美容サプリメントを手掛けるブランド、ザ・ニュウコー(The Nue Co.)創始者でCEOのジュールズ・ミラー(Jules Miller)氏は、2019年6月に行った資金調達の投資ラウンドシリーズAにおける投資家とのミーティングの際、視野を広げ美容業界以外が専門の投資家にも目を向けた。
その結果、ウォルデンキャスト(Waldencast)、ユニリーバ・ベンチャーズ(Unilever Ventures)やロクシタン(L’Occitane)のファミリーオフィスといった美容業界におけるパワープレイヤーはもちろんのこと、ベンチャーキャピタルのAFベンチャーズ(AF Ventures)も出資者に名を連ねることとなった。
以前はアクセルフーズ(Accel Foods)として知られていたAFベンチャーズは、近年ではザ・ニュウコーの他に、小児アレルギーの予防食で知られるレディ・セット・フード!(Ready, Set, Food!)や、薄いチョコレートでコーティングされたアーモンド菓子が人気のスキニー・ディップド・アーモンズ(Skinny Dipped Almonds)を販売するワイルド・シングス・スナックス(Wild Things Snacks)にも投資を行っている。
「ザ・ニュウコーの基本理念にあるのは、私たちが手がける商品は、体の内外に作用し、健康と美容をつなぐというような『美容の未来』であるということです。私たちが行っている『成分について顧客に説明する』という行為は、実際には美容業界よりも食品業界がこれまで行ってきたことに近いですね」とミラー氏は、AFベンチャーとのパートナーシップについて語る。
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クリーンビューティとウェルネスブランドの秘める可能性
新型コロナウイルスが蔓延した世界では、美容関連の投資案件を求めて市場が活発になっており、その波が予想外の投資家グループ──これまでは食品・飲料関連を中心に投資していて、美容に特化した業界への投資経験がほとんどないグループ──にも広がっている。
「我々は2014年の時点で、体によい食品や飲料の分野を新興セクターとして認識していましたが、現在ではクリーンビューティとウェルネスブランドに大きな可能性があると考えています」と話すのはAFベンチャーズのマネージング・パートナー兼社長であるジョーダン・ギャスパー(Jordan Gaspar)氏だ。
「我々が美容に特化したバーティカル市場(一定の業種に特化した市場)に参入するにあたり、ザ・ニュウコーには魅力的なリーダーシップがあるチームとハイクオリティの商品があり、幅広くアピールできる安定したブランドという性質を兼ね備えている点で正しい選択肢だったのです。そうした判断を下すのに、クリーンな成分表も役に立ちました。(摂取型の美容と外用による美容を)健康としてとらえるという、基本的な方針を我々も理解していますからね」(ギャスパー氏)
リブランディングしてBFGとなったベンチャーキャピタル、ボールダー・フード・グループ(Boulder Food Group)ももともとは食品・飲料業界専門の投資グループだが、昨年10月に話題のニキビパッチブランド「ジットスティッカ(Zitsticka)」に投資している。当時、ジットスティッカはユニリーバ・ベンチャーズからも出資を受けていたが、BFGからは500万ドル(約5億3000万円)の資金を調達した。
ビューティとウェルネスの分野に進出した別の食品・飲料系投資企業としてはハービンジャー・ベンチャーズ(Harbinger Ventures)がある。同社は、ミス・ジョーンズ・ベーキング・カンパニー(Miss Jones Baking Co)や、小児向け食品栄養ブランドのワンス・アポン・ア・ファーム(Once Upon a Farm)へのディールに続き、2020年2月にはエッセンシャルオイル会社ヴィトゥルヴィ(Vitruvi)に投資している。業界関係者によると、食品テクノロジー企業ビヨンド・ミート(Beyond Meat)や飲料ブランドのバイ(Bai)への投資で知られるベンチャーファンド、ケイヴ(Cavu)も美容業界の案件を探しているとのこと。ただし我々からの質問に同社からの回答は得られなかった。
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新型コロナを境により注目されるビューティ分野
セフォラ(Sephora)、サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)、ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)といった大手小売企業では、摂取型の美容関連商品が。ディスカウント小売チェーンのターゲット(Target)ではクリーンビューティ製品が広く販売されるなど、パンデミックが起こる前はビューティとウェルネスの分野と食品・飲料の分野の境界は曖昧だった。
このことが、従来とは違う新たな投資家たちが美容ブランドに関心を抱くきっかけとなったとも考えられるが、食品関連の非主流派の戦略的投資が破綻しているのも、投資家たちが美容業界に目を向ける理由になっている。たとえば、ソノマ・ブランズ(Sonoma Brands)は、5月にチョコレート大手のハーシー(Hershey)からビーフジャーキーブランドのクレイブ(Krave)を買収しているが、クレイブはもともと2015年にハーシーが2億1900万USドル(約230億円)近くで買収したブランドだった。このときハーシーのCEOミシェル・バック(Michele Buck)氏は経営資源とコアビジネスモデルを優先させるために、クレイブのほかに「シャッフェンベルガー(Scharffen Berger)」と「ダゴバ(Dagoba)」という2つのアルチザンチョコレートのブランドも売却すると発表した。
