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CONFERENCE:MASHING UP vol.4

「心を健康に保つテクノロジー」は未来の成長産業/ニコール・ブラッドフォード

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MASHING UPカンファレンスVol.4が焦点をあてる「ウェルビーイング」。これに関し、テクノロジーを活用したアプローチを行うのが、キーノート・スピーカーのひとりとして登場したニコール・ブラッドフォード氏だ。心を健康に保ち、前向きに生きるために、心理学やニューロサイエンスを応用した技術が役立つと考え、その開発と普及を支援する活動を行っている。

ブラッドフォード氏は、ウェルビーイング・テクノロジーに投資するウィローグループのCEO兼創業者であるほか、トランスフォーマティブ・テクノロジーという非営利団体のエグゼクティブ・ディレクターも務める。イベントや教育活動を行うほか、イノベーターに資金調達の機会を提供したり、企業が新しいツールを採用するためのサポートをしている。

トランスフォーマティブ・テクノロジーは、ウェルビーイングに関する研究や技術開発に取り組む企業や研究機関、起業家、投資家などで形成する世界最大のエコシステムとなっており、現在72か国と450都市にメンバーがいる。

ニコール・ブラッドフォード/ウィローグループCEO兼創業者
トランスフォーマティブ・テクノロジー(非営利団体)エグゼクティブ・ディレクター兼共同創業者。ウェルビーイング・テクノロジーに関わる前は、ゲーム業界で活躍。アクティビジョン・ブリザード、ディズニー、ヴィヴェンディ・ゲームズなどで戦略立案、運営、マーケティングなどに関わる。スタンフォード大学講師。ウォートンスクールオブビジネス MBA取得。シンギュラリティ大学のグローバルソリューションプログラム参加。著書に、変革的なアフロ・フューチャー小説「The Sisterhood」。

心身の不調が「経済」に及ぼす悪影響

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ウェルビーイングについて、ブラッドフォード氏は「心身ともに健康で幸せな状態であること」と定義する。

「具体的には、精神状態がよく、ストレスを管理する能力があり、人生に満足していること。これはつまり、周りの人との関係性がうまくいっており、人生に意義や目的を持って生活していることです」(ブラッドフォード氏)

ウェルビーイングが注目されるようになっている背景については、次のように語っている。

「現在、ストレスや不安、うつを感じる人の数が世界中で過去最高となっています。新型コロナウイルスの流行で働く環境が変わるなか、多くの企業が従業員の福利厚生や生産性向上のために精神的な健康に注目しています」(ブラッドフォード氏)

心の不調が世界経済に与える影響は深刻で、国連が2020年5月に発表した白書によると、職場におけるメンタルヘルス問題による損失は1兆ドルにのぼるという。

企業を悩ます「プレゼンティーイズム」と呼ばれる問題もある。不調を抱える社員が出社はするものの、集中できずに生産性が上がらない状態のことを指す。

「未来の社会のあり方」に通じるテクノロジー

ウェルビーイングに関する技術は、大きな将来性を秘めた分野でもある。若い世代の価値観に合うというのがひとつの理由だ。ミレニアル世代の44%とZ世代の48%が、「メンタルヘルスの安定」をトップ・プライオリティと捉えているという調査結果もある。

この世代は、目先の利益よりも「本当に大切なものは何か」ということを考えて行動する。「信頼性」や「サステナビリティ」を重視し、少々高くても自分たちの価値観に合う企業の商品を買い求める傾向がある。

また、米国では医療費の高騰などを受けて予防医学の重要性が叫ばれるようになり、これがウェルビーイング市場にも反映されている。

さらに、産業構造の変化によって仕事も変化している。「未来の仕事」ではコミュニケーション能力、創造性、問題解決能力などの社会性や感情に関するスキルが重要性を増していくとみられ、これもウェルビーイング・テクノロジーにとって追い風となる。

ウェルビーイング・テクノロジーとは何か

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ウェルビーイング・テクノロジー、またはトランスフォーマティブ・テクノロジーについて、ブラッドフォード氏は「インナースペース、つまり精神世界に関わる技術」だと説明。

「人間の精神的な健康とパフォーマンスの最大化」を縦軸に、「デジタルテクノロジー」「科学」「データ」を横軸に融合させたイノベーションのことを指すという。

AI、センサー技術、ロボット、合成生物学などの最先端技術を駆使し、人の幸せや心の繋がり、自己実現などをサポートすることを目的としているこれらのテクノロジーには、3つのカテゴリーがある。

