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サーキュラー・ビューティ最前線。環境問題に挑む、ヨーロッパ発ブランド事例3

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あらゆる業界でサステナビリティが求められている中、特に気候変動への取り組みがいち早く進むヨーロッパでは、サーキュラーエコノミーに取り組む美容ブランドが次々と誕生し、注目を集めている。本記事では、ヨーロッパで生まれている美容業界のサーキュラーエコノミー最前線をレポートする。

サーキュラーエコノミーへの移行が必要な理由

現在の資源を「取って・つくって・捨てる」リニア(一方通行)型経済の仕組みには、明らかに限界が迫っている。本来美しさを提供するはずの美容業界も、大量に製造する容器などはそのほとんどがごみとなり、汚染の原因となっている。

この資源枯渇問題、ごみ問題、そして激化する気候変動と自然破壊への解決策として注目されるのがサーキュラーエコノミーだ。

サーキュラーエコノミーとは、循環型経済という言葉の通り原材料や製品が資源としての価値を失うことなく循環する経済を意味する。サーキュラーエコノミーが実現すれば、新しい資源を採掘する必要性は限りなく抑えられ、社会経済に存在する資源は、高い価値を保ったまま循環し続ける

リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの移行に向け、世界を牽引するイギリスのエレン・マッカーサー財団は、実現の大前提となる三原則を「自然の仕組みを再生する/ごみ・汚染を出さない設計/製品と資源を捨てずに使い続ける」ことだとしている。

これらの考え方をいち早く取り入れるヨーロッパ発のの美容ブランド事例を紹介しよう。

「誰かのごみは誰かの資源」都市で発生する廃棄問題の解決策

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image via UpCircle 創業者のウィリアム氏とアナ氏

ロンドンのカフェでは、毎日ごみとして排出されるコーヒーがらを、お金を払って行政に引き取ってもらっていた。まだまだ価値のある資源を、お金を払ってもらってまで処分している現実に驚き、商機を見いだしてスキンケアブランドを始めた起業家がいる。

スキンケアブランド「アップサークル(UpCircle)」を立ち上げた兄妹起業家、ウィリアム・ブライトマン(William Brightman)氏とアナ・ブライトマン(Anna Brightman)氏だ。ふたりは調べていくうちに、イギリスではコーヒーがら以外にも2012年の1年間だけで2万3,000トンものストーンフルーツ(アプリコットやモモ、プラムなどの真ん中に固くて大きな種の入った果実の総称)の種や皮などが廃棄されている事実を知った。

これらは食品としての役目を終えた「ごみ」ではあるが、多くの栄養が含まれている。むしろ、コーヒーはひいた粉の状態よりも、淹れたあとの出がらしの方が高い抗酸化作用を持つという。

UpCircleはこれらを原材料として活かし、スキンケアアイテムの生産開発を手掛けている。たとえば、コーヒーがらから作るフェイス・スクラブは古い角質を取り除き、柔らかく滑らでツヤのある肌へと導き、砕いたアプリコットの種から作るクレンジングオイルは、抗酸化作用のあるビタミンEが豊富に含まれており、毎日のメイクや汚れを取り除き潤いのある肌を育む。

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image via UpCircle

コーヒーがらから作るフェイススクラブは、古い角質を除去し、肌を滑らかな状態にする。

UpCircleは現在、年間250トンもの廃棄食材をスキンケア商品にアップサイクルしている。アップサイクルとは、ごみを二次資源と捉え、新たな付加価値を持たせて別の新しい製品に生まれ変わらせることだ。「誰かのごみは誰かの資源」という自然の仕組みを再生するサーキュラーなコスメブランドとして、UpCircleは今世界で大きな注目を集めている。

同ブランドは現事業に加え、他にもイベントやウェディングなどで使われて廃棄される花などの異なるウェイスト・ストリーム(廃棄物の流れ)に着目し、新たな製品化のチャンスを模索している。

アップストリーム・イノベーションで廃棄ゼロに挑む

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image via CoZie フェイスマスク

フランスの環境コンサルティングファームEVEAが行った調査によると、これまでフランスでは年間3億6,000万個ものシャンプー・ボディーソープなどの使い捨てプラスチック容器が廃棄されてきた。エレン・マッカーサー財団によると、このまま世界が変わらなければ、2050年までには魚よりも多くの量のプラスチックごみが海を漂い、地球規模で甚大な被害を及ぼすという。

そこで、フランス国内で大きく期待を集めるのが「ごみ・汚染を出さない設計」のサーキュラーなスキンケアブランド「コージー(CoZie)」。主力製品は、フランス国内の農家がつくる原材料のみを使ってつくられた100%オーガニック・ヴィーガン・クルエルティフリー(開発や生産の段階で動物実験を行わない方法を指す)のフェイスクリームやボディローション、デオドラント製品だ。

