ここ20年で劇的な成長を果たした韓国化粧品マーケット。韓国の消費者は、スキンケア製品の配合成分に非常にシビアであり、メーカー各社は、現在高いクリーン性を求められているという。素材や用途、パッケージなど、ユニークな商品をたくさん打ち出し、K-Beautyとして成功を収めてきた韓国で、独自のクリーンビューティが発展するに至った経緯とは?
韓国化粧品業界に詳しいファン・ソンミン氏へインタビューし、K-Beautyの現状と未来に迫る。「GLOSSY」はこれからのK-Beautyの動向を予測したい。
環境変化を機に、成分重視傾向へ
伝統的な家父長制のなか、韓国社会では長らく男らしさが讃えられてきた。しかし2000年代に入り、ドラマ『冬のソナタ』にぺ・ヨンジュンが登場したあたりから、美しい男性がフォーカスされるようになる。
2010年前後にはK-POPがブームとなり、アイドルたちの整った容姿を目標に、美容にいっそう注力する男女が増加。当時、スキンケア製品で人気を得たのは「プチプラ」で「即効性が高く、ハイパフォーマンスな素材」であること。カタツムリや毒ヘビといった、斬新でキャッチーな成分が配合された製品が市場にあふれていた。
しかし、約7年前から、消費者の目は自然派化粧品へと移ってきたという。その引き金となったのが、ミセモンジ(微細粉塵)。大気汚染などの外的環境要因により、敏感肌を自覚する人が続出したのだ。敏感肌を落ち着かせるべく、なるべく肌に優しい成分を使ったスキンケア製品が注目されるようになり、次第に配合成分を注視して製品選びをする人が増えていった。
月に130万人が!? 成分に世界一シビアといわれる韓国人
この流れを裏付けるのが、韓国で爆発的人気を誇るスマホアプリ「ファへ」。韓国語で「化粧品を分析する」を意味するファへは、2013年にリリースされ、各メーカーの各製品に使用される全成分が表示され、それが有害であるかや、危険度がどのくらいかなどがわかるほか、それぞれがどんな肌タイプの人にフィットするかといった情報を得ることができる。
当初、男性が自分の肌タイプにより合うスキンケアアイテムを見つける手助けになれば、と開発されたアプリだったが、男性ユーザーにとどまらず、女性ユーザーにもヒット。ダウンロード数は累積900万にのぼり、現在のアクティブユーザーは月間130万人。17万点を超える製品情報が掲載され、さまざまな肌タイプのユーザーによる、500万ものレビューが寄せられている。韓国人がいかに成分に対してシビアであるかが伝わるだろう。
韓国化粧品業界に詳しいファン・ソンミン氏は、韓国人が配合成分を気にかける背景には、韓国の文化も関わっていると話す。
「韓国独自の考え方に、ヤクシクドンウォン(薬食同源)があります。たとえば、人に何を食べたのか尋ねたとしますよね。たいがいの韓国人は、自分が食べたものが、肌をはじめ、呼吸器官など身体のどの部分にどのように作用するかまで説明することができます。口にするものは薬と同じであるという認識が昔からあるんです」(ファン氏)
いま大激戦なクリーンビューティ。ブランドが生き残るカギとは?