ステージワンファイナンシャル(Stage 1 Financial)の共同創始者兼CFO、ジェレミー・トリーフェンバック(Jeremy Triefenbach)氏は「食品・飲料系投資ファンドは市場で展開する多額の資金を持っているが、これまで大きな賭けに出たもののそこから十分な利益を引き出せなかったために、方向性を見失っている」と述べた。ステージワンのプライベート・エクイティ部門は、ハービヴォア(Herbivore)、エリスブルックリン(Ellis Brooklyn)、サイエ(Saie)といったビューティブランドにすでに投資を行っている。トリーフェンバック氏いわく、同社には次の目玉は何か、どの企業と一緒に組めばよいのかといった食品・飲料系投資ファンドからの問い合わせが2020年には「殺到している」とのこと。
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ビューティブランドが食品系投資企業に求めるのは「新たな視点」
ジットスティッカの共同創始者ロビー・ミラー(Robbie Miller)氏がBFGと組んだのは、多角的な視点を持ちたいという狙いもあった。「BFGにはビジネスを拡大する確かな実績があったし、売上原価やパッケージング、フルフィルメント(商品の受注から入金管理までの一連の作業)、財務といった運営に関する専門知識もありました」とミラー氏は言う。「私たちはユニリーバ・ベンチャーズからビューティやパーソナルケアに関するスキルを得ていますが、BFGは今後適切な事業開発に慎重に資金を投入するための相談役となっています」(ミラー氏)
ザ・ニュウコーのジュールズ・ミラー氏もまた、ウォルデンキャスト、ユニリーバ・ベンチャーズ、ロクシタンとのパートナーシップを介して、美容に関しては完璧なバックアップがあると感じている。いっぽうでAFベンチャーズからは、特にパンデミックの最中に役に立つ幅広い専門知識を得ることができたのだという。新型コロナウイルスの感染拡大により健康を脅かす事態が発生してからというもの、AFベンチャーズは各ブランドとのミーティングを毎週開催しており、リスク評価と戦略について話し合っているのだ。
「新型コロナウイルスの流行が始まった時の最大の脅威のひとつが、ニュージャージー州にある私たちのフルフィルメントセンターが閉鎖されることでした。別のポートフォリオ・ブランドから、ニューヨークの配送が中断されないようにポストメイツ(Postmates)を利用したらどうかと提案されました。幸い、我々の顧客の大部分がニューヨークにいたのでそのアイデアには救われました」とジュールズ・ミラー氏。
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DTCブランドの戦略的な小売企業への出店
これまではビューティ関連企業が他の投資家よりも優位に立っていた。セフォラやアルタ(Ulta)といった化粧品専門小売店とのコネクションを理由に、製品を大々的に店頭で展開するという確約ができたからだ。しかし新型コロナウイルスの流行後は各ブランドのECサイトの売り上げが大部分を占めるようになったこともあり、状況は変わりつつある。
ジットスティッカは、食料雑貨小売店やドラッグストアに参入する予定はないが、3月にアルタにて販売を開始した。「アルタとともに取り組むことはたくさんあります。BFGとはパッケージのことやフルフィルメントについても相談できて助かりました。一方で、販売戦略には口を出しませんでした」(ロビー・ミラー氏)
ジュールズ・ミラー氏も同様の意見だ。ザ・ニュウコーの製品は、オンラインショッピングサイトのネッタポルテ(Net-a-porter)や百貨店のノードストローム(Nordstrom)で販売しており、閉店前のバーニーズ・ニューヨーク(Barneys New York)にも卸していた。しかし、現在同社ではリピート購入率が急成長しており、ミラー氏いわく、意外なことに同ブランドのDTCビジネスの75%をサブスクリプションサービスが占めるという。
「小売店に参入する立場をとっていますが、必ずしも大量に販売するためではなくて、ブランドの地位を確立するためなんです。バーニーズやノードストロームには、腸や睡眠が美の要であり、美とはアイシャドウのパレットや口紅以上のものという考えが存在しますから」とミラー氏は言う。一方で、「私たちのような新興ブランドの商品を棚に並べるのは簡単ですが、本当に売るためには小売店側も商品について学び実際に試すなどして、その背後にあるストーリーや理念を理解する必要がある。ターゲットやセフォラ、アルタが本当にそうしたことが提供できるようになるまで、私たちはDTCメインのままでいるでしょう」とも。
このように消費者に直接販売するDTC中心のビジネスモデルを推進することは、セフォラやアルタと長年にわたる関係性があるかどうかに関わらず、AFベンチャーズ、BFG、ハービンジャー・ベンチャーズのような企業、そしてそれに続く美容投資家たちに利益をもたらす可能性が高い。
ギャスパー氏は次のように説明する。「ベンチャー投資には決められたルールはありません。市場での我々の活動は、先見の明ある人たちをバックアップし、彼らの目標達成のためにできる限り多くのリソースを提供することです。
複数のバーティカル市場を横断するイノベーション・パイプライン(新しいアイデアを製品化して市場に出し、価値を生み出す一連の活動)と、真のオムニチャネルブランドとなるための戦略を持って、力のある投資企業は自分たちが支援できる優れたブランドに対し、誠意を持って投資するようになるでしょう」(ギャスパー氏)
原文[Why food and beverage investors are betting on beauty brands]
PRIYA RAO(翻訳:Maya Kishida)
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