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- ロバート キャンベル氏が見据える未来。次世代の消費者のあり方は?
ロバート キャンベル氏(画像提供:FICC)
企業活動や消費においてますます「サステナビリティ」が求められる昨今、職場や暮らしの中で実現するのは難しいと感じている人も少なくないだろう。2030年に設定された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の期日まで10年を切った今、日本社会に住む私たちには何が求められ、何ができるだろうか。
世界最大級のマーケティング・コミュニケーションイベント「アドバタイジング・ウィーク2020アジア」AW2020:Asiaが2020年10月14日・15日の二日間、オンラインで行われた。そこでは、FICC代表取締役の森啓子氏をモデレーターに、生活者と企業の両視点で、社会に変化をもたらすヒントを語り合った。
日本文学者であり、東京大学名誉教授のロバート キャンベル氏はセッション「生活者の視点の変え方」に登壇。SDGsなど国際的な目標の達成に関して、日本が大きく貢献するために必要な消費者の行動変容、またグローバル視点で見る日本人の意識上の課題とポテンシャルについて分析した。さらに、株式会社中川政七商店取締役の緒方恵氏は「『パーパス』に責任を持つ覚悟はあるか」と題したセッションにて、企業がブレないパーパスを持つことの必要性、またパーパスとプロフィットをいかに生み出すかという今後の企業のあり方について見解を語った。
モデレーターの森啓子氏とロバート キャンベル氏(画像提供:FICC)
SDGsの不実行で被る機会損失
モデレーターであるFICC代表取締役の森啓子氏は、日本社会には大きな機会損失が発生していると指摘する。森氏によると、2017年、スイス・ダボスで開催された世界経済フォーラム、通称「ダボス会議」で予測された、SDGsを実行することによる利益は年間12兆ドル(約1,260兆円)。またコロナ禍で開催された今年のダボス会議でもSDGsを経営戦略に盛り込むことが強調されていたが、日本の生活者意識は世界の中でも低く、社会やビジネスに機会損失が生じている状態なのだという。
では一体、何が日本人の意識にブレーキをかけているのだろうか?
そもそも、日本人には変化を恐れる傾向があると、日本を長年にわたり研究しているキャンベル氏は述べる。「日本は安定志向。それぞれの現場や層の利益を一番に追求しながら、政府や企業団体といった『上の層』を見上げて行動の指針や模範を期待します。一方で、原理的に上から何かを押し付けられるとなかなか動かないし、抵抗したりします」(キャンベル氏)
結果として、変化が起きにくい社会になっているのだ。そして変化を恐れるあまり、人々の気づきや行動変容にブレーキをかけていると言える。例えば、ダイバーシティが起きにくい点や、年少者や女性、外国人を上司として迎えることに軒並み消極的である点、人種や性的指向に対して公約数的な考えがあることが挙げられ、それゆえ他者と一緒に闘っていく、議論する、あるいは取り込んで力にしていくという方向に動きづらいのだという。
(画像提供:FICC)
傾聴力を強みに、前進する
では、変化に踏み出せない日本人の意識を変えるためには何が必要なのだろうか?
