対しても、アクションをとらなければいけないと強く感じます

またパソコンやスマホに使われるレアメタルは、コンゴなど産出国の武装勢力の資金源になっているため、海外ではFairphone(フェアフォン)のように紛争鉱物をできるだけ使わないスマホも出てきています。今後は、より部品にもトレーサビリティが求められる時代になると思います。 リユースによる二酸化炭素の削減やプラスチックなど環境に負荷をかけやすい資源を再利用することはもちろん、 児童労働など労働力の搾取にも大きく関係するレアメタルを使わないことで、 環境も人も犠牲にしない社会を作れるはずです」(青山)

さらに「難民支援に関わっていると、ときどき、何もできていないんじゃないかと思うことがあります。でも、『雨垂れ石を穿つ』という言葉の通り、ひとつひとつをないがしろにせずに、彼らの生活が少しでも変わることを信じて行動していきたいです」と語る青山さんは、将来のビジョンについてこう話す。

将来は海外に拠点を持って、彼らが難民ではなく、ビジネスパーソンとして世界中を飛び回れるようにしていきたい。それに、通訳スキルやファッション分野の才能を持っている人なども在籍しているので、ピープルポートでもパソコン以外の業態を作り、みんなの能力を生かせる事業ができたら……そんなことも妄想しています」(青山)

服や小物など、私たちの日常に少しずつ増えてきている“エシカルなもの”。これまでエシカルという概念がほぼなかった日本のパソコンや電子機器の分野に、ZERO PCが投げかける波紋は着実に大きくなっていくだろう。

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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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