  1. 精神と感情のウェルビーイング……ストレスや不安の軽減、幸福追求、さらに健康維持に不可欠な睡眠に関するテクノロジー。
  2. 社会的・感情的なウェルネス……対人関係に焦点を当てたもの。職場、家族、友人、地域など、さまざまなコミュニティで人間同士の結びつきをサポートする。
  3. 人生の目的とパフォーマンスの向上……人々が自分の生きがいとは何かを理解し、目的意識を持てるよう手助けをする。

では、人間の心とテクノロジーを結びつける概念はどこからきたのか? ブラッドフォード氏は次のように解説する。

「1つ目はAIやコンピュータ・ビジョン、バイオテック、センサーなど多分野での急速な技術の発展です。2つ目の要素がニューロサイエンスと心理学。これらが交わり、メンタルヘルスや精神のフィットネスに関わる全く新しい製品カテゴリーが生まれました。これまで私たちは肉体のフィットネスに気を配ってきましたが、これからは精神のフィットネスも重視していく時代です」(ブラッドフォード氏)

日本が持つ潜在力

ブラッドフォード氏によると、日本はウェルビーイング・テクノロジーに関して、世界をリードできる可能性を秘めているという。

理由のひとつは、電化製品などにみられるイノベーションの歴史があり、ウェルビーイング・テクノロジーに用いられる光学機器や医療機器の生産国でもあるということ。

また、優れた美的感覚や価値あるデザインを生み出す力があるのも、大きな強みだという。これについては、芸術や音楽などが人間の脳や行動に与える影響について調べる「神経美学(Neuro-aesthetics)」と呼ばれる研究分野が言及された。

「バイオセンサーで生体反応を、脳波計やfMRIを使って脳や神経の反応を測るうちに分かってきたのは、美しさや、世界に対する驚きの念、周りの環境などが、人間の健康や幸福にどれほど深く関わっているかということです」(ブラッドフォード氏)

ロボット犬や介護ロボットなどの例に見られるように、日本人はテクノロジーに「癒しの要素」を取り入れる。こうした着眼点も、ウェルビーイング・テクノロジーに通じるという。

日本経済の大きな柱である自動車産業も、変革期を向かえている。自動運転にシフトする未来の車を考える上で、ウェルビーイングの視点を取り入れることは非常に有効であるとする。

「精神世界に関わる技術」は、今後大きな産業に育っていく

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ブラッドフォード氏のプレゼンテーションの後、トランスフォーマティブ・テクノロジーのボードアドバイザーならびに日本・アジア支局の代表を務める奥本直子氏が合流。

奥本氏は、日米間のビジネスや投資の橋渡しをミッションとする、戦略コンサルティング・投資会社アンバー・ブリッジ・パートナーズの創業者でありCEO。その奥本氏から、ウェルビーイング・テクノロジー分野での投資チャンスについて質問があった。ウェルビーイング市場は、400兆円とみなされており、非常に大きなマーケットであると共に、ユニコーン(1000億円以上の評価額)スタートアップも増加している。

回答に際し、ブラッドフォード氏は歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリが語る「人類にとっての次世代の課題」を引き合いに出した。1つ目の課題が、長寿で「健康で長生きすること」。2つ目が拡張、つまり「人間の知能や身体能力を補い高めること」。そして3つ目が幸福だ。

「これを産業として捉えてみます。1つ目は医療、2つ目にはAIが含まれますね。3つ目の幸福も次世代の大きなセクターとなるでしょう。メンタルヘルスへの投資額の増加からも、その重要性が認識され始めていることが分かります」(ブラッドフォード氏)

「精神世界(インナースペース)」は「宇宙(アウタースペース)」とともに、起業家や投資家にとってチャンスの多い偉大なフロンティアだと、ブラッドフォード氏は語った。

不確実性が増していく時代、心のケアは個人と社会にとって無視できない課題となっている。これをサポートしてくれるテクノロジーが近い将来、身近なものとなることを楽しみにしたい。

MASHING UPカンファレンス vol.4

Well-being を加速させるテクノロジーとビジネスの今
ニコール・ブラッドフォード(ウィローグループCEO兼創業者 / トランスフォーメーション・テクノロジー・ラボ エグゼクティブ・ディレクター兼共同創業者)、奥本直子(トランスフォーマティブ・テクノロジーのボードアドバイザー、 日本・アジア支局代表 / アンバー・ブリッジ・パートナーズ CEO & マネージング・パートナー)

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野澤朋代
フォトグラファー、翻訳者、ライター。趣味は散歩と語学学習。

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