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農園と共に切り開くスペシャルティ・カカオの未来/フーズカカオ代表・福村瑛さん

2000年代の後半から、アメリカでクラフトチョコレートのムーブメントとして興った「Bean to Bar(ビーントゥバー)」は、カカオ豆から板チョコレートができるまでの全工程を、 自社工房で一貫管理して製造する新たなチョコレートの製造スタイルを指す。

スイーツ好きにとって、世界中から厳選されたカカオ豆の風味を楽しめるビーントゥバーのチョコレートは魅惑的な存在だ。また高級チョコレートの原料として適切な価格でカカオ豆が取引されれば、多くが貧困に苦しんでいるとされるカカオ農家の生活水準向上にもつながるように思える。

しかし、インドネシアのエンレカン県でカカオの生産・醸造に携わる「Whosecacao(フーズカカオ)」代表の福村瑛さんによると、「今のビーントゥバーの形は、じつはそれほど農家によい影響を与えていない」のだという。農園側を巻き込み「カカオ開発ベンチャー」として新たなスタイルの卸売り事業に取り組む福村さんに、現地のカカオ農家が抱える課題や、福村さんが感じるビーントゥバーの“限界”、さらに同社が目指す未来について話を聞いた。

福村氏

福村瑛さん
1991年生まれ、石川県出身。
1991年生まれ石川県出身。大学時代に中南米縦断、VCでのインターンなどを経て、バイリンガルコミュニティサービスConyacを運営する株式会社エニドアにてビジネスサイド全般を経験。ダンデライオンチョコレートジャパンでチョコレート製造の修行後、カカオ開発会社フーズカカオ株式会社を設立。カカオ豆からカカオバターまでカカオ原料を提供しつつ自社カカオ菓子ブランドCROKKAも運営している。

画像提供:フーズカカオ

パッケージの裏から感じた「気持ち悪さ」

チョコレート愛好家のひとりである福村さんが、現ビジネスに巡り合うまでのストーリーが印象的だ。

「もともと大のチョコレート好きで、前職であるIT企業に勤めていた時もチョコレートは息抜きのための必需品でした。当時カカオは健康によいと聞いたので、できればカカオがたくさん入っているものを食べたいと思い、パッケージの原材料欄に注目するようになったのですが、カカオが豊富なチョコレートがあまりないことに気付いたのです

たいていは砂糖が原材料名の最初に記載され、植物油脂やミルクが続く。カカオが高価だからかと思いましたが、報道ではカカオ農家の貧困の問題を耳にする。そのギャップに、すごく気持ち悪さを感じました」(福村)

画像提供:フーズカカオ

土ぼこりのなかに置かれていたカカオ豆

その後、会社を退職した福村さんは、インドネシア行きのチケットを手にする。ずっと気になっていたカカオ農家を、実際に目で見てみるためだ。

ガーナやコートジボワールなど、世界でも有名なカカオ産地ではなく、日本から比較的近い産地の中から、一番行きやすく生産量も多いインドネシアを選んだという福村さん。とはいえ、ツテもコネもない。バックパッカーハウスで得た情報を頼りに現地を放浪し、ようやくカカオの木と出会うことができた。だがそこで衝撃的な光景を目にする事になる。

農園で見たカカオの扱いがすごくぞんざいだったことに大きなショックを受けました。地面にカカオをバッと広げて、土ぼこりの中で乾燥させているような感じで……僕らはこういうカカオをこれまで食べてきたのかと思うと、ちょっと残念だったんです。その一方で、これは食品としてもっとていねいに管理したら、より美味しいものになるんじゃないかとも感じました」(福村)

画像提供:フーズカカオ

発酵と焙煎でインドネシアのカカオ豆に新たな価値を

帰国後さらにカカオへの興味が募り、ビーントゥバーのパイオニアである「ダンデライオン・チョコレート」に就職した福村さん。たびたびインドネシアへも足を運び、高品質化に意欲を示したエンレカンの農家と、カカオ豆の品質改善に邁進することを決意する

「もともとインドネシアのカカオ豆はポリフェノールが多く、とくにエンレカンの品種は大手メーカーが研究対象にしたいというほど。しかしポリフェノールの含有量は苦味や渋みに関係してくるため、苦くて美味しくないというイメージが先行していました。そのままのクオリティでもサプリや薬の基剤としてはニーズがあり、買い取り価格は安いけれど安定した取引ができるため、味へのこだわりもなかったのかもしれません。インドネシアのカカオ豆の生産量が世界第三位でありながら、良質なカカオ豆の生産国としては認められていなかったのはそのためです」(福村)

実際はポリフェノールが多くても、発酵や焙煎の工程で工夫すれば、複雑な風味を持つおいしいチョコレートになるのだという。年間50回以上も発酵実験を繰り返す中で、そのクオリティは次第に向上。同時にカカオ農家のモチベーションも高まり、「インドネシアで一番のカカオ豆を作って輸出する」と目標を掲げるまでになった。「農家のやる気が、フーズカカオをスタートさせる原動力になりました」と福村さんは振り返る。

