レスリングから総合格闘技への転向、4度目の結婚——。大きな決断を必要とするターニングポイントを、数多く経験している山本美憂氏。壁にぶち当たったり、失敗したりすることもあったはずだ。
2020年11月27日に開催されたMASHING UPカンファレンスvol.4では、レポーターや俳優として活躍する副島淳氏をMCに迎え、「強く、美しく、人生と闘う。アスリートという生き方」と題し、迷ったときの答えの選び方や、失敗をしてもなお挑戦を続ける姿勢の貫き方など、よりよい人生を送るためのヒントを山本美憂氏に語ってもらった。
「すべて自分がやりたいと思ったこと」。心の声に正直に生きる
山本美憂氏といえば、13歳でレスリング第1回全日本女子選手権優勝、17歳で同世界選手権を史上最年少優勝した人物。日本の女子レスリング・黎明期から活躍してきた彼女は、2016年、42歳にして総合格闘技(MMA)に転向を決意し、世間の話題をさらった。
「同じ格闘技といっても、全然違うものじゃないですか。その切り替えって、スムーズにできたんですか?」と副島氏が驚いたのも、当然のこと。レスリングは総合格闘技の一部であって、ボクシングやキックボクシングなど、その他の格闘技要素も含まれる。
「オリンピック出場を目指してレスリングをやってきたけれど、その夢にはどうしても届かなかった。でも、五輪をあきらめたと同時に、レスリングもトレーニングもやめてしまうのは、もったいないな……。そんな風に考えていた矢先に、弟である山本”KID”徳郁の癌が発覚して。弟はMMAの選手だったので、わたしがMMAに転向して選手になることで、弟がコーチになってくれると考えたんです。そうすれば彼のそばにいられるから、彼のサポートもしてあげられるな、と」(山本氏)
MMAに転向すべきだという直感に、素直すぎるくらい、素直に従ったのだ。こういった「自分の気持ちへの正直さ」は、彼女の人生のあらゆる点で見られる。
グアムでの移住を決意したのも、そう。ある日、Instagramを眺めていて、ふと目についた投稿にコメントをした。相手は、弟・KID氏の親友。彼が当時、グアムに居を移していることを知った山本氏は、「彼に会ったら、病床のKIDが元気になるかも!」と思いつく。そこからの行動は、すさまじく早く、「グアムに行ってみたい」というKID氏の胸の内を確認するや、翌日には単身でグアムへ飛び、弟の親友と話をし、現地滞在24時間未満で病院へとトンボ帰りして、弟に状況説明。姉弟でグアムへ移住することを即決した。
妹・山本聖子氏の夫であるダルビッシュ有氏に薦められたYouTubeチャンネル開設も、カフェ「Coffee slut」の開店も、同様。「すべて自分がやりたいと思ったこと」と話すように、自分の心の動きに正直に生きている。
失敗することもあることを承知のうえで挑戦し、幸せをつかむ
グアムからzoomで出演した山本美憂氏。
山本氏の生き方を耳にし、「山本さんは、やらぬ後悔より、やる失敗を選んでいるんですね」と副島氏。そう、挑戦に失敗はつきものだ。怖くはないのだろうか。
「そもそも、やらなかった時の後悔を考えると、やらなきゃ!ってなっちゃうタイプなんです。失敗したとしても、それは自分が選んだことですし」(山本氏)
むしろ五輪の挫折、負け試合などは、成長の素だと話す。
「身の回りに五輪選手がいる環境で育ってきたので、自分もいつかはオリンピックにいくものだと信じていましたし、挫折したときには、悲しいというか、悔しいというか、こんなはずじゃなかったと思いました。でもわたし、落ち込む時間がすごく短いんです。落ち込むことに飽きてしまうというか。それに、五輪をあきらめていなかったら、MMAには転向していなかったかもしれない。あの経験があったから、いま、弟と同じ舞台に立てるというすばらしい時間が持てたんだと思っているんです」(山本氏)
ちなみに、失敗……と他人が表現するのは失礼にあたるが、山本氏は離婚を3回経験している 。
「離婚をするたびに、自分には結婚が向いていないのかも、と考えるんです。でも、最初のうちは、別れる理由を相手のせいにしがちだったんですが、次第に、失敗するということは自分の何かがいけないんだと、離婚経験もプラスに変えていくことにしたんです」(山本氏)
4度目の結婚となった現在の夫には、自分の苦手なことを詳らかにし、一緒に問題解決をしてもらうことで良好な関係を築けているという。
「失敗でヘコむと、その失敗がもったいないものになってしまう。負けた試合こそ勉強することがいっぱいあって、成長ができる」との言葉に、「失敗を引きずるタイプの僕に、とても響いております」と、感心しきりの副島氏。
誰しも、失敗はするし、失敗は怖い。しかし、失敗することもあるとわかったうえで挑戦できることこそ、強さなのだということが、山本氏の姿勢からうかがえた 。
毎日を後悔なくやりきる。コツコツ続けて手にする、本当の強さ
副島淳氏
最愛の弟・KID氏が亡くなった土地ゆえ、まだ彼がいるような気がして離れがたいと、現在もグアムでの暮らしを続ける山本氏は、コーチでもある夫とともに、身体づくりを行う日々だ。ハードなトレーニングを継続することは、辛くないのだろうか 。
下記の動画をご覧いただきたい。8kgの重さの球体を叩きつけたり、回したり。全身が鍛えられるメニューだそうだが、気を抜くと球体が跳ね返って顔に当たり、鼻血を出したことも。
「わたし、MMAが本当に大好きなんです。昨日の自分よりも少しだけ成長している自分を楽しみにトレーニングしている。好きなことが毎日できることはラッキーで、感謝しかありません」(山本氏)
コツコツと練習を重ねることを重要視する背景には、レスリング大会に出場していた時代に母からもらった大事な言葉があるという。
「試合って何が起こるかわからないから、結果が金メダルじゃないこともある。でも、『後悔なくやりきった!』と思える毎日を過ごせているなら、望んだメダルの色は心の中にちゃんとあると教えられました」(山本氏)
以来、後悔のない一日を過ごすことがモットーだと言う。
「お話を聞いていると、山本美憂さんの人生、イコール、挑戦のように感じました」という副島氏のコメントに対し、「Coffee slutは、いまはグアムにしかお店がないんですけど、日本にも出せたらと計画中です」と、さらりと未来予告をする。次に会うときには何をしているだろうと、ワクワクさせてくれる人だ。
「自分を信じてやったことは、傷ついて涙する結果になっても、その経験が自分を強くする。明日なのか、1年後なのか、10年後なのかわからないけれど、あの失敗があったから、これがあるんだと思える日が必ずきます。わたしが信じてきた一連のことが、皆さんが生活するうえでのヒントや、前に進めるきっかけになったらうれしいです」(山本氏)
目下、2020年末の大会「Yogibo presents RIZIN.26」(12月31日[木]さいたまスーパーアリーナにて開催)に向け、過酷なトレーニング中。「pH値の高い、アルカリ性の水を1日に4〜5リットル、試合前の減量中は1日に6〜7リットルほど飲んで、身体を調整しています」とのこと。
12月31日、このカンファレンスのときよりもさらに強くなっている山本美憂氏を、リング上で観られることを、お楽しみに。
MASHING UPカンファレンス vol.4
強く、美しく、人生と闘う。アスリートという生き方
山本美憂(KRAZY BEE / SPIKE22所属 総合格闘家)、副島淳(タレント)

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