ものが捨てられ、ごみになってから対策を考えても、実際にできることは限られている。実際製品がごみになって海を漂い続けるか、資源として循環していくかどうかという運命は、80%が設計の段階で決まってしまうためだ。つまり、ごみになってからではなく、仕組みの上流から変えていくアップストリーム・イノベーションが強く求められている。

化粧品を量り売りすることでプラスチックフリーに挑むCoZieは、世界で初めてコスメ用ディスペンサーを導入。結果、スキンケア製品を量り売りで提供することで、使い捨てプラスチック容器を不要にする事業を実現した。CoZieという名前の由来「Cosmétiques Objectif Zéro Impact Environnemental(環境負荷ゼロを目指すコスメ)」の通り、ビジネスモデルから廃棄ゼロを実現可能にし、二酸化炭素排出量79%の削減に成功している。

このビジネスモデルでは、いかに容器を返却してもらえるかが成功のカギとなる。CoZieは高級感のあるガラス容器に1.5ユーロ(約190円)のデポジットを設定することで返却インセンティブを仕組み化し、「容器は捨てるものではなく繰り返し使うもの」というマインドシフトと行動変容を促している。

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image via CoZie デオドラント

CoZieの製品は、フランス国内で全335箇所ある自動販売スペースで、好きな量を詰め購入することができる仕組みだ。使用後はガラス容器を返却し、新しいものに交換してもらうことも可能。使用済みの容器は国内の洗浄センターで洗浄され、新たに人の手に渡ることとなる。

CoZieは生産から回収、洗浄までをフランス国内で完結することを徹底することで、輸送コストと環境負荷削減の両方を叶えている。CoZieは、一人ひとりが買うものを変えるだけで大きなインパクトにつながることを業界に先んじて示す存在だ。

最大手LVMHも本腰。La Bouche Rougeが示すラグジュアリーの新定義

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image via La Bouche Rouge 廃棄レザーをアップサイクルしたルージュケース

製品と資源を捨てずに使い続けることでラグジュアリーの新しい定義を鮮明に示すのは、フランスのコスメブランド「ラ・ブーシェ・ルージュ(La Bouche Rouge)」だ。La Bouche Rougeは、ラグジュアリーブランドを扱う世界最大手LVMHがディオール・ゲラン・ジバンシィなど主要ブランドの研究開発を行う、テクノロジーセンターのインキュベーションプログラムから生まれた。

創業者でフランス・ロレアル社リュクス事業部出身のNicolas Gerlier(ニコラ・ジャリエ)氏は、最高品質のバッグのように、世代を超えて受け継ぐ価値のあるコスメをつくりたいという想いからLa Bouche Rougeを創業した。

同ブランドによると、これまで世界では年間約10億本の口紅がつくられては廃棄されてきた。その生産にはさらに3億個の型がつくられ、捨てられている。また、化粧品を大量生産・コストを削減しようとすると、多くの場合安定させるためにマイクロプラスチックが使用されるが、これにより、現代人は人体への影響以外に、環境への深刻な影響をもたらすことが危惧されるマイクロプラスチックを、一週間にクレジットカード1枚分ほど摂取しているという。

これらの問題に対してLa Bouche Rougeは以下のアクションをとった。

まず、ルージュケースは廃棄レザーをアップサイクルして不要となった資源に新しい命を吹き込み、プラスチックフリーを実現。ジャリエ氏の「ラグジュアリーは環境を犠牲にしない」という信念が息づく。さらに、ルージュにもパラベンやパラフィン、防腐剤、動物性油脂不使用、さらには生態系への懸念から、絶滅が危惧されるミツバチのミツロウも不使用という徹底ぶりだ。

そして、La Bouche Rougeは、ルージュケースだけでなく生産に使われる型を循環モデルにすることで廃棄ゼロを達成。今年8月にはリサイクルガラス容器に入ったマスカラが発売されるなど、地球と人に優しい圧倒的なラグジュアリーブランドとして今後も躍進が期待される。

2019年11月より日本にも進出した同ブランドはさらに今夏、フランス公的投資銀行(Bpifrance)より日本円にして約8億円の資金調達に成功した。

フランスの伝統的な職人の技法とサステナブルなテクノロジーを組み合わせたLa Bouche Rougeは、ラグジュアリーの新しい定義を投げかけることで美容業界を牽引している。今後これに他のブランドもつづく流れとなりそうだ。世界がサーキュラーエコノミー実現へ向けてさまざまな取り組みを進め、多くの消費者が環境に良く社会に良いブランドを求め始めるなか、美容業界にも大きな変化が訪れている。

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西崎こずえ
サーキュラーエコノミースペシャリスト
アムステルダム在住サーキュラーエコノミースペシャリスト。ヨーロッパからサーキュラーエコノミーとサステナビリティの最前線を発信。地球に優しくみんなに優しい社会のヒントを探します。

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