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はたして政治は多様性を大事にしているか?/シリーズ「夫婦別姓」を考える

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さて、前回ご紹介した自民党の選択的夫婦別姓議論。一見すると、自民党は20年前から、なかなか変わらない。政治で多様性を実現するのは難しいのかと思えるが、実は、そうではない世界も始まっている。今回はそれについて取り上げたい。

ようやく宿題に手を付けた自民党の内部

第5次男女共同参画基本計画の原案に選択的夫婦別姓が盛り込まれると、自民党内は紛糾。「家族が崩壊する」「社会を分断する」「子どもがかわいそう」「(選択的夫婦別姓を容認する人が多い)調査の仕方が恣意的」「戸籍が崩壊する」といった声が続出した。

長時間の議論が4回にわたって行われた結果、原案の表現はどんどん変わっていった。

最初は、選択的夫婦別氏制度(法律的には別氏制度)という言葉は使われていなかったものの、2ページにわたり説明があった。それが途中段階では短く変わり「選択的夫婦別氏制度の是非に関し(中略)検討を進める」となり……。

最終的には「夫婦の氏に関する具体的な制度のありかたに関し(中略)更なる検討を進める」で落ち着いた。選択的夫婦別氏の文字は消え、分量も10行程度に……これだけ見ると、大幅後退にみえる。

が、なかでの議論を見てみると、そうではない世界もあるようだ。

ある女性議員が、こう述べた。「ついに自民党でこの議論が始まったかと思うと、感慨深いものがあります」

そうなのだ。7年8カ月の安倍政権の間、自民党内では夫婦別姓の議論は全くなされなかった。最高裁で夫婦同姓は合憲とされながらも、「国会で議論すべき」と「宿題」が出ていたのに。もちろん、今回、たまたま安倍首相が退任した後というタイミングで、基本計画の改定の時期が来た、ということがある。が、「もし今、安倍首相がまだ在任していたら、ここまでの議論にはならなかったかもしれない」(若手男性議員)、「みんな安倍首相に忖度していた」(ベテラン女性議員)という面があるのだ。

結婚して苗字が変わる喪失感は相当なもの

議論の中ではこんな発言があった。

反対論が吹き荒れるなか、ある若手の男性議員がおずおずと「発言するのに勇気がいる」と前置きしながらも言った。「選択制ですから。選択する自由があっていいのではないでしょうか」

また、それまでの議論で、離婚が増えている現状をどうにかしなければ、というような意見が出ていたことに対して「私は離婚経験者です。離婚の自由があっていいと思います」

大臣経験者の女性議員は「結婚して、苗字が変わったときの喪失感と言ったら言葉では言い表せないほどつらいものだった。名前を変えてどこの家が不幸になるとか、ばらばらになるといいますが、それはそれぞれの家族が決めることです」

「家族の幸せがどうであるかは政治が口を出すべきではない。個人の幸せは一人ひとりの違いがある」と言った男性若手議員もいた。

女性若手議員は「私も離婚して息子と苗字が違います。息子と私に絆はあります。私たちを排除しないでください」

「通称使用は、手間がかかるとか、そんな簡単なものではない」と言った女性議員も。

つまり、若手の男性議員や女性議員の間で、今までの自民党では聞こえてこなかった声が出始めているのだ。この人たちの多くは、前回の議論、2002年の時にはまだ国会に登場していなかった。自民党内に構造変化が起き始めている、のかもしれない。

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多様性を大事にする政治でありたい

「家族の幸せがどうであるかは、政治が口を出すべきではない」と言ったのは武井俊輔衆院議員だ。宮崎選出で2012年初当選の3期目。45歳。武井氏に話を聞いた。

今回の結論については「政治にとって言葉は命です。まとめなければいけないので、ああなったのは理解しますが、大きく後退ととられても仕方ないですね。でも、今まで議論すらできなかったんですから、そう意味では自民党も変わりつつあるのかもしれない」

なぜ選択的夫婦別姓に賛成なのかといえば、「多様性を大事にする政治でありたいからです」

「多様性というのは、自分の思想信条を強要することではないと思うんです。人の生き方は強制されるものじゃない。たとえば、僕はコンタクトをしていますが、めがねの人もいますよね。でもめがねだろうがコンタクトだろうが、その違いは気にならないじゃないですか。そういう社会を作りたい。違いが違いとして顕在化しない社会、というか。僕は保守政治家だと思っているし、保守とは時代にあわせてしなやかに漸進、少しずつ変わっていくものだと考えています。どのデータを見たって、今の若者の過半数が選択的夫婦別姓を認めていると思うんですよ」

だが、反対派は選択的夫婦別姓に強固に反対する団体に支持されている。そういう意味で、賛成論を言うことにためらいはなかったのだろうか。

「多様性ある社会を作りたいと思って政治家になったのに、自分の思っていることを言えなくなったら、政治家である意味はないですから」

政治の役割は「生きづらさの解消」

党内の議論の中では「地方では別姓への拒否感が強い」という意見が出て、武井氏はそれにも「都会とか地方で分けることはやめてほしい」と異論を唱えた。

「僕の地元は宮崎、紛れもない地方です。都会だとか地方だとか、そういう次元の問題ではないです。むしろ、地方のほうが、地方の価値観のなかで自我を発揮するのに苦しい思い、生きづらさを抱えている人がいるのではないですか。生きづらさの解消が政治の役割です」

自民党内では、すでに若手男性議員が呼びかけた選択的夫婦別姓の勉強会も始まっている。武井氏もできるだけ参加しているという。

野党も、立憲民主党の代表である枝野幸男氏が「争点は選択的夫婦別姓」と話している。少しずつではあるが、多様性に向けて地殻変動が始まっている。選択的夫婦別姓の議論はようやく再スタートしたばかり。これが始まりなのだ。ゴールは、政治の多様性だ。[後編は、明晩公開予定です]

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秋山訓子
朝日新聞編集委員。東京大学文学部卒業。ロンドン政治経済学院修士。朝日新聞入社後、政治部、経済部、AERA編集部などを経て現職。著書に『ゆっくりやさしく社会を変える NPOで輝く女たち』(講談社)、『女子プロレスラー小畑千代―闘う女の戦後史』(岩波書店)、『不思議の国会・政界用語ノート』(さくら舎)『女は「政治」に向かないの?』(講談社)など。

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