また一方で、韓国では化粧品会社間での競争が激しいことも、クリーンビューティ化に拍車をかけている。というのも、韓国では化粧品ブランドを比較的容易にたちあげることができるため、各社、生き残りをかけ、ブランドを特徴づける必要があるのだ。
「ODM会社によるブランドの乱立などもあり、ここ20年で、韓国化粧品市場は飛躍的に成長しました。コンセプトや使っている素材がユニークなど、特別な何かがあるかどうかが、ブランドの命運を分けていると思います」(ファン氏)
イギリスの調査会社「Datamonitor Healthcare」によれば、韓国ではオーガニックコスメ市場だけで実に3億ドル規模。このメガ市場においてブランドをどのように印象づけていくのか、となると、ただオーガニックであるだけでなく、フェアトレード原料を用いたり、原料の産地を明記したりと、安心・安全でサステナブルであり、他よりクリーンであることがポイントになるという。
いまもっともユニークさが際立つブランドを3つピックアップ
ブランドのパワーを感じる代表例として、3つの人気ブランドに注目。
まず1つめは、韓国の消費者が特に気にかけるというシリコン系原料・合成香料・合成着色料はもちろん、動物性原料やサルフェート、パラベンも不使用のヴィーガンコスメブランド「BEIGIC」。「コストがかかっても信念を貫くものづくりがしたい」と願う創設者、ケイト・ナムグンが選んだスター原料が、フェアトレードによって仕入れたコーヒー豆由来の成分、グリーンコーヒービーン。フェアトレード原料を用いることは、コストは割高、供給量は限定的。それでも、肌にとってのみならず、社会やコーヒー豆生産に携わる人に役立つ原料を選びたいとの強い思いからセレクトしたそう。2020年6月に日本上陸を果たし、同10月にはボディケアラインの発売もスタートしている。
抗酸化物質、ビタミンE、脂肪酸、ナチュラルカフェインが豊富といわれるコーヒー豆を主役に据える「BEIGIC」。写真は2020年10月に発売がスタートしたボディケアラインより「リプレニッシングボディオイル」100ml7,000円(税別)。グリーンコーヒービーンオイルを含んだ12種類の植物性オイルが肌にハリと潤いを与え、なめらかに整える。
続いてはスキンケアブランド「ハクスリー」。砂漠化やPM2.5、ミセモンジなど、昨今の環境変化に起因する肌トラブルを経験し、肌に優しい天然原料への関心を高める人が増える韓国。そこでお手本としたのが、何世紀にもわたって過酷な環境・気候を身近に暮らしてきた、サハラ砂漠のベルベル人女性。彼女たちの美しさの秘訣の1つである、サボテンシードオイルに着目した。日較差50度の環境下で育つサボテンの特徴は、最大95%の水分を蓄える抜群の保水力と、優れた保湿力を発揮するリノレン酸、高いビタミンE値。パワフルなサボテンエキスを含む自然由来成分90%以上の「トナー」や、スペシャルケアにぴったりの「マスク」には多くのファンがいる。
サボテンエキス、サボテンシードオイルをたっぷり含んだ「マスク; モイスチャーアンドフレッシュネス」25ml×3枚入り2,700円(税別)。100%植物由来で環境に優しいシートが、疲れた肌を効果的にリフレッシュさせる。
3つめは「ナチュラ フォレスタ シャンプー」がヒットしている「Clevos」。100%自然由来成分で構成され、化学成分を一切配合しないことが特徴。そのヒットの要因は、米国のEWG認証マーク、USDA認定、ドイツのBDIH自然/オーガニック化粧品認証マークと、複数のオーガニック認定を取得しているから。オーガニック製品が増え続ける韓国では、基準が厳しい海外の認証機関の認定を取得することが1つのステータスとなっているそう。
100%自然由来成分でありながら、泡立ちがよく、頭皮の汚れまですっきりと落とす「ナチュラ フォレスタ シャンプー(ローズマリーシャンプー)」日本未発売。
次のクリーンビューティを担うのは、完全なるローカル自然原料!?
クリーンビューティを謳う製品が、次々と登場する韓国化粧品マーケット。今後はどうなっていくのだろうか。
「地元産のクリーン原料を用いるブランドが増えていくと予想しています。たとえば『イニスフリー』がチェジュ島の火山噴火物をもとにしたヴォルカニックラインや、同島の無農薬緑茶畑から採取した緑茶を主体にしたグリーンティーラインなどを出していますが、こういった“完全なるローカル素材”を使った製品は、いま以上に人気が出るでしょう。きちんとした効果も感じられますしね」(ファン氏)
アメリカを中心に欧米で拡大し、いまや世界的にトレンドとなっているクリーンビューティ。薬食同源のマインドや化粧品市場の状況などから、韓国で受け入れられたのは当然といえる。アジアの美容大国として注目される国だけに、これからも同国のクリーンビューティ動向を追っていきたい。

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