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「夫婦別姓」問題から透けて見える、政治の多様性へのアプローチ

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夫婦別姓。関心がある人も多いのでは。

長らく政治の場で議論がされなかったこの問題、久々に自民党内で議論があった。「家族がばらばらになる」「戸籍が崩壊する」「子どもがかわいそう」……。そこでの光景は、まるで20年前に戻ったかのよう。だが、変化も着実に始まっている。多様性ある政治に向けての変化が。

別姓議論にみる政治の多様性への動きについて、考えてみたい。

夫婦別姓を求める声は大きい

なぜ今、選択的夫婦別姓問題が再浮上し、自民党内で議論が行われたかといえば、2020年の年末に第5次の男女共同参画基本計画が閣議決定されたからだ。同基本計画は5年ごとに改定されるが、その原案に選択的夫婦別姓制度について「必要な対応を行う」などと盛り込まれた。(※)

同じタイミングで、7年半続いた安倍政権が終わった。安倍首相は夫婦別姓に反対だ。2019年の参院選。7党の党首を招いて行われた討論会で、選択的夫婦別姓制度への賛否を問われて、安倍氏はただひとり賛成しなかった。偶然にもこの二つが重なり、自民党内で議論が行われたのである。

2020年の改定で別姓がもりこまれようとしたのは、各種世論調査などで、選択的夫婦別姓に賛成する人がもはや過半数を超えているからだ。特に若い世代に、選択的夫婦別姓を求める声が大きいということについては、さまざまなデータで裏付けられている。

※編集部注:2020年12月25日の閣議で、今後5年間の男女共同参画基本計画が決定した。「選択的夫婦別姓」をめぐっては「さらなる検討を進める」という表現となり、導入に前向きだった原案から後退している。

夫婦別姓をめぐる議論は、20年以上前からあった

そもそも、夫婦別姓の制度化への議論というのはどうなっていたのか? ちょっとおさらいしてみよう。

夫婦同姓は民法750条に「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定められている。

政策への動きとして登場してきたのは1996年、平成8年のことだ。法務省に置かれた法務相の諮問機関、法制審議会が選択的夫婦別姓制度の導入を盛り込んだ「民法の一部を改正する法律案」の要綱を提出した。その法案要綱には、こうあった。

「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする」

ここで氏、といっているのが姓のことだ。法律用語では「姓」ではなく「氏」となる。しかし、自民党内から反対の声が強くて、国会提出には至らなかった。このときの反対論が、前述したような「家族ばらばら」「戸籍が崩壊」「子どもはどうするのか」だった。ちなみにこの法案では、子どもの氏は、婚姻の際に定めることとなっていた。

自民党に異論が強い一方で、野党は、別姓の制度化に積極的だった。

1997年に当時の民主党が、選択的夫婦別姓の導入をめざした民法の改正案を国会に提出している。しかし当然のことながら野党は少数だから、国会は通らない。

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与党である自民党内では、どうか?

次に大きな変化が起きたのは、2001年。自民党内で選択的夫婦別姓の議論が始まったのだ。このとき中心になっていたのは野田聖子氏。

だが依然として、党内の反対が強かった。そこで、推進派は翌2002年、「例外的」に夫婦別姓制度を認める案を考え出す。原則は夫婦同姓だが、特に必要な場合のみ家庭裁判所の許可を得て「例外的」に別姓とする、と。

このときの自民党は、小泉純一郎政権。後の安倍晋三政権に比べれば、保守色はそこまで強くなかったといえるだろう。夫婦別姓制度にも、当時の重鎮政治家たち、たとえば野中広務氏や加藤紘一氏などは賛成していた。そして当時、若手議員だった菅義偉首相も賛成していたのだ。けれども結局、法案が国会に提出されることはなかった。

その後、政治の場で別姓の議論はフリーズした。2015年には民法に定める夫婦同姓について最高裁で合憲判が出た。注目すべきは、最高裁の女性判事3名は全員が違憲とし、憲法24条の「個人の尊厳と両性の本質的平等」に違反しているとの意見を出したことだ。そして、「この種の制度のあり方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」と、国会に注文がつけられた。が、その後、民進党や立憲民主党が法案を国会に提出したものの、自民党の議論は起こらなかった。

なぜか? 安倍首相が夫婦別姓に反対だったから、というのが大きな理由だろう。

自民党内で異論が強いのは、有力な支持団体である宗教系の神社本庁などが、選択的夫婦別姓に強く反対しているからだ。彼らは、選挙の時の心強い味方なのである。

「旧姓を使い続けられる制度」の提案

だが安倍氏が辞職して、菅氏が首相に就任し、国会の代表質問で自民党の野田聖子氏、立憲民主党の枝野幸男氏が、選択的夫婦別姓を取り上げたのだ。また予算委員会でも議論され、菅首相は「私は政治家としてそうしたこと(※選択的夫婦別姓に賛成)を申し上げてきたことには責任がある」と述べた。橋本聖子男女共同参画相も、導入に前向きだ。

別の動きもあった。自民党の稲田朋美衆院議員が11月、国会の法務委員会で夫婦別姓ならぬ「婚前氏続称制度」を提案したのだ。稲田氏は保守派の論客だが、最近はシングルマザーの問題など、女性に関する政策を積極的に取り上げている。

稲田氏の提案は、結婚して夫の姓となった女性が離婚しても届け出をすれば、婚姻中の氏を使い続けられる制度がヒントになっている。

その裏返しというか、結婚して届け出をすれば、生まれながらの苗字を使い続けられるというものだ。いってみれば旧姓の通称使用も法的に位置づけるもので、だから、たとえばパスポートや銀行口座などは全て旧姓のままとなる。

さあ、そして今回、自民党内で第5次男女共同参画基本計画の原案についての議論が行われた。自民党内で了承されたものが、閣議決定されるという流れだ。

1回では結論がつかず、なんと4回にわたって延々と激論が交わされた。多くの議員が詰めかけて、2時間、3時間と熱気むんむんの会となった。もちろん、同計画には選択的夫婦別姓のことだけ書いてあるのではない。が、 議論は選択的夫婦別姓に集中した。

で、出てきたのが冒頭のような意見だ。

それから、「アンケートの取り方がおかしい」「日本社会を分断する」。さらには「特定のイデオロギー集団が国家を破壊しようとしている」「うちの嫁さんもそんなこと言わない」。果ては「(世界経済フォーラムが出しているジェンダーギャップ指数で日本のランキングが)121位だって確信している人、手を挙げてください。おかしいだろ」「世界のなかで一番日本が男女平等」……。

自民党ってやっぱり変わらないのか、とも思えたが、この話には続きがある。次回は、その変化の芽について取り上げたい。[中編は、明晩公開予定です]

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秋山訓子
朝日新聞編集委員。東京大学文学部卒業。ロンドン政治経済学院修士。朝日新聞入社後、政治部、経済部、AERA編集部などを経て現職。著書に『ゆっくりやさしく社会を変える NPOで輝く女たち』(講談社)、『女子プロレスラー小畑千代―闘う女の戦後史』(岩波書店)、『不思議の国会・政界用語ノート』(さくら舎)『女は「政治」に向かないの?』(講談社)など。

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