実は、エンレカンは日本の長野県のような高原地帯であることから、温暖な低地という“いいカカオの産地”のセオリーには当てはまらない。生活のために、本来は農作業に不向きな山間の土地でカカオを育て、低価格で販売してきたカカオ農家は、この変化を楽しんでくれているようだと福村さんは話す。

「カカオ豆の扱いも本当にガラリと変わり、一粒一粒を食品として大切にしてくれるようになりました。カカオ豆一粒に対価を払う人がいるのだということを証明できて、また農家にちゃんとお金が入る仕組みを作ることができてよかったと思います」(福村)

画像提供:フーズカカオ

カカオをより身近に。「卸売り」を選んだ理由

フーズカカオはビーントゥバーメーカーではなく、現地の農園とともにカカオ豆の品質向上を目指し、それを日本の製菓業者に販売するという卸売りを選んだ。一方で「CROKKA(クロッカ)」というブランドでオリジナル菓子の開発・販売も手がけているが、それは作り手にむけて、スペシャルティ・カカオの使い方や可能性を提示することが目的だと言う。

通常のチョコレートのレシピでスペシャルティ・カカオを使った場合、出来上がりの味がガラッと変わるんです。そのままでは他の食材とバトルしたり、クセや酸味が出ることもある。そこを焙煎の段階やレシピで工夫することで、通常のカカオとは比べものにならない素晴らしい香りや風味を生み出すことができます。そういったスペシャルティ・カカオの持つユニークな特徴をクロッカというブランドを通して表現し、パティシエやショコラティエの方に伝えていくことが、スペシャルティ・カカオの認知度や流通量のアップにつながると思っています」(福村)

ビーントゥバー自体はとてもよい文化だが、そこには“限界”もあると福村さんは語る。1枚1,000円以上もする高級チョコレートはリピートされにくく、特別なときやプレゼント用の消費が多い。しかも、その価格がカカオ農家には還元されにくいのが問題だ。

「カカオ農家の貧困を救うために、ビーントゥバーメーカーが適正価格でカカオ豆を買い付ける。ここまでは良いのだが、ビーントゥバーメーカーはえてして小規模なので、年間の買付け量は大手メーカーに比べると微々たるものです。よって、カカオ農家の収入が増大することにはつながらない。

ビーントゥバーで色々な産地の豆を楽しめる文化は革新的でしたが、消費者が継続して買うことのできる仕組みを作らなければ、農業は継続しません。ビーントゥバーメーカーのビジネスモデルは、産地を持続発展させるという面では、農家によい影響を与え切れていなかったと思います」(福村氏)

画像提供:フーズカカオ

ビーントゥバーの火を大きな炎に変えたい

フーズカカオでは現在、消費者がスペシャルティ・カカオをより気軽に購入できるよう生産効率を高めて、スペシャルティ・カカオを使った板チョコの価格改善に努めている。具体的には、これまでの高価格商品に加え、従来価格の半分の商品も実現したいという。

「消費者はスペシャルティ・カカオを楽しみ、その利益が農家にきちんと還元されるといった、好循環を生み出さないと意味がない。ビーントゥバーが灯した火を絶やさずに、もっと大きな炎に変えられれば、僕らがやる価値はあったのかなと思います」(福村)

また同社は2019年から、現地のハサヌディン大学と連携してカカオ豆のさらなる品質向上を目指し、カカオ開発の深化と拡大を図っている。同大学のサレンケ教授は「スラウェシ島のカカオはポリフェノールに特徴があり、健康維持と発酵によるおいしさの両立ができる強みがある」との認識を示しているという。

よりヘルシーに楽しめるスペシャルティ・カカオの産地として、エンレカンがさらなる注目を集める日も近そうだ。

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福村瑛さん。手にしているのはカカオ豆。

「スペシャルティ・カカオを選ぶ人が増えるほど、農園の経営も安定します。そういう状況になるまで、なるべく手頃な価格でカカオを加工して、消費者に届ける。普通のチョコレートとスペシャルティ・カカオの味は全く違うもので、一度口にするとその差は歴然です。僕としては『もう後戻りができないようにしてやる!』という気持ちでいます」と、おだやかな語り口のなかに、強い決意をにじませた。

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田邉愛理
学習院大学で日本美術史を学び、卒業後、日本の書・古美術をあつかうセンチュリーミュージアム学芸員として勤務。2004年~2012年まで展覧会音声ガイドの制作・運営に携わり、現在フリーランスライター。展覧会に行くこと、そのあとの寄り道が何より好きです。素敵なイベントやショップ、気になるいろいろをアート情報とあわせてご紹介します。

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