「変化を恐れなくていい、安心できる土壌が必要です。自分の持ち場の外に歩みだしていくことに不安を抱えることが多いと思います。例えば新しく語学を習得する際などにも、変なことを言ってないか、批判されるのではないか、しっぺ返しがくるのではと恐れる。そうではなく、うまくいかなくても戻れるような仕組みや表現を作ることが大切です。失敗から学び、再びその人に投資してチャンスを与える。つまり、発言しても良い空気を自覚的に作るのです」(キャンベル氏)
一方で、日本人にとってチャンスとなり得る強みもあるとキャンベル氏。それは日本人の持つ「耳を傾ける」力だという。「例えば、昨今のコロナ禍では、駅や電車でほぼ100%の人がマスクを着けています。それを協調性というのは簡単ですが、それだけではないと思います。どこかで周りを360度見つつ、社会の空気を感じながら、自分で選択することができているからこそだと思います」と、キャンベル氏は語る。
またキャンベル氏は、ダイバーシティが社会にとって起爆剤になると日本人は皆知っており、真面目に正しいことをやりたい意思を持ちながらも、なかなか身近に体感することができないのだと分析する。「だからこそ、もう一歩、能動的に動ける仕組みが必要です。恐れずに自分のやりたいことや好きなことを実現し、自分の行動を広げていく構図こそが変化を生むと思います」(キャンベル氏)
そしてキャンベル氏は最後に、「安直に『一歩進んで行動せよ』とは言うつもりはありません。しかし、全体の中で突き抜けるべきポイントはあります。そのポイントを探りながら、スクラップアンドビルドしたり、他流試合を重ねていってほしいです」と視聴者へ向けた言葉でセッションを締め括った。
画像提供: FICC
「わたしたちはどう生きるか?」強い問いかけから生まれるビジョン
日本社会がSDGsを実行するためには、生活者のみならずビジネスにも変革が欠かせない。
社会的意義の実現を、経営戦略に取り込むためにはどうすればいいのか? 実現のためのヒントは、中川政七商店のビジョン設計から学ぶことができそうだ。
中川政七商店は1716年に奈良県で創業した、300年以上続く老舗企業。高級綿織物を扱ってきたが、反物を作って卸すという業態に限界を感じていた。例えば、エンドユーザーの声が分かりづらいことや、職人にふさわしい報酬が支払われていないことなどだ。そこで中川政七商店は、独自のブランドを直接立ち上げ、販売まで行う業態に転換。今では全国約60店舗を展開し、年商が60億円にものぼる。
この画期的な経営戦略の変革の原点は、シンプルな問いかけだ。
「『わたしたちはどう生きるか?』、この視点がとても重要なんです。人と人との付き合い方と同じで、その会社がどう生き、それが信頼できるかどうかです」と、中川政七商店取締役である緒方恵氏は語る。緒方氏は、消費者が商品を買う動機は価格や便益が理由だけではなく、この会社に残ってほしいと思う心理からだと言う。だからこそ、信頼を勝ち取る確固たる信念が大切なのだ。
さらに中川政七商店のビジョンは、自社の利益追求にとどまらない。コアにあるのは、「日本の工芸を元気にする」という、自社だけではなく工芸業界全体を活性化するための覚悟の決断である。一中小企業としては、自己実現・社会貢献・利益追求という三点を必ず果たさなければ全てが戯言になってしまう、と緒方氏。その結果、同社はSPA事業だけでなく、コンサルティング事業、日本中の工芸品メーカーの営業代行や展示会事業などにも精力的に枝葉を伸ばしている。
これらの強い問いかけが源泉となり、自社や他社、企業と顧客という垣根を超えて共闘戦線としてのコミュニティができる。その結果、知識や文化が組み合わさり、イノベーションが起こるのだ。
画像提供:FICC
コロナ禍でも変わらない本質。“北極星”を目指して。
では、このビジョンはコロナ禍でどう影響を受けたのだろうか。緒方氏は、中川政七商店の信念は不変であり、本質的にやるべきことは変化していないと語る。「コロナ禍でも会社にとっての『why』は変わりません。ただ足元の『what』に置き換えて考え、やるべきことは可能な限り行いました。例えば、元々の発注を弊社都合でストップしたりしないなどはもちろんですし、コロナの影響で販路に困っている工芸会社の支援のために弊社ECで商品を仕入れさせていただき『バイヤーの推しの一品』という特集で販売するなどもしました」(緒方氏)
また顧客とのコミュニケーションで生じた変化について、「最も大事なのはお客様。緊急事態宣言が明けて、お客様と顔を合わせることができたことを、心から喜び合うことが重要です。客数としてお客様を数字で捉えず、人と人とのつながりにこそ大きな価値と感動があることを再認識するのが大切です」と、緒方氏。
強い「why」に引っ張られ「how」と「what」が増えていった結果、それが中川政七商店の強い強みとなり、プロフィットを産むカギとなっているのだ。
また緒方氏は、企業や生活者として目指すべきは「あの星だ」と言える一貫したビジョン、“北極星”が必要だと述べる。それさえ固めれば、やるべき事はあとは自動的に組み上がるため、自分たちが何者でどこに向かっているのかを日本全体で議論できれば、と意気込む。
SDGsの達成に向けてまだまだ課題が山積みの日本。しかし、改めて自分たちの強みを考えることによって、着実に一歩進むことができるのではないだろうか。進むべき方向を議論するためにも、「つくり手」と「つかい手」両方の視点から、暮らしや社会を見つめ直していきたい。

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