ソーシャルデザインをテーマに、東京・渋谷を舞台に開かれる大型都市フェス「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA(ソーシャルイノベーションウィーク渋谷、以下SIW)2020」が、2020年11月7日~15日の9日間にわたり開催された。11月10日(火)に行われたセッション「Beyond Gender, Beyond Generation 多様性のある社会の作り方」では、現在の日本におけるジェンダーギャップが生む問題を、様々なバックグラウンドを持つ5人が語り合った。
もはや世界の後進国。日本の男女格差やばくない?
2019年の「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数(GGI)」(世界経済フォーラム)において、過去最低の153カ国中121位となった日本。GGIがスタートした2006年には86位だったことを考えると、日本の転落は著しいとジェンダー・国際協力専門家の大崎麻子氏は語る。
「日本がここまで世界に後れを取ったのは、アジア・中東・アフリカなど諸外国がものすごい早さで男女格差の解消を進めているからです。日本はとくに経済分野で男女間の賃金格差が激しく、女性管理職の割合も、女性の労働参加率も低い。政治分野に至ってはビリから数えたほうが早い、とよく言われます」(大崎氏)
女性閣僚の数も少なく、未だ女性の首相も誕生していない日本。政治経済を筆頭として多くの分野に「男性>女性」という構図があり、世界の後進国となっている事実に、日本人自身がようやく気づきはじめたというのが現状だと、モデレーターの今田素子(株式会社インフォバーングループ本社 代表取締役CEO・ファウンダー)も応じた。
“おじさんの同窓会”化が止まらない日本の経営者層
経営者や投資家が参加するカンファレンス「IVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)」代表の島川敏明氏も、こうした状況を肌で感じているという。
「ビジネスカンファレンスは身内ノリというか、いわゆる“おじさんの同窓会”という雰囲気になりやすい。僕が27歳でIVSの代表になったのは、そうした雰囲気を主催側のジェネレーションから変えていきたいという狙いもある。
そもそも日本の経営者層は、男女比が非常に偏っている。カンファレンスでも700人の登壇者がいたら、女性はそのうちの2~3人。主催側としても責任を感じていて、女性や若手の登壇者をもっと応援する、数を増やしていくといったメッセージやアプローチが必要だと痛感している」(島川氏)
がんばらないと女性が活躍できない社会はおかしい
こうした状況のなか、2019年に25歳で、株式会社GoodMorningの代表取締役社長となったのが酒向萌実氏だ。GoodMorningは、「社会課題の解決」というカテゴリーに特化したクラウドファンディングプラットフォーム。著名な連続起業家である家入一真氏に抜擢されたというニュース性もあいまって、就任時から多くの取材を受けるようになったと酒向氏は語る。
「女性としてリーダーになるということは、人数が少ないこともあって、とにかく目立つ。どうしてもロールモデルに自分がならざるを得ない、その責任を負わなければいけないのは、大きなプレッシャーだった。それが理由でリーダーになるのを躊躇する女性は、まだまだ多いのではと感じている。
男性にとっては、リーダーになることイコール、ロールモデルになることではない。追随できるロールモデルが常にあって、一緒に走っている人もたぶんたくさんいて、女性ほどの怖さは感じないのでは、と思った」(酒向氏)
酒向氏の言葉を受けて、モデレーターの今田も「男女雇用機会均等法の第一世代の私たちは、めちゃくちゃ働いたとか、家庭を犠牲にしてきたという女性が多く、ロールモデルにはなれないとよく話しています。こんなにがんばらないと、女性が仕事を続けられない社会はおかしい。もっとしなやかに、プレッシャーを感じすぎずに、女性リーダーが活躍できる社会にできたら……」と頷く。
女性の国会議員は、なぜ少ないまま?
2人の話を「身につまされながら聞いていました」と語るのは、つくば市長の五十嵐立青氏だ。「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」において、国会議員や閣僚の男女比を示す日本の政治参加分野の順位は、153カ国中144位。そもそも女性国会議員の数が非常に少なく、衆議院という地元に根差した国会議員として選ばれる女性は1割もいない。さらに子育て中の女性議員となると、数人しかいないと話す。
「これは世の中のバランスが崩れていると言わざるを得ない。2019年に候補者男女均等法ができましたが、しょせんは努力目標。国会にもまだ大きな変化は起きていないと思う。やはり、何らかの強制力かインセンティブがないと、男女格差は変わらない。つくば市もまだまだこれからという状況」(五十嵐氏)
五十嵐氏がつくば市の女性職員に話を聞いたところ、管理職への昇進を希望しない女性の多くは、子育てや介護を集中的にしているという現状があったという。
「また、書類の形式にも問題があった。昇進希望者は“昇進を希望する”という欄にチェックをする形だったが、チェックすると上司の目が変わるという話もあって。そこで、“昇進を希望しない”場合のみ理由を明記してチェックする形にしたところ、昇進希望者の割合が増えた」(五十嵐氏)
さらにつくば市では、男性職員の2週間以上の育休取得100%を目指している。4年前に五十嵐氏が市長になったときは4%だったが、現在はほぼ10倍の取得率となったという。
「2週間で何がわかるという意見もある。でも、そのなかでいかに自分が家事や子育てを甘く見ていたか、そんなの余裕だと思っていたかということも含めて、男性職員に感じてほしい。それをほかの職員に話してもらう機会も作ったりしている」(五十嵐氏)
「無償ケア労働」の再分配はできるのか?
日本におけるジャンダーギャップをなくすために、私たちはどんなアクションをとればいいのだろうか。 Gender Action Platform理事であり、UN Women/ILO/EU協調プロジェクト「WE EMPOWER」日本コーディネーターの大崎麻子氏が、一番の障壁だと話すのが「無償ケア労働」だ。家事、育児、介護、看護といった人間の生存と直結する労働や、社会の生産活動を下支えしている労働を主に女性が担っているという問題だ。
「この責任をインフラやテクノロジーを使って軽減すると共に、重要なのが“再分配”。今まで女性が個人で担ってきたことを、家庭内で、男女間で再分配すること。さらに家庭だけで担うのではなく、公共や民間企業など社会全体で再分配すること」(大崎氏)
女性に対する暴力の根絶、無償ケア労働の再分配、そして、意思決定ポジションへの女性の登用を増やすこと。この3つの柱が、ジェンダーギャップの解決には不可欠だと大崎氏。
「そのうえで意識改革も必要。“花を添える”といわれる役割や補佐的な役割など、無意識に“女性向き”とされるポジションがある。仕事の割り振りや昇進にも、そういったアンコンシャスバイアスが関わってくる。そこに気づくことが重要」(大崎氏)
日本文化に潜在的に根づいているアンコンシャスバイアス。その違和感を察知する人をもっと増やしていかなければいけない、と島川氏も指摘する。
「小規模なスタートアップでは、同質な人が集まったほうが意思疎通がしやすく、一点突破できる。しかし組織が大きくなり、リスクも大きくなると、ダイバーシティ(多様性)がなければ立ち向かうことができない。それは今の日本も同じ。フェーズの移り変わりを強く意識しなくては」(島川氏)
世界が猛スピードで変わりはじめた今、日本がサステナブルに成長するためにはジェンダーギャップの解消が欠かせない。一人ひとりが当事者として変化を起こすべき時なのだと、改めて感じさせてくれたセッションだった。
[ SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA ](画像提供/SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA)
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