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ファッション界の大量生産・廃棄問題に立ち向かう、現代のビスポーク

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世界28か国、2万1千人以上を対象に行われた調査によると、86%もの人びとが、新型コロナウィルスを機に、世界がより公平でサステナブルであるべきだと考えるようになったと答えている(※)。これは、コロナが身近な危険として迫り来るにつれ、政府や厚生労働省の発表はもちろん、海外のコロナ対策等、国内外の情報を頻繁にチェックするようになり、世界の目がおのずと社会課題(ソーシャルイシュー)に向くようになった結果といえるだろう。

サステナブルな考えが加速しつつあるなかで、自分たちには何ができるのか、どう変わっていくべきなのかについて、各業界は今まさに模索している状態だ。石油産業に次いで世界で2番目に環境負荷が高いと示唆されるファッション産業も問題解決に向けて努力を続けている。

ファッション産業がサステナブルではないとされる要因が「大量生産・廃棄」の実情。この量的な課題に向き合うことを命題とするのが、2020年夏にオープンしたアパレルブランド「THE ME」である。

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2020年7月にオープンした「THE ME 神宮前」。最長90分のパーソナル接客をサービスの根幹とし、ナビゲーターが服選びや着方の提案、サイズ補正(チューニング)を行う。選んだ洋服の情報は「マイサイズ」としてTHE MEウェブサイト上のマイページで確認でき、購入はこのマイページから行う。購入するかの検討が、自宅でゆっくりできるのがうれしい。

必要とされるぶんだけを作り、在庫は持たない

THE MEの課題解決策は、一見非常にシンプルだ。オーダーされたものだけを作る。つまり、製品在庫を持たない、という方法なのである。必要な分だけを作るのであれば、購入されずに廃棄される製品を出さずに済むし、製品を作るうえでのエネルギー資源の無駄もなく、運搬のために流通負荷をかけることもない。そもそもなぜブランドは在庫を持つのか。

「ファッション産業が抱える難易度の1つに、必要な量が絶対値として見えないなかで作らなければならない、という点が挙げられます」(「THE ME」PR担当 萩原修平さん、以下萩原さん)

もちろん、他の産業でも同様にこの難点を抱えているだろう。しかし気候や流行に影響を大きく受ける洋服は、「売れる期間」が短い。限られた期間内で最大限の売り上げを狙うには、旬の時期にできるだけ多くのアイテムを店頭に並べ、消費者の購入機会を増やさざるをえず、結果として在庫を持つこととなる。

「ですから、必要とされてから作ることを前提に、今回のモデルに取り組むことにしました」(萩原さん)

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「昨日と違う、今日」をテーマにした、2020年秋冬コレクションより(シーズンが変わっても継続販売するため、シーズン関係なく注文可能)。オリジナル素材・撥水加工ウールニットを使ったブルゾンは、蒸れにくく、抜群の着心地。ニットキルトタフタ パネルブルゾン38,500円(税込)。

よってTHE MEを検討するカスタマーは、まずは来店予約をし、店頭でナビゲーターと呼ばれるスタッフによるパーソナル接客を受ける。好みのアイテムを見つけたら、3Dボディースキャナーで採寸し、そのデータに基づいたサイズサンプルを試着したあと、好みや体型に合わせたチューニング(=サイズ補正)を行う。オーダーするとマイサイズの服が作られ、約2週間後に届くという仕組み。店頭にあるのはサンプルだけで、製品在庫はない。

縫製工場や素材メーカー、デザイナーにとって挑戦的な取り組み

まるでビスポーク(特定の指示に基づいて注文されたもの)のような理想的なシステムなのだが、実現させるには越えるべきハードルが多かったという。

「従来ある生産方法ではないため、一緒にチャレンジしてくださる工場に出会うのに時間を要しました」(萩原さん)

オーダースーツやメンズ・ドレスシャツならともかく、素材もデザインもさまざまなアイテムを一つひとつ作る仕組みが存在せず、全くの新しい取り組みゆえ、提携を断られることも多かったそう。しかも、たとえ余剰となってしまったとしても一定数の製品在庫を納入すれば利益につながる工場にとっては、一着一着の受注生産スタイルは、オーダーが入らなければメリットがない。

「ある一定量のお客さまに来ていただかなければ、工場へ定量的な恩返しもできません。このモデルを実現していくにあたって、多くのかたにご利用いただけることなくてしては完全なモデルとはなりえない。だから、我々はいっそう進化していく必要があります」(萩原さん)

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ノーカラーか、テーラードカラーか、衿デザインを2タイプから選べるコート。Wool ダブルビーバーノーカラーコート49,500円(税込)

素材メーカーも同様で、生地のストックを最小限に留めるべく、小さい単位での発注に対応可能なメーカーを探す必要があった。ストックした生地を新しい形に生き返らせる可能性を高めるため、流行に左右されにくく、汎用性の高いコーディネートが可能なシンプルなデザインを考案することも重要だ。

作り手と、着る側と。社会全体で改善を目指したい

また、受注後に製品を作るため、カスタマーは購入してすぐに現物を手に入れることはできない。予定して買う、あるいは届くまでに一定時間かかることを了承する、つまりは「これまでと消費行動が異なる」ことを、消費者サイドに受け止めてもらう必要もある。

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オリジナル素材・アクアストレッチシリーズの冬用アイテムとして新たに登場したアクアストレッチフランネル。ウール100%の厚手冬用フランネル生地ながら、ストレッチ性に優れ、着用ストレスが少ないのが特徴。アクアストレッチフランネルピークW前ジャケット49,500円、アクアストレッチフランネル1タックテーパードパンツ29,700円(ともに税込)。

「抜本的に社会課題に向き合おうとすると、トレードオフとなる物事が必ずあります。今までと何も変えずに、魔法の杖のように解決してくれることは、本当の意味では少ないし、明確な答えはまだ見つかっていないと思うんです。ですから、よりよいアプローチを模索するうえで、提供する側である我々と、利用する側であるお客さまとで、一緒に変わっていきたい。その1つの選択肢でありたいと考えています」(萩原さん)

※「Sustainable Development Impact Summit」より
https://www.weforum.org/events/sustainable-development-impact-summit-2020

THE ME 神宮前
住所:東京都渋谷区神宮前6-31-11 iori表参道2F
電話:03-4233-4000
営業時間:11:00〜20:00(最終受付19:00)
定休日:火曜
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多田亜矢子
編集&ライター。2006年、マガジンハウスに入社。雑誌『Hanako』『GINZA』編集部に勤務し、ビューティ、ファッション、グルメなどを担当。現在はフリーランスとして「Hanako.tokyo」や「FUDGE.jp」などで活